ピンチに陥っているようです
なんだろう、誰か走ってるのかな?
「レンちゃん、聞こえる?」
「外ですか? はい、聞こえますよ」
「近づいてきてるよね?」
「はい、きてます」
音の正体はたぶん、いや、絶対あの人だろう。
テスト前の恒例行事だ。
「レンちゃん、ドア少し開けてあげて」
「──? 分かりました」
レンちゃんがドアをほんの少し開けた瞬間、ものすごい勢いで開いた。
「きゃっ!」
「うわ、ごめんレン!」
これが少女漫画とかなら、恋の始まりになるような状況だ。
レンちゃんは勢いに逆らえず、ガーラとぶつかった。
「だ、大丈夫です。て、ガーラちゃん? どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないんだ! ピンチなんだよ!」
「ピンチ?」
教科書に筆記用具、それにノート。やっぱり、いつも通りだ。
転生しても相変わらずでなんだか安心する。いや、むしろ何十年経っても変わらない事を心配するべきなのか?
「勉強教えてほしいの?」
「そう、そうなんだよ! 来週試験ってことさっき知ったんだよ!」
「先生言ってたじゃん、来週試験あるって。ね、レンちゃん」
「は、はい、言ってました」
「いや、知ってたよ、知ってたんだけど、チコが何も勉強しないからまだなのかと思っていたんだよ!」
ああ、なるほど。ガーラはまんまとチコの罠にハマってしまったのか。
「ガーラ、チコはね、ああ見えて要領と記憶力はいいんだよ。だから、ギリギリに勉強しても九割は余裕で取るんだよ」
「そんなの卑怯だ、チーターだ!」
「チ、チーター?」
「規格外ってことだよ」
ま、あんなチコの様子を見てるとそうなるよね。私もそうだったし、アイリーン様なんて自分の頭がおかしくなったのか疑いだしてたし。
いやでも、このSクラスにいるんだから少しくらいその可能性は考えるでしょ。
「とりあえずマードリア、レン、勉強教えて!」
「だってレンちゃん、どうする?」
「え、ええっと、マードリア様がよろしければ私は構いませんよ」
「だってガーラ、レンちゃんにお礼言いなよ。とりあえず、基礎テストするから、私が指定する問題解いて」
「心より感謝いたします」
ガーラは土下座した。そこまでするんだから、絶対また賭け事してるな。
「それじゃあ、魔法技能からね。まずはこのマークがついてる問題解いて」
「はい」
ガーラが解いている間、私は暗記系の勉強をする。
「できました」
「おお、早いじゃん」
早く終わったことで嫌な予感がしたが、それは間違いなかった。
出された答案は白紙。インクが一滴も落ちていなかった。
「……ガーラ、真剣にやろう」
「やってます」
本当に真剣にやっていたみたいだ。
ガーラは勉強が苦手だが、ここまで酷いのはみたことがない。
「あの、ガーラちゃん、その、どうやってSクラスに入ったの?」
「あの時のボクはガーラであってボクじゃないから」
レンちゃんが混乱してる。当たり前だ。
レンちゃんが一生分かりえない問題を解いている間に、一つ一つ丁寧に教えるが──
「何言ってるか意味がわからない」
そりゃそうだよ。だって、一足す一を教えてるようなものだもん。そもそもガーラは、おそらく試験後に転生した、もっといえば、チコとお互い自己紹介するらへんで転生したと考えられる。
そんな人がいきなり魔法のことを説明されたところで、理解できるはずがない。
この世界の人たちに化学式を説明するのと同じくらい難しいことだと思う。いや、そもそも化学自体を説明するとかそういう次元の話な気がする。
ここはもう、この世界屈指の優秀な方に任せるしかない。
「ガーラ、悪いけど私はもうお手上げ。リリーに頼って」
「リリーの部屋に行ったけどいなかったんだよ。代わりにアイリーンに教えてもらったんだけど、レンと同じこと言われて、マードリアと同じように諦められた」
「じゃあチコは?」
ガーラは呆れたような目でこちらを見てきた。
「なんでチコと賭け事してるのに教えてもらわないといけないのさ。それに、チコにだけは頼りたくない」
ガーラの気持ち、なんとなく分かってしまう自分がいる。
分かるよ、私もなんかチコにそういう真面目なことは頼みたくない。
というよりも、チコは教えるの下手そうという偏見がある。たぶんガーラも同じ。
「仕方ない。アイリーン様に、リリーがどこに行ったか聞いてない?」
「図書館だって」
「じゃあリリーを連れてこよう。レンちゃん、私達ちょっと行ってくるね」
「あ、はい!」
未だに答えの出ないレンちゃんに、一言だけ助言する。
「レンちゃん、考えるだけ無駄だよ。世の中には時間を無駄にする問いなんてたくさんあるんだから。特にガーラのことなんて」
それだけ言って、私達は外に出る。
次話 本日中
試験話今日中に終わらせたいな。




