表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/112

永遠の約束です

 こっそりと窓から侵入し、音を立てずに階段を降りる。

リビングから二人の話し声が聞こえてきた。普段なら無視をするのだが、今回ばかりはそういうわけにもいかなかった。


「信じられない、それじゃあ私とは遊びだったってことじゃん!」

「違う! 別に遊びだったわけじゃねえ! ただ、本当は別にお前のこと好きだったわけじゃないんだ。いや、好きだよ、好きだけど、友達としてだったんだ」

「意味わかんない。あんたが先に私に好きって言ってきたんじゃん! 告白だって……」

「あれは、ただの罰ゲームだったんだよ。ゲームで負けた奴が、お前に一週間好きって言い続けて告白するって罰ゲーム。でも勘違いしないでくれ、俺、本当に友達としては好きだったから、俺の好きって言葉に嘘はないんだ。それに、罰ゲームはお前に振られるってことが前提だったんだ! お前美人だし、成績優秀で今まで何人も振ってきたか──!」


場が凍った。いや、私は二人とは違う場所にいるから、空気が()てついたって方が言葉的にはいいのかも。二人のことは見えないけど、音的にお姉ちゃんが俊哉(しゅんや)お兄ちゃんを叩いた音だ。


「私は、本当に俊哉のことが好きだった! 心の底から大好きだった。それなのに何? 罰ゲーム? 振られるのが前提? ふざけないで! あんたは友達としての好きだったかもしれないけど、私の好きは愛だったんだよ。そんな軽はずみに好きだなんて言わないでよ、あんたの勝手な都合で私の好きを踏みにじらないでよ! 本当、最低」

「……ごめん」

「消えて、もう二度と私の前に姿を現さないで」


俊哉お兄ちゃんがドアに近づいてくるのが分かる。私は慌てて階段の影に隠れた。


「本当に、悪かった」


俊哉お兄ちゃんは最後にそう告げると、家から出ていく。


 私はドアが完全に閉まる前に、俊哉お兄ちゃんを追いかける。


あんなに怒ったお姉ちゃんを見たことがない。

だから、どうしてそうなったのか知りたかった。


「俊哉お兄ちゃん!」


俊哉お兄ちゃんの足が止まる。

私は俊哉お兄ちゃんに駆け寄る。


「ねえお兄ちゃん、どうしてお姉ちゃんを怒らせたの?」


俊哉お兄ちゃんは屈んで、私に目線を合わせ、悲しそうに笑った。


「もう、偽るのが嫌になったんだよ。俺の好きと、涼華(すずか)の好きは違う。俺はな、涼華のことが好きだ。でもな、涼華の好きとは違うんだ。だけど、いつかは俺の好きも涼華と同じものになるんじゃないかって思っていた。けど、無理だったんだ。

俺じゃあ、涼華を愛せない。それは、涼華にとって辛いことになる。

だから、全てを打ち明けて、別れた。

だからな凛花ちゃん、俺はもうお兄ちゃんじゃない。俺はもう来ないよ。

凛花ちゃんも、()()には気をつけてな。

好きって言葉は、時には人を喜ばせ、時には人を傷つけるから。俺は深い傷を負わせちゃったから、凛花ちゃんにはそうならないで欲しい。俺を反面教師にしてくれ。

じゃあ、元気でな」


俊哉お兄ちゃんはお姉ちゃんとは違うゴツゴツとした大きな手で、私の頭を丁寧に撫でた。


 家に戻ると、お姉ちゃんが泣いていた。

私はこっそり電池を取りに行こうとしたが、見つかってしまった。


「凛花、ずっといた?」

「途中から……」

「そっか。ゆうちゃんとまだ遊びたい?」


顔は涙でぐしょぐしょで、目は赤く腫れているが、その笑顔はいつもの笑顔だ。それが逆に、お姉ちゃんの傷の深さを感じさせている。


「ううん、お姉ちゃんといる。ゆうちゃんには話してくる」


すぐにゆうちゃんに遊べなくなったことを言うと


「分かった」


とだけいい、後は何も聞いてこなかった。

お姉ちゃんとは特に何も話したりはしなかった。ただずっと側にいるだけ、それだけだった。


 お父さんとお母さんが帰ってくる頃には、いつものお姉ちゃんになっていた。

不幸中の幸いか、お姉ちゃんは俊哉お兄ちゃんのことをお父さんにもお母さんにも話していないから、話題に上がることはなかった。


「お姉ちゃん、一緒に寝ていい?」

「うん、いいよ。おいで」


お姉ちゃんはベッドの端にずれる。

いつもと違って元気のないお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんと少しでも離れてしまうと、いなくなってしまうのではと不安になる。


「大丈夫だよ、しばらくしたらちゃんと元通りになるから」


お姉ちゃんは私の気持ちを汲み取ったのか、そんな言葉を言い、俊哉お兄ちゃんとは違う柔らかく細い手で私の頭を優しく撫でる。


「凛花」

「何、お姉ちゃん?」

「人と付き合う時は、同じ気持ちかどうかをちゃんと見極めなよ。愛のない恋愛なんて、誰も幸せになれないけど、不幸にはなるから。

それと、人からの好意も。

自分にとってはどう考えても好意ある言動かもしれないけど、相手にとってはなんともないただのスキンシップとか、おふざけの可能性もあるから、あんまり期待しないようにね」

「うん、分かった」

「うん、偉い偉い。でも、凛花も言動には気をつけるんだよ。相手を期待させるような言動はふざけてでもしない。忘れないでね」

「うん、約束する」

「約束だよ」


布団の中で私達は小指を絡めて約束した。

来世まで続く約束を。

次話 本日中


過去編終わり! マードリアが恋愛面で信じられないほど鈍感な理由も語れたのでよかったです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ