第一段階です!
説明をし終わると、お兄様は立ち、魔話水晶を持ってきた。
「事情は分かった。だけどこれを貸してしまえば、生徒組織会長直々に校則違反の手助けをしてしまうことになる」
「ですが!」
「────」
お兄様は指を唇の前で立てた。私が一旦静かになったところで、もう一度話し始めた。
「だけど、僕がうっかりこのカップの中の紅茶を手にかけてしまい、あまりの熱さに先程聞いた内容を忘れ、お父様達に伝話をすることを思い出したら、校則違反の手助けにはならない」
お兄様は自分の手に紅茶をかけた。
レンちゃんが慌ててハンカチを差し出した。
「ありがとうございます、ストルさん。ハンカチはまた今度洗って返しますね」
「い、いえ、結構です!」
「借りたものを返すのは礼儀です。そこに貴族も平民もありませんよ。
それでリア、なんの話だったけ? すっかり忘れてしまったよ。あ、そうそう、今日はテスト前日だからお父様と話そうと思ってたんだけど、リアも話すかい?」
本当に、このお兄様は優しすぎる。
「はい、ぜひ」
「それじゃあ、魔力を貯めるから少し待っててね」
お兄様が水晶に手をかざすと、水晶は光を帯び始めた。
光り輝く水晶を動かすと、我が家と繋がったらしく、お父様の声がした。
「カーター・フレーバです。お父様、お久しぶりです」
「おお、カーターか。久しいな、明日はテストだろう?」
「はい、今回のテストの結果も期待していただければと思います。それとお父様、本日はリアがこちらにいらしておりますので、久しぶりにお話などいかがでしょうか?」
「なんと、マードリアがいるのか⁉︎ マードリア、そこにいるのか?」
少々興奮気味のお父様の声が聞こえる。
「今代わりますね。──それじゃあリア、僕は他に用事があるから少しここを外すね。ストルさん、リアをお願いします」
「は、はい」
「お兄様、ありがとうございます」
お兄様はその優しい笑みを私たちに見せると、部屋を出た。
「お久しぶりです、お父様」
「おおリア、久しぶりだな。いろいろとあったみたいだが楽しくやっているかい?」
「はい、友人やお兄様達のおかげで楽しい学園生活を送っております」
「そうか、それは何よりだ。それで、何か用でもあったのかね? こんな時期にわざわざ生徒組織に訪れるなんて、ただごとじゃないのだろう」
さすが私の親だ。私のことはお見通しか。
「ジェリーと話したいのですが、よろしいですか?」
「父さん達は外した方がいいか?」
「……はい、できれば」
「分かった、少し待ってなさい」
そして、さほど待たずにジェリーの声が聞こえた。
「どうなさいましたか? マードリア様」
「ジェリーにお願いがあるの。テスト最終日の十五時頃、お父様達に内緒で学園の近くまで馬車を用意してほしいの。隠れての外出だから、あまり目立たない場所でお願いしたい」
何か言われるかも。そう思ったが、ジェリーの返事はわたしの予想したものとは真反対だった。
「分かりました」
「何も、聞かないの?」
「はい、聞きません。マードリア様のことです、きっと、一秒でも惜しい状況なのでしょう」
ああ、本当に、どうして私はこんなにも恵まれているのだろう。
「ありがとう、ジェリー」
「また会う日をお待ちしております」
そして、魔力がそこを尽きたため通話が切れた。
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