2.頼み事
「へぇ~、よかったじゃない。仲直り出来て」
王城での集まりがあった夜、夕食が済んだ後にクオリアは今日の出来事を話した。
「姫さんはまた前のように仲良くしたいって思ってたもんね」
「えぇ、シェリーお姉さまの気持ちはわかったし、付き添いとはいえ外交に関われるし今日はいいことばかりだわ!」
クオリアはかなり上機嫌だ。
もともと、姉たちを嫌ってたわけではないみたいだし当然と言えば当然なのだろう。
「しかし、王族としての義務を全うとかって王族の鏡だな、そいつは」
「シェリー様は正義感が強く、理不尽なことは嫌いな方ですね。騎士団を立ち上げた理由が貴族や大貴族などの不正を暴くためだという噂を耳にしたことがあります」
「第三王女が穏健派とか嘘じゃん。がっつり武闘派だろ」
人の噂は当てにならないと実感する。
「そういえば、マジカルゴってどんな国なんですか?」
「魔法大国マジカルゴ。魔法師が主流の国で国内は魔法の恩恵にあふれています。魔法研究が盛んで新魔法や魔道具開発などが行われています」
「特に有名なのがノワール学院。魔法を扱う者ならば誰もがそこに入学することを夢見るの。毎年、倍率が十倍になるぐらい人気の学院でそこから何人もの大魔法師が出てきているのよ」
ティナの疑問にエリカとクオリアが答える。
「魔道具なども一般にも流通しているから誰もが簡単に魔道具を触れることが出来るし、戦闘用だけでなく日用品や美術品の魔道具もあるね。魔法の根源って言われている場所だよ」
「あとは、そこの魔法師部隊が有名ですかね。なんでも昔は百人の魔法師部隊で一国を落としたとか言われてますね」
「まぁ、優秀な魔導士は千の兵士にも勝るっていうしな」
コルナやレオン、マコトも補足として説明を加える。
「昔からつながりの深い国だから、今回も視察も珍しくはないのよ。私も魔力をコントロールするために一時はいたし」
「へぇ~、すごい国なんですね!」
ティナは話を聞きながら、目をキラキラさせている。
「今回の視察にはエリカとティナ、それにマコトについてきてほしいの」
「あぁ?俺?」
クオリアの言葉にマコトは疑問を浮かべる。
「視察についていっても俺じゃあ何の役にも立たねぇぞ」
「えぇとね、マコトには頼みごとがあるの」
頼み事という言葉にマコトはどうにも嫌な感じがする。
「実は毎年ラインハルトとマジカルゴで交換教師っていうのをやっているの。お互いの教師を交換して教師たちの知識などを深めようっていう狙いなんだけどね・・・」
「けど、なんだよ」
「こっちの教師があちらの生徒さんに魔法を教えるのってかなり大変なの。自分たちよりも魔法の知識や技術が上だから。それで生徒たちに馬鹿にされて心折られた人が多くて、今回誰も行きたがらないのよ」
「つまり、その交換教師に俺が出ろと」
「そうなの!理解が早くて助かるわ」
「却下」
「なんで!?」
マコトの言葉にクオリアは驚く。
「だって、マコトは教師なんでしょ?だったら教えるのは得意でしょ?」
「他の教師が心折られているような地獄の場所になんでわざわざ自分から行かなきゃならねぇんだよ!大体、俺は魔法を教えたことなんてねぇ!」
「大丈夫よ、マコトならきっと何とかなる!」
「なんの自信だ!」
マコトは頭が痛くなるのを感じ眉間を抑える。どうにもクオリアが過大評価をし過ぎるきらいがある。
「てか、なんで俺がその交換教師に出るって話があるんだよ」
「なんかね、シェリーお姉さまの騎士団の副団長にヴァイオスがマコトの話をしてたみたいでね。それがお姉さまの耳に届いて、教師ならちょうどいいって思ったらしいの」
「ヴァイオスの野郎~!」
あいつ、次会ったらぶん殴ってやろうとマコトは心に誓った。
「ちなみに頼みって言ったけど拒否権はないから頑張ってね」
「マジかよ・・・」
マコトは項垂れるしかなかった。
(今日ほど、こいつにところにいて後悔したことはない)
「が、頑張ってください!」
「先生なら大丈夫です!」
「ファイト~」
「お前ら、気軽に言いやがって」
「ちなみに担当科目は魔法理論だからね」
クオリアの声がどこか遠くから聞こえる。
(魔法を使えない俺が魔法学院の生徒に魔法を教えるって無理がないか?)
「はぁ・・・」
マコトは思いっきりため息をつく。
食堂から自分の部屋に戻った後、ベッドにダイブする。だが、当然目の前の問題は無くならないし気分も晴れない。
(確か教える科目は魔法理論って言ってたけど、どんな科目なんだ?)
魔法理論・・・魔法の基礎的なことを学ぶ科目。この世のマナの在り方や魔法の定義、魔力につ
いてなど魔法についての基本的な事柄を学ぶ。
疑問に思っていると『全知』が発動して解説をしてくれた。
本当に便利な能力だと心の底から思う。
神様がくれた能力のおかげで今のところ不自由なく過ごすことが出来ている。もし、なかったらこの世界のことを知るのにもっと時間がかかっていたことだろう。
最初の方こそ使えねぇ能力だと批難したものだが、この能力があるからこそ今があるのかと思うと俺の才能が教師だったことに感謝してもいいかもしれない。
現状、教師生活で最大のピンチに差し掛かっているわけだが・・・
「能力で何とかなるものかなぁ~」
天井見上げながら再びため息をついていると扉をノックする音が聞こえた。
(こんな時間に誰だ?)
首を傾げつつ扉を開けるとそこにはクオリアがいた。
「なんだ、クオリア。こんな時間にどうした」
「ちょっと、話がしたくてね」
とりあえず、中に入れてベッドに腰を掛けた。クオリアは椅子に座る。
「で、どうした。夜遅くに男の部屋に入るってのは不用心じゃないか?」
「?マコトだから大丈夫じゃない?」
おそらくクオリアに言っている意味が伝わってない。
マコトは今日何度目かのため息をつきながら、再びクオリアに質問する。
「要件はなんだ?」
マコトの言葉にクオリアは口をもごもごしながら目をそらす。
口を開けたり閉めたりを繰り返してようやく話し始めた。
「えっと、その、怒ってないかなぁ~って思ってね」
「?何に怒るんだ?」
いまいち質問の意図が読めない。
「ほら、勝手に交換教師に選んじゃったから怒ってるかなって・・・」
俺はこいつの言葉を理解するのに少し時間かかった。
頭の中で反芻して、ようやく理解すると俺は今日一番のため息をついた。
「あほか」
「へっ!?」
「面倒なことになったとは思っているが、んなことでいちいち怒るわけねぇだろ。どんなだけ心狭ぇんだよ、俺は」
クオリアは俺の言葉に、ぽかんとしている。
「で、でも、ため息ついてたし・・・最初はいやだって言ってたし・・・」
「そりゃ、地獄の場所に連れてかれそうになってるんだぞ?誰でも断るだろ、普通」
俺は肩をすくめつつ答える。
「出来るかは置いといてやってはやるよ。でも、それでこの国の教員のレベルが低いって言われても俺は一切知らないからな」
そうはっきりというとクオリアはなぜか笑っていた。
「なんだよ」
「なんだかマコトらしいなって」
クオリアは微笑をうかべながら続ける。
「文句言いつつも誰かのためにちゃんとやってくれるとこ。否定するだろうけどマコトは優しい人よ」
「優しかねぇよ、頼まれたからやるだけだ。普通のことだろ」
というか断る権利はこちらにはないのでやるしかないのだ。
クオリアは楽しそうに笑っている。
その後は適当に雑談して、かなりの時間が過ぎた。
「もう遅いし、これ以上起きていると明日に差し支えるかもしれないからもう戻るわね」
「おぅ、お休み。また明日な」
「えぇ、おやすみなさい」
そうしてクオリアが部屋を出ていくと途端に静かになった。
マコトも眠るためにベットに横になった。




