7.訓練とは地味で辛いもの2
夏休みが始まって一週間。
レオンはハードな訓練にもめげずに今日も頑張っている。
マコトはそれを横目で見つつ本を読んでいる。剛剣の使い手になるのに必要なパワーを身に付けるために素振りや走り込み、筋トレなどの体を鍛える内容が多いので基本的にこちらが何かすることはない。
唯一、訓練で手伝うとしたら気配で攻撃を躱すといったものぐらいだ。
これはマコトが行う攻撃をレオンが目隠しをしている状態で躱すのだ。気配で人の位置や攻撃などを認識するためにあるようだが、そんなことが可能なのだろうか。今のところレオンはただただ殴られ続けている。
マコトは武人ではないので訓練指導をするときはスキルである『指南』を使うわけだが、訓練にどのような効果があるのかを知っているわけだが、それを体験したり結果を見ているわけじゃないので本当にそうなのか半信半疑ではある。
ともあれ、訓練自体は順調にいっているので問題はない。
「マコト~!」
そこにコルナが駆け足でこちらに来る。
「どうした、昼飯にはまだ早いが」
「マコトにお客さんが来たよ」
「客?ヴァイオスか?」
そう言いつつもマコトはその可能性を否定していた。
(俺のところに来そうなのと言えばあいつだけだがそれならばコルナがヴァイオスの名前を出すはずだ。わざわざ客というはずが無い)
「えっとね、マコトの生徒だって言ってたよ」
「生徒?」
門のところにいるとコルナに言われたのでレオンに訓練を続けるように言って、門の方を向かってみるとそこには二人いた。
「お前だったのか、メア」
「はい、お久しぶりです!」
マジカルゴから帰ってきてまだそんなに経っていないのに懐かしく感じる。
そして、マコトはもう一人の訪問者にも目を向ける。
「それで、えっと・・・名前何だっけ?」
「ステインです」
「あぁ~、思い出した。優等生君じゃん」
ミレイやゴレイムがほめていた子だ。マコトが担当していたA組にいたが関わり合いが少なかったのですっかり忘れていたのだ。
「んで、お前らなんでここにいんの?」
マコトとしては純粋な疑問だったのだが、メアはひどく驚いた顔をしている。
「何でって先生に修行をつけてもらうためですよ!約束したじゃないですか!」
確かに別れ際に約束はした。だが、まさかそのためにここに来るとは思わないだろ。
「じゃあ、優等生君は?」
「僕も同じ内容です。それと僕の名前はステインです」
眼鏡をクイッと上げて答えるが、なぜわざわざ自分のところに来るのかがわからない。
メアには確かにまた修行をつけてやるとは言った。まさかここに来るとは思っていなかったがそれはひとまず置いとくとして、こいつに同じようなことを言っただろうか。いや、言ってないはずだ。
「なんで俺なんだよ。ゴレイム先生とかいるだろ」
マコトに魔力がないことは最初の授業の時に言っている。そんな魔法を使えない奴のところに来るよりも学校の先生に教わったほうがよっぽど有意義というものだ。
「魔弾合戦の時、僕はメアの魔弾を見て驚きました。まさか本当に魔力コントロールを出来るようなっていたことを。それもたった三週間で」
確かにあの場にいた奴らは全員信じられないって表情をしていたなと思い返す。
「あれから、まるで別人かと言いたくなるぐらい魔法の実技でもいい結果をたたき出して、クラスでも上位の成績者となりました。それを見て僕もあなたの訓練を受けたいと思いました。そして、夏休みが始まる前にメアがあなたのところに行くと聞いたので無理言って同行させてもらいました」
そして、ステインは一呼吸間を空けると
「お願いします、僕に訓練をつけてください。僕はもっと強くなりたいんです」
頭を下げてきた。
特に断る理由はない。だが、どうしても確認しておかなければならないことがる。
「一つ聞かせろ。なんで強くなりてぇんだ」
自分の下に来た理由は分かった。しかし、わざわざここまで来て強くなりたい理由が分からなかった。
ステインはしばし黙った後に下にうつむいてポツリポツリと喋り始める。
「・・・僕の両親と姉は幼いころに賊によって殺されました」
「えっ!?」
メアは驚いて目を見開いている。
「夜は更けたころ賊が家に入ってきた時、僕は気づいていました。ですが僕には何も力はなく賊に怯えてベッドの下に隠れて震えていました。そして、夜が明けて両親や姉のもとにいこうと部屋出て両親の寝室へと向かうと床や壁が血で汚れていて、僕は真っ赤に染まった部屋を見て、怖くなって自分の部屋に閉じこもりました。その後、僕の家に訪れた人が部屋の有様などを見て騎士に通報し僕は保護されました」
ステインはその時のことを思い出したのか拳を固く握りしめていた。
「騎士に助けられた僕は誓ったんです。強くなろうと」
「・・・復讐のためにか?」
「違います。もう二度と自分の前から大切なものを失わないように、どんなことがあっても僕が守れるぐらい強くなろうと誓ったんです」
ステインは握りしめていた拳を緩める。力強く握りしめていたせいかそこから少し血が流れていた。
「なので、どうか僕を強くしてください」
再びステインは頭を下げる。
(こんな身の上話を聞いて断るやつはいねぇだろ・・・)
「分かった。俺でよければ出来る限りやろう」
「!ありがとうございます!」
ステインは顔を上げて礼を言ってくる。メアはまるで自分のことのようにはしゃいでいる。
「とりあえず、お前らここまで来るのに疲れたろ。今日はゆっくり休んで、明日から訓練開始な」
「「わかりました」」
メアとステインは街の方へと向かう。
(しかし、まさか三人も訓練をしなきゃいけなくなるとは・・・)
マコトは密かにため息をつく。
そして、なるようになるさと思いながら屋敷へと戻ろうとして、街に向かおうとしていたメア達が立ち止まっていることに気付く。
「おい、どうした?」
「・・・先生・・・私たち、ここに来ることだけを考えていて、ご飯や宿泊のことを全く考えてませんでした」
「・・・つまり、行く当てがないってことか?それなら、宿ぐらい紹介するが・・・」
「いえ、行き帰りの路銀はあるんですが、行き帰り分しかなくそのほかのことに使うと帰れなくなります」
メア達とマコトの間に沈黙が訪れる。
「何やってんだ、お前ら!」
「だ、だって仕方ないじゃないですか!久しぶりに先生に会えると思ったら嬉しくなっちゃって」
「僕は訓練してくれるかどうかだけを考えてました」
この場合、どうするべきなのかを考える。
(金を貸してどこかに止まらせるべきか。いや、この国の地理に不案内なこの二人だけにすると迷子になりそうだし、最悪の場合は人さらいに遭う可能性も出てくるか)
かくなるうえは・・・
「とりあえず、クオリアに屋敷に泊まっていいか聞いてみよう」
これが一番安心で安全な対処方法だ。




