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パパの中のパパ  作者: クラウンエーテル
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〜はじめに〜


平成28年の夏。

ここは、とある警察署の留置場。



タカシはここで看守として働いている警察官であった。

タカシは牢の中にいるケイタ(仮名)から話しかけられていた。


「ねえ、担当さん。看守さん。俺です、ケイタです。」


留置場の中では、看守は担当と呼ばれることが多い。

ケイタもタカシの事を『担当さん』と呼んでいた。

ケイタは次のように話を切り出した。


「俺、もう捕まりたくないんです。真面目に生きたいんです。大好きな彼女がいて妊娠させちゃって。産まれてくる子供のためにも、良い父親になりたいんです。」


「そっか、父親になるのか。」


タカシの言葉にケイタは頷くと、更に話を続けた。


「俺、物心ついた時に両親が離婚して、父親がいない中で育ちました。だから、自分がどうやって父親をすればいいのかがわからないんです。

父親って・・・何ですか?」



ケイタは1日1犯罪以上のペースで悪いことをしてきたかなりのワルであった。

留置場に入れられてもそんなに反省している素振りは見られなかったケイタだったが、その日は彼女と面会して初めて自分を見つめ直したのだろう。


タカシもいつになく真面目に語り出した。

「ケイタ。俺は、父親とは、世界一強く子供達の幸せを願う人のことだと思う。」


「子供達の幸せを願う?」


「そう。世界一、強くね。」


タカシの言葉に、ケイタはハッとした表情を浮かべて答えた。


「・・・そっか。俺は本気で他の人の幸せなんて願ったことがなかった」


「そっか。」


「人の幸せを願う・・・時々音楽の歌詞で聴くけど実感が沸かなかった。」


「ケイタは、人の幸せを願う、って難しいことだと思う?」


「俺は今まで考えたことなかった。でも難しいと思う。強くなくっちゃできないと思う。」


「その通り。ケイタ、よくわかってるじゃん。人として強くなれる?」


「なるしかない。彼女と娘のために。

担当さん、アドバイスありがとう。」

ケイタが珍しく礼を言った。


タカシは更に話を続けた。


「世界で一番子供達の幸せを願えば、きっと子供達もパパのことを世界で一番カッコイイと感じるようになるよ。世界中どこでも同じなんじゃない。」


「担当さん、良いこと言うね。

そうかもしれない。

人の幸せを願える男、カッコいい。

自分の父親がそんな男だったらマジでリスペクト。

『カッコイイ』って、そういうことなんだね。」


「そう言ってくれれば嬉しいかな。」


「俺、カッコイイ父親になれるように頑張る。」

ケイタは笑みを浮かべながら答えた。


タカシは、ケイタに尋ねた。


「ケイタは、自分の父親に会いたい?」


「会いたい。すごく会いたい。今はヤクザで大阪にいるらしいけど、それでも会いたい。」


「会えればいいな。」


「担当さん、俺、ここ出れたら、外の世界に戻れたら、自分の父親にも会いに行こうと思う。」


「何でそう思う?父親に会いたいと思う?」


「俺、本当はずっと父親に会いたかった。小さい頃、お姉ちゃんが父親がわりに遊んでくれた。それはそれでとても感謝してる。でも、本当の父親がいてくれたら、一緒に遊んでくれたら、ってずっと思って生きてきた。父親がいる家庭が心底羨ましかった。」

ケイタは涙を浮かべながら話していた。


「そうか・・・本当に会えたらいいな。」

タカシは呟いた。


「会えれば俺の人生変わると思う。中学1年の時、一度だけ母親に『どうしても父親に会いたい』って言ったら、母親が泣き崩れちゃって。それ以来、誰にもそんなこと言えずに生きてきた。」


「それは辛かったな。」


「でも、大人になった今なら、1人で会いに行ける。」


「ところで、ケイタのお父さんが暴力振るったりしてたから別れたの?」


「そういう訳じゃないらしい。ヤクザだけどね。お姉ちゃんが言ってた。だから、その理由も父親から聞きたい。」


「・・・そうだな。本当会えたらいいな。」


「うん」




・・・こんなやりとりだったらしい。



―――――――――――――――――――――――――



今回の小説は、タカシの話である。


俺とタカシは学生の時に会った。

よく遊びに行き、よく飲んだ仲だ。

最初はタカシのことをヘラヘラしてて単なる軽い奴だと思っていた。


でも、タカシは普通のヘラヘラ男と、ちょっとだけ違う。


タカシは生物化学の研究者を目指していたことがあるが、科学者にはならず、今は警察官である。


科学の知識がある警察官。無心論者であり、神仏からは最も遠い存在かもしれない。

でも、タカシは、神とか仏とか関係なしに、人として最も大事なことがわかってるヤツだと思う。


冒頭のケイタともやりとりも、タカシらしさが出ている。


実は、俺もタカシに救われたことがあった。




そんなタカシが、極めて理不尽に自分の子供達と会えない状態が続いている。

決してタカシのせいではない。

でも自分の子供達と引き離されてしまったのだ。

先進国の日本でこんなことがあって良いのか、と思う事態だ。


でも、調べてみると、日本にはタカシみたいに理不尽極まりなく自分の子供達と会えなくなってしまう父親は沢山いて、今現在も増え続けていることがわかった。


かつて俺を救ってくれたタカシのために、今こそ何か恩返しをしたい、と強く思った。


そこで、タカシのために・・・そして、世の中に沢山いるタカシと同じ境遇の父親とその子供達のために・・・この小説を書くことにした。



―――――――――――――――――――――――――


※警察官であるタカシの本名や素性、タカシと特定できる内容は記載できませんが、どうかご容赦ください。

ちなみに小説内では、『タカシ』と呼称してますが、本当は何て呼んでるかも秘密です。

ここでは、タカシの仮名として『青山貴士』としておきます。


この小説はタカシ自身にも秘密にしてます。

きっとタカシはこれを読んで、とても恥ずかしがるからです。


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