王太子はやらかした
その庭園はとても綺麗だった。
シェラリア王国の最高の技術をもつ庭師たちは、いつ見ても美しくあるようにと、魔法と地道な手作業で庭園を整えていた。
王国一の美しさを誇るこの場所は、王族と王族が認めた者しか入ることができない。
「禁域だからこそ、魔道カメラの、全国及び近隣国の生中継の試験運用の場所に選ばれたわけですね」
国の重要式典、国王陛下によるお言葉を地方に住む者たちにも見せてあげたいという理由で開発されたのだ。
王都や地方の領主館の門前や広場に、100以上の受信モニターが設置された。
「薔薇が綺麗な映像でしたね」
私ユーリ・カーティスは、来客を前に紅茶を一口飲んだ。
来客は男2人。魔道カメラの試験運用の担当者である王城の広報官と、王太子の側近。2人とも青い顔をして俯いている。
我が公爵家の広く豪華な応接間に、沈黙が広がる。
私の言葉に返事しないのね。
公爵令嬢で王太子の婚約者である私は、あなたたちより立場が上だと思うのだけれど。
まあ、悪気も余裕もないのはわかっているから、怒ったりしないけれど。
なぜなら、私も「見ていた」から。
そして、国民のほとんども「見ている」
中継用魔道カメラの受信モニターの上位機種には録画機能がある。近隣国の王族の元に進呈したのがそうだ。
王国魔道士の叡智の結晶だった。
綺麗な薔薇、小さく呟いた広報官は膝の上に置いた拳を握りしめた。
「映す予定だったのは、普段立ち入れない王国自慢の美しい庭園と、その中を散歩する高貴なお方、庭園維持のための裏方の努力だったんです」
広報官は映してしまった責任を取らされるのかもしれない。
彼は何も悪くないのに。
生中継の日程とカメラの位置は、王族にしっかり伝えられたはずだ。準王族にあたる私も知っていた。
あのアホは忘れてしまったのか、そもそも覚えることができなかったのか。
アレはやらかしたのだ。
庭園の入り口には警備員がいるはずだが、まさか彼らも王太子が生中継のことを知らずに入ったとは思わなかったのだろう。
王太子がとんでもないバカだとは、ふつう思わないから。
魔道カメラの場所は、3カ所用意された。5分ごとに変わる仕様になっていた。1時間ほど中継し、魔力の送受信や機器の不具合の確認を行なっていた。
「大規模な生中継は、『半分は』成功でしたわね」
映像はしっかりと隅々まで鮮明に映っていた。1時間しっかりと。
とんでもないものが映っていることに気づいた担当者は、中継を終わらせようとしたものの、「1時間の中継」という事前に設定されたプログラムを変更できなかったらしい。
強制的に終わらせようとすると、生活インフラに関することまで止まってしまう恐れがあるそうだ。
ならばと王太子を止めようとしたが、デートを邪魔されたくない王太子により結界が張られていて入れなかったのだ。結界破ったら王太子で処刑するぞと、強い意志を感じる結界だったのだ。
「魔道士たちの有能さと無能さが、悪い意味で発揮されました」
重いため息を付いた王太子の側近は、両手で顔を覆った。
そうですわね。
側近の言葉に、私も広報官も頷いた。
1時間の生中継を思い出す。
世界中で王国でしか咲かないという空色のような青薔薇が咲き誇る一角。
王太子は恋人のイケメン俳優(平民。王城に入ることすら難しい)とお互いの腰に手を廻し、体を密着させながら歩いていた。
凝った装飾の噴水は、晴れた日には鮮やかな虹が掛かっている。
王太子は恋人の侯爵令息(たしか妹姫の婚約者の友達だったはず)と、虹を背景に熱い抱擁を見せつけていた。
ガラス張りの温室には、遠い国の花々が咲き、変わった色彩の鳥が飛び回っている。
王太子は恋人の側近(今目の前にいる奴ではない)とは、ベンチで半裸で⋯⋯ノーコメント。
たった1時間で3人とデートしていた色ボケ男が、この国の王太子であり、次の国王になるのだ。
いや、なっちゃダメだろう。
「ところでお二人がこちらに来たのは、殿下の廃嫡と私との婚約破棄が決まったことの報告かしら?」
私は、今日一番の、いえ今まで生きてきた中で一番の笑顔を2人に向けた。




