9.第四王女
ウサギの仮面はローブについているフードを脱ぎ、仮面を外した。
「知っているかもしれないけど自己紹介するわね。私の名前はクオリア。クオリア・ラインハルトよ」
髪の毛は白く、肩にかからない程度に伸ばしており、赤い瞳をしていて幼い顔立ちをしている。情報では、年齢は確か十六、七のはずだがもう少し下に偽ってもばれないと思う。
「いつから、気づいていたの?」
「最初からなんとなく予想はしてた」
マコトの言葉にクオリアは驚いた顔をしていた。
「俺がこの作戦を話したのはヴァイオスだけだ。あいつの騎士団には、周辺の警護と称して出動してもらっているはずだからヴァイオス以外この作戦を知るはずがない。それなのに俺らの作戦を知るやつが出てきたのだとしたら、それはヴァイオスから教えてもらったとしか考えられない。」
「盗み聞きされたのかもしれないわよ?」
「それはない」
クオリアの反論をバッサリと切り捨てる。
「盗み聞きには細心の注意を払ったからな。まず間違いなく聞かれてない。あいつが口軽いようにも思えないし、この作戦の重要性は理解していたから普通は答えない。もし答えるとしたら、それは自分よりも立場が上で嘘をつくわけにはいかない人物だから」
クオリアは無言で先を促す。
「あいつは騎士団長だからな。騎士団長よりも上の立場の人間なんて限られてくるだろ?」
「それでも、まだ私以外にも候補はいるわ」
「貴族に喧嘩売るような作戦なのに貴族やその上の大貴族にヴァイオスが言うわけないだろ。王族の中でも、第一王女は外交のためこの国にいないと聞くし、第二王女は貴族連中と特に強いつながりがある。第三王女は穏健派。となると残るのは第四王女である、あんただけだってことだ」
仮説を聞かせてやると納得がいってない顔で反論してくる。
「それでもまだ私だって断定はできないはずよ」
「あぁ、確かにその通りだな。決め手になったのは屋敷での戦いだ」
「?何か不自然なところあったかしら?」
「あのなぁ~」
思わずため息をつきながら話す。
「闇魔法を使える人物なんてラインハルト王国の歴史を見返しても【災厄の魔女】ただ一人だろうが。現在、使える奴なんていない。もし、使える奴がいるとしたらそれは・・・」
「魔女の血縁者である私だけってことね」
今度は納得したような顔をしていた。
「あぁ~あ、せっかく奴隷たちを解放した後に正体を見せて驚かせようとしたのに・・・」
いたずらができなかったのが悔しいのか頬を膨らませている。
おんぶされているレオンは先ほどから無言だった。多分、声が出せないほど驚いているのだろう。
「もともと彼の慧眼はご存じのはず。闇魔法を使って騙し通す方が無理があると思います」
その声を発したのは、犬の仮面を外した女だった。黒髪でクオリアと同じで肩に髪がかかっておらず、端正な顔立ちをしている。一般的に美人の部類だろう。
「仕方ないじゃん!闇魔法以外適性がないんだから!」
クオリアはさらに顔を膨らましてそっぽを向いている。
「んで、いったい何の目的があって俺たちに同行してきたんだ?」
マコトの質問にクオリアは気を取りなおしたかのように説明を始める。
「もともと、私たちもあの商人を追っていたのよ。こっちにいるエリカに情報収集とかしてもらってね」
クオリアの付き人の名前はエリカというらしい。
「けどなかなか尻尾をつかめなかったのよ。どうしたものかと考えているところにヴァイオスが何やらこそこそと動き回っているって話を聞いてね?本人に話を聞いたらあなたが奴隷商人をつぶそうと企ててると聞いたから、面白そうだと思ってついてきたのよ」
「つまり、王族様の道楽ってことか?」
「ち・が・い・ま・す!興味本位で着いてきたのは認めるけど奴隷たちを助け出したかったのは本当よ」
クオリアが嘘をついている感じはしないので、とりあえず信じることにする。
「それでは、奴隷商はもう捕まったも同然ですしクオリア様の目的は達成されたということですか?」
驚きから立ち直ったレオンがそう質問をすると
「いいえ、私たちがついてきた目的はもう一つあるわ。どちらかというとこっちが本命なんだけどね」
クオリアは一つ深呼吸すると俺の目をまっすぐに見て言った。
「あなた、私に仕える気はない?」
クオリアの言葉に俺は耳を疑った。そのため、すぐには反応できなかった。
「あなたが力を貸してくれるととても心強いのだけれど、どうかしら?」
クオリアは再び問いかけてくる。
「一つ聞かせろ。なんで王選に出た?」
マコトの言葉にクオリアは少し驚いていた。おそらく、何かしら質問をされることは予想していたがこの質問をされるのは予想していなかったのだろう。
だが、こちらとしてはどうしても聞いておきたいことだった。
「お前が王選に出場するとなったら人々がどういう反応するか予想つくだろ?はっきり言ってこの国にあんたの味方なんてほぼいない。出るだけみじめな思いをするのは明白だ。それでも王選に出場するあんたの目的はなんだ?」
「・・・別に特別な目的はないわ。私の目的はただ一つ。この国が平等であること」
黙って先を促す。
「私は魔女の血縁者というだけで人々から虐げられてきた。家族からは疎外され、貴族からは心にもないことを言われたり避けられたり、住民からは石を投げつけられたこともあったわ」
クオリアはその当時のことを思い出したのか悲しそうな顔をしていた。
「でも、私だけがそういう思いをしているわけじゃなかった。立場を利用した行動によって苦しめられている人もいる。飢えで苦しんでいる人もいる。奴隷たちのように自由を奪われている人たちもいる。立場や状況が違うだけで嫌な目に遭っている人たちはたくさんいるわ」
なんとなくわかった。こいつは・・・とても優しい奴なんだ。
自分がひどい目に遭っているのにそれでも周りのことを考えられる奴だ。もし、俺だったら他の連中を恨んで第二の【災厄の魔女】として世界を呪い、破壊の限りに尽くしただろう。
だが、こいつはそんなことは考えず人の痛みを知り、寄り添おうと努力している。
「だからこそ、私は誰に何を言われようと王となってこの国を変える。血筋だとか立場だとか関係なく人々が笑っていられる国を作りたい」
過酷な道なことはわかる。こいつが言ってる国は理想的だが、実際はそんなことは不可能だ。人は生きているからこそ人を妬んだり恨んだりする。差別をなくしてみんな平等な国なんて現代世界でも実現されていない。必ず、どこかしらにひびが入る。
「あなたの言う通り、今の私には味方はほとんどいないわ。茨な道なのもわかっている。それでも、私は諦めたくない。完璧とはいかずとも少しでも私の目指した民が笑いあえる国を作りたい」
自分の言っていることをしっかりわかっていながら大それたことを臆面もなく堂々とクオリア様は言い切った。
「改めて、お願い。私に力を貸してくれないかしら?」
クオリアは手を差し出してくる。
(俺の答えは・・・)




