6.落ちこぼれ
交換教師、三日目
今日はマコトの授業はない、が副担任なので行かなければならない。
クオリアたちはシェリーと一緒に買い物するとか。正直、買い物には興味はないが観光はしてみたいので暇が欲しい。ちなみにティナもクオリアたちと一緒にいる。
ノワール学院は日曜日は休みなのでその時に思う存分観光するとしよう。
「・・・このように魔道具とは、事前に溜めている魔力を利用して魔法を発動します。物によりますが大概のものは丸一日は持つほどの魔力を溜めこむことが出来ます。そして・・・」
現在はミレイの授業だ。
担当科目は魔法工学で今は魔道具の仕組みについて教えている。
他の科目は興味はないが魔法工学に関しては魔道具などの授業が多いので結構楽しみだ。
「・・・はい、それでは今日の授業はここまでです。家に帰ったらしっかり復習してくださいね」
「「はーい」」
生徒たちは皆、だらんと崩れている。
この後の科目は、言語学に魔法歴史学、昼休憩挟んだのちに魔法実技二講分となっている。この学院では、午前三講、午後二講、計五講となっている。途中十分休みを取り授業を行っており、日本とさして変わらない授業システムだ。
授業時間も日本と変わらないので問題ないのだが、現状一つ問題を抱えている。
「先生!」
「ん?なんだ」
「この水を出す魔道具に書かれている術式がよく分かんねんだけど、教えてくれよ」
「あぁ、ここはだなこの文字が水の意味で、その隣が放出、そしてこれが出力の操作の意味だ。術式は一つ一つの意味を理解しながら解けば楽だぞ」
「ありがとう、先生!」
「先生!私にも教えて!」
「私も私も!」
こんな感じで十分休みの間に行列ができる。
昨日のテストを解説したところ、それがとても分かりやすいと生徒の間で評判になったようで、このようなことになったのだ。
『全知』と『指南』を併用して教えているので間違っていることはないが如何せん疲れる。
(てか、担当の先生に聞けよ!)
今のところ、全ての科目で集まっているので俺の休憩はほとんどない。
聞きに来ないのはバジルットとその取り巻き、それと優等生の二人だ。いや、女の子の方はこちらをちらちら伺っているので、いずれ来るかもしれない。
「さぁ、皆!美しい僕が華麗な授業を繰り広げるから席に着け」
そうこうしているうちにシュバルツが入ってきた。
性格は難ありだが、授業はかなりまともで分かりやすい。そこらへんはミレイやゴレイムも認めていた。
「この人物はこの世界の魔法を発展させたとても偉い人だ、覚えておくように。まぁ、しわくちゃなおじいちゃんだったので僕の方が美しいけどね!」
(・・・これで自分が美しい自慢が無ければなぁ)
俺は顔に手を当てて、そう思わずにはいられなかった。
昼休憩が終わり、二講分丸々使う魔法実技の時間だ。
みんな汚れてもいいよに体操着に着替え、グラウンドに出てきた。
ちなみにマコトはゴレイムの近くにいる。なんでも魔力が暴走することが稀にあるので近くにいてくれないと守れないとか。
「今日は魔弾合戦を行ってもらう!二人一組になれ!」
魔弾合戦とは、先に相手に魔弾をぶつけた方が勝利といった簡単な勝負だ。もちろん、魔弾は当たってもいいように威力を弱めて放つそうだ。
ゴレイム曰く魔法を使った戦闘の練習と魔弾の威力調整などの魔力コントロールに向いているらしい。
「ここにくじ引きがあるので、それで順番を決めろ。間違っても勝手に行うなよ、怪我しても知らないからな」
それぞれ勝手にやっていいのかと思っていたが、一組ずつやるらしい。
(俺だったら好き勝手にやれとか言ってそうだな)
「では、一番のペア!前に出ろ」
ゴレイムが試合開始の合図をかけると魔弾合戦が始まった。お互いに動き回りながら魔弾を打ち合っている。
直接攻撃さえしなければ強化やバリアなどの魔法も使っていいのだが、そういうのは三年生から教えるそうなので使えないのだとか。
だが、独力で覚えている奴も中にはいるだろう。その場合はどうするのかというと・・・
「使える奴はいなくもないが俺の授業中は禁止にしている。万が一にも使ったら俺の鉄拳制裁が待っている」
とのこと。
PTAがこの世界にもあったら間違いなく訴えられそうだ。
「次のペア!前へ出ろ」
試合はどんどん進み、次は優等生君の番になった。名前は確かステイン。
試合開始の合図をかけた瞬間、優等生君は手のひらを前に出し魔弾を放った。
スピードはかなりのもので他の生徒の倍くらいは早かった。ただ、いくら早くても真正面の球だと相手も躱せるだろう。
事実、相手は右によけた。しかし、その後相手は思いっきり吹っ飛んだ。
「何が起きたのか見えたか?」
「魔弾が曲がって顔面に当たった。んなこと出来んのかよ・・・」
「少なくとも俺が知ってる限りこの歳で魔弾を曲げるほどの魔力コントロールを身に付けているのは彼以外見たことが無い」
少し自慢げにゴレイムは言った。
原理的には可能だと『全知』でも教えてくれる。だが、それを実行するにはかなり精密な魔力コントロールが必要なのだ。
「まじで優等生君じゃん」
「当初、飛び級が考えられたほどだぞ」
「まじかよ!?」
驚いて、つい大きい声を出してしまった。
「そんなの漫画の中だけかと思ってたわ。・・・いや、十分漫画の中みたいな世界だったな、ここは」
「何を言っているのだ?」
「あ、いや、こっちの話」
マコトの発言にゴレイム先生は首をかしげていたので、慌てて取り繕う。
「まぁ、いいか。次のペア!前へ出ろ」
次の試合は悪ガキのバジルットと優等生のもう片割れであるメアだった。
昨日、魔法師としては使い物にならないという話だったが・・・
試合開始の合図と同時にメアは手のひらに魔力を集中し始める。だが、バジルットはというと
「あいつ、なんで何もしないんだ?あのままだと当たるぞ、確実に」
「見ていたらわかる」
魔力を集中するのを待っているかのようにただその場に立っているバジルットに魔力が溜まった手のひらを向ける。
「はぁ‼」
放たれた魔弾は他の生徒よりも二回りも大きく、ギリギリ規定内の出力ではあるが当たれば大きくぶっ飛ばされるだろう。
だが、それを見てもバジルットは動かずにいる。
「おい、あぶねぇぞ‼」
声をかけても気にした素振りもなく、魔弾を待ち構えているかのように立っている。
そして、魔弾がバジルットとの距離を半分まで詰めたところで魔弾は急速に向きを変え明後日の方向に飛んでいった。
「・・・へ?」
マコトはつい呆けたような声を出してしまう。
気を取り直したかのように魔弾をメアは放ち続けるが、一向に当たる気配はなかった。
「ははははは!相変わらずだな、お前は!」
バジルットは大声で笑いながら近づいていく。
「この学院の歴史の中で最も落ちこぼれだよ、お前は!魔力コントロールが全くできないんだからな!」
馬鹿にしたように叫びながらどんどん距離を詰めていく。
ゴレイムは一つため息をつく。
「彼女は魔力を全くコントロールできないのだ。この学院に入って一度も実技をまともに出来たことが無い」
「それをほったらかしているのか」
「そんなわけない。彼女には補修という形で何度も教えている。彼女自身も努力家だから日々練習しているが、一向にコントロールができる気配がなかった」
マコトは戦いの方に視線を向ける。
バジルットは最初の時の位置から半分ぐらいまで詰めていた。
「ほらほら、どうした?当てないのか?いくらコントロールが悪くてもこの距離は当たるだろ?」
バジルットめがけて魔弾を放ち続けるが、別の方向へ飛んでいく。
「いいか、魔弾ってのはこう放つんだよ!」
手のひらに魔力を集中させ、魔弾を放つ。
それは明らかに威力の調節をしてない魔弾だった。
彼女に当たる瞬間、彼女の周りにバリアが張られる。
「そこまで!バジルット、今のは規定以上の魔力を込めた魔弾だった。どういうつもりだ」
「いや~、すいません。あまりにも退屈だったものでつい魔力を込めすぎてしまいました~」
「つい、で済むような威力ではないぞ!怪我させたらどうするつもりだ!」
「その時はちゃんと医療費ぐらい払いますよ」
「そういう問題ではない‼」
バジルットとゴレイムは言い争っている。
それを視界の端に収めつつマコトはメアに近づく。
「大丈夫か?」
「は、はい。魔弾自体は先生が防いでくれたので大丈夫です」
「いや~、怪我がなくて良かったよ」
バジルットはにやにやしながら近づいてくる。
「でも、まさかあの距離でも当たらないとはびっくりだよ。才能ないんじゃないの?もう、学院止めちまえば?」
メアは悔しそうにうつむいている。
「おい、メア。コントロールできるようになりたいか?」
「へっ?」
「魔力をコントロールできるようになりたいか?」
「いやいや、こいつが魔力をコントロールするとか無理だから。出来るわけないじゃん!こんな落ちこぼれにさ!」
バジルットはにやにやしながら否定してくる。
「黙れ、お前には聞いてない」
「はぁ?」
「おい、もう一度聞くぞ。魔力をコントロールできるようになりたいか?」
「・・・はい、なりたいです!」
メアはマコトの方を見て、答えた。そこには確かな意思が感じられる。
「よし、じゃあ俺が国に帰るまでの残り時間に魔力をコントロールさせてやる。そして、少なくともここでアホ面浮かべてお前のことを否定するこいつよりかは強くしてやる」
「はぁ!?出来るわけねぇだろ!そんなこと‼」
「じゃあ試してみるか?三週間後、俺の交換教師最終日にここでもう一度魔弾合戦をやれば証明できるからな」
「いいだろう、そんなこと絶対に出来ないって証明してやるよ!せいぜい無駄な努力をするんだな!」
バジルットが離れていく。
「悪いな、勝手に決めちまって」
「い、いえ。大丈夫です。それよりも本当に私なんかが出来るんですか?」
「やってみないとわかんねぇけど、これでも俺、人を見る目には自信あるから。とりあえずやってみようぜ?」
「よろしくお願いします!」




