2.情報収集
いつもの酒場とは違いここは騒がしくなく、かといって静かすぎず程よい場所だ。
他の建物とは違って木造の建築物であり木々のいい香りがする。
マコトはそんな場所で人を待っていた。
「やぁ、待たせてしまったかな?」
そこにあらわれたのは一人の男だった。
歳は三十代半ばでがっちりとした体をしている。身長はマコトよりも頭二つ高く精悍な顔立ちをしていて歴戦の勇者も角やと言ったところだ。かなり使い込まれながらもしっかりと磨かれた鎧を身に付けており、深紅のマントがはためいている。
「いいや、時間通りだよ」
待ち合わせの人物であるヴァイオスに席を勧めた。
「この間は世話になったな」
「なぁに、礼を言われることじゃない。騎士として当然のことをしたまでだよ。しかし、驚いたよ。まさかお前がクオリア王女に仕えることになるとはなぁ」
「まぁ、あいつの所にいたら少なくとも退屈はしなさそうだからな」
肩をすくめながら答える。
「それで?今日呼び出したのはどういった要件だ?」
ヴァイオスは幾分か真面目な顔つきでマコトに聞いてきた。
「今、俺は王女に仕えているからな。王選で勝てるように色々と手を考えなければならない」
「あぁ、確かにそうだな。しかしだな、正直な話クオリア王女には勝ち目はないと思うぞ?」
「劣勢なことはわかっているよ。それでも最初から諦めるのは性分に合わねぇし、何よりあいつが諦めてねぇんだ。ならやるしかないだろ」
マコトの言葉にヴァイオスは納得したようにうなずいていた。
「なるほどな、それならば私も力を貸せるときには尽力しよう」
マコトはふと思った。
「お前はどこの派閥に属しているんだ?」
「私は王選には興味がなくてね。どこの派閥にも属してないよ。まぁ、他の連中は概ね属してはいるが・・・」
「他の連中って騎士団内で派閥割れしてんのか」
そんなんでいざって時に連携が取れるのか心配になってくる。
「騎士団も一枚岩ではなくてね」
ヴァイオスが言うには騎士団は主に三つの部隊に分けられている。
一つ目がヴァイオス率いる団長直轄の部隊、二つ目が主に爵位の高い貴族で構成されている部隊、三つ目は爵位関係なしに実力で騎士になった部隊。
一つ目の部隊はヴァイオスが指揮しており、他の部隊は二人いる副団長がまとめているのだそうだ。
「私の部隊は特に派閥に属しているわけではないがしいて言うならミランダ王女に力を貸すことが多いな。二つ目の部隊はクレハ王女の派閥に属している。クレハ王女の理念は貴族の地位を今よりもっと高くすることだからな。三つ目の部隊はシェリー王女直属の部隊だ」
「第三王女の直属の部隊?なんでそいつだけ直属の部隊があんだよ」
「シェリー王女は一般的には穏健派で女子供に好かれているのだが戦上手な方でな。剣を扱わせればそこらの兵士は手も足も出ず、騎士ですら互角に渡り合えるだろう。その彼女が自分で見定めた者たちに武器を持たせ、訓練したのがシェリー王女直属の部隊、通称『聖姫騎士団』だ」
『全知』で確認してみるがそのような情報は出てこない。つまりは一般的には知られてないってことだ。
「第三王女は自分の部隊があることを隠しているのはなんでだ?」
「隠しているのでなくて披露する機会がなかっただけだ。昨今は戦なども起きていないので部隊が活躍する場はあまりない。もちろん、戦場で活躍するだけが騎士の仕事ではないのだが、民衆により鮮明に印象付けるとしたら戦で活躍するのが一番だからな」
「そんな風に派閥が分かれて大丈夫なのかよ」
そう言うとヴァイオスは苦い顔をしていた。
「聖姫騎士団に関しては問題ない。あちらは貴族とはいえ爵位が低く平民への差別などを持つ者はいないからな。ただ貴族派連中とはうまくいってない」
まぁ、貴族が平民を下に見るのがこの国にとって普通のことだからな.ヴァイオスみたいな平民なのに地位は確立している奴は嫌われているのだろう。
しかし、色々といいことが聞けたな。今後にうまく利用できそうだ。
「話がそれてしまったが要件はなんなのだ?」
ヴァイオスはこれ以上話したくないのか本題に移ろうとした。
「あぁ、そうだそうだ。少し前に酒場で聞いたんだけどさ、誘拐事件や盗賊団の問題とかが最近起きてるみたいだな」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「そこんとこの情報教えてくれ」
ヴァイオスはいやそうな顔をしていた。
「クオリア王女のためにそれを解決しようと目論んでいるのか?悪いが騎士団の情報をそう簡単に言うわけにはいかない」
ヴァイオスの言っていることはもっともだ。クオリアに仕えているとはいえ俺は一般人だ。騎士団の情報を伝えるわけにはいかないのだろう。ただし、こちらには切り札がある。
「先日の奴隷解放の時にお前、俺との約束破ったよな?」
ピシッとヴァイオスの顔が固まる
「あんだけ他言無用で頼むって言ったのにいざ作戦開始してみれば事情を知っている奴ら、つまりクオリア達が出てきたんだが」
「い、いやあれは・・・仕方なかったというか・・・」
「まぁ、そのおかげで作戦がスムーズになったわけだから、感謝はしてるんだけど。万が一他の連中、特に貴族に聞かれていたらあの作戦はパァーだったな」
「それは・・・その~・・・すまなかった」
「なぁに終わったことはグチグチは言わねぇよ。ただな?お前がそのことで悪いと感じているならば少しぐらい俺に何かしら融通してもばちは当たらないと思うんだけどなぁ~」
「わかったわかった!教えるから!」
「サンキュー」
ヴァイオスははぁっとため息をついた。
「教えられることは盗賊団のことについてだけだぞ。誘拐事件に関してはマコトのお陰で解決したようなものだからな」
「?俺は誘拐事件に関与した記憶がないんだが?」
「こないだ捕まえた奴隷商人を覚えているだろう?彼が誘拐事件を引き起こした主犯格だったのだ。まだ聞かなければならないことがあるがひとまず誘拐事件に関しては解決の目途が立っているので手伝う必要はない」
思ったよりもあいつあくどいことしてたんだな。
「それで盗賊団だが、はっきり言ってほとんど情報がない」
「人数とか魔法を使うとかそういうのもわからんのか?」
「あぁ、わからない。神出鬼没でいつどこに現れるかわからないのだ。挙句に活動範囲が広いために警備を強化するにも人手が足りない。手づまりな状況だ」
「ふぅ~む、とりあえず襲われた村の場所を教えてくれ。それと地図も欲しい」
「わかった、すぐに用意しよう」
マコトが屋敷に帰る時にはすっかり日が落ちていた。あれからヴァイオスに話し合いを続けたり、欲しいものを用意してもらったりしていたらすっかり遅くなってしまった。
「ただいま~」
「おかえりなさいませ、ご主人様!ごはんの準備は整っているので食堂に来てください」
「了解」
食堂に足を運ぶとすでに皆が集まっていた。
「もう遅いわよ、マコト!」
「悪い悪い、少しヴァイオスと話しててな」
「ヴァイオスと?何話してたの?」
「あぁ、そのことでお前に相談があるんだが・・・」
「は~い、ご飯持ってきたよ~」
話している途中でコルナが食事を運んできた。
「飯食い終わったらまた話す」
ここのご飯はおいしく『ウサギ亭』のご飯もおいしかったがコルナの料理には劣ってしまう。あの身長でキッチンに届くことが疑問ではあるが・・・
そんなことを口にするとコルナがにらんでくるので言わないでおく。
「それで相談って何?」
クオリアは皆が食べおわるころを見計らってマコトに問いかけてきた。
今日のヴァイオスとの会話をかいつまんで説明する。
「その話なら僕も聞いたことがあります。神出鬼没、正体不明の盗賊団。豊作の村ばかりが狙われていて騎士団も対処に困っているんですよね」
「君、まだ見習いなのに誰から聞いているのさ?その話」
「教官たちに聞いたら教えてくれました」
「つまりあなたはその盗賊団を我々の手で捕まえようと考えているのですか?」
エリカが無茶だと言いたげだがそこまで言う気はない。
「それが出来れば一番いいんだがそれはさすがに難しいだろう。でもまぁ、やるだけやってみようかと思ってな。それで襲われた村に行ってみたいんで、馬を用意してもらってもいいか?」
「わかったわ、明日にでもすぐに用意するわね」




