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明治妖妖記 二つの闇  作者: ながとみコケオ
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神様達の事情?

 糸井小間物問屋を出た後、四人は神田区に向かっていた。

「さて、糸井さんにもお願いはしてるけど、こちらも情報を集めようか」

 背伸びをした柴一が、頷いて見せる。

「じゃあ、お縁さんは俺が聞いとこうか。柴一が聞いたら世間話に付き合わんないかんくなるけん、俺が聞いた方が良かろう」

 喜助は頷くと、視線を連に向けた。

「帰る」

「連さん、手伝うんじゃねえのかよ」

 即答した連に柴一が聞くと、連は意味ありげな笑みを浮かべた。

「手伝うさ。だが、手伝う前にお前を主に選びそうな妖刀を持ってこねばならん」

 喜助が訝しげな表情で、連を見た。

「柴一は大樹の者ではないから、妖刀自体が主として選ぶか疑問もあるんだが、完全に否定することは出来ん。まあ、試しに幾つか持ってこようと思っているんだ」

 連さんと、喜助が名前を呼ぶ。

「妖霊山には、どれだけ妖刀があるんですか」

「そうだな。六〇〇から七〇〇くらいだ。中には幻夢王を主に選んだ神刀もある。といっても、幻夢王を主に選んだという事は、見合うだけの力量を持ち合わせていなければ主になることは不可能だがな」

 妖刀の数だけを聞いた筈が、幻夢王の神刀のことまで聞かされてしまった。当然ながら、喜助は疑問を抱いてしまう。

「連さん。今の話だと、幻夢王は神刀を手放したか、もしくは」

「死んだ。こちらの神に霊獣の番人の話を聞いた後、すぐに」

 淡々と答える連に、喜助は眉間に皺を寄せた。

「どうして、霊獣の番人の話を聞いた後、すぐに死んだんですか」

 疑問気に聞いた喜助を無言で見た連は、一度視線を人の行き交う通りに移した。考えるような仕草をした後、すぐに喜助に視線を戻した。

「言ったとしても、差し支えることはないだろう。霊獣の番人が生まれる時に、創造主のままだと、色々支障があるから転生するとかほざいていた。一度やると言い出したら聞かないから、勝手にしろとは言ったが、本当に死んだ」

 連の幻夢王に対する言葉が、妙に刺々しい気がすると思いながら、喜助は有言実行したんですねと呟いた。

「有言実行は構わん。構わんが、躯を取っておけと言われたこっちの身にもなってみろ。何千年保管していると思っているんだ、全く。厄介なことばかり押し付けおって」

「なあ、躯って何千年も保管出来るものなのか」

 連の愚痴と化した言葉に、柴一が聞き返す。

「柴一。躯の保管年数より、連さんの年齢に疑問を持とうよ」

 連の事だ、躯を保存するのは造作もないだろう。大樹の妖は寿命がないと言っても良いが、連の生きた年数に疑問がある。

「三八五〇。長く生きると、歳なんぞどうでも良くなるんだ。だから、大体それくらいだったと思うぞ」

 大雑把だと思いながら、喜助は柴一の顔をちらりと見る。ぽかんとした表情になってしまっていて、思考が止まっているように見えた。

「そうなんですね。でも、幻夢王と知り合いだなんて、思いませんでしたけど」

「知合いたくて知り合ったわけではないぞ。あれは…口にしたくない」

 思わず喜助は、苦笑いを浮かべてしまった。口にしたくない知合い方でもしたのか、連は嫌そうな表情になっている。

「連でも嫌っち思う事があったんやん。初めて知った」

 賢治の素直な感想に、当たり前だと連が返している。幻夢王との間に何があったのかは知らないが、拒否するということは余程の事があったらしい。

「口にしたくないのなら仕方ないですが、どうして躯を取っておくように言ったんですか」

 これ以上の進展はないだろうと踏んで、喜助は幻夢王の躯に話を向ける。

「さあな。躯を取っておけ以外は、何も言わずにさっさと死んだんだ。聞く暇なんぞあるものか」

 聞く暇さえ与えずに死んだ。どうやら幻夢王は、連以上に我が道を行く性格だったらしい。小さく溜息を吐いて、喜助はもう一つ聞いてみようと思う。

「そういえば、幻夢王の親友だったこちらの神様はどうしているんでしょうか」

 小闘竜が教えてくれた日本の神。恐らく、霊獣の番人の話をしたのは、親友だった日本の神。では、その神は今、何処で、何をしているのか。

「今は知らん。夫婦になったばかりの育也≪いくや≫と弥素次≪やそじ≫を眺めていたのが最後だ」

 名前を聞いた途端に、思考を再開させていただろう柴一が小首を傾げた。気持ちを察して、喜助は念の為伝えておく。

「育也はお父さんの姉ちゃんの名前。弥素次は姉ちゃんの旦那で、羽音さんの弟ね」

「親父の姉ちゃんの名前、男の名前だから紛らわしい」

「仕方ないよ。姉ちゃんの名前を付けたのは、爺ちゃんだからね。お陰で柴一の名前を付けた時に、センスがないだの散々言われたけどさ」

 柴一の名前を付けた時のことを思い出し、不貞腐れ気味に言うと、喜助はすぐに気持ちを切り替えた。

「でも、どうして姉ちゃん達を見ていたんでしょうか」

 縁のない二人をこちらの神が見ていたというのは、妙な気がする。

「分からない。話しかけてみたが、答えないまま消えた。何がしたくて現れて、二人を見ていたのかは、本人のみぞ知る、だな」

 成程、連でも神の心は図りかねるらしい。

「因みに、幻夢王の親友の神様の名前は分かりますか? 分かるようであれば、少し調べてみようかと思うのですが」

「和結正人≪わむすびのただしびと≫」

 江戸の頃からいた喜助でも、初めて聞く神の名だ。恐らく、何処にも祭られてはいないだろう。裏付けるように、連は話を続けた。

「本人曰く、人の書物には一切残っておらんそうだ。こちらの者達の前に出て、崇められるのは苦手だとか言っていた。だから、姿を見られた時は、慌てて逃げていたらしい。幻夢王の所へ駈け込んでは、どうしようとか悩んでいたぞ」

 連の言葉を聞いて、呆れた表情を作ったのは柴一だ。賢治は、恥ずかしがり屋な神様なんやねと呟いている。

「どんな神様だよ。神様やってる意味あんのか?」

 呆れた表情のまま言った柴一に、連は視線を柴一に向けた。

「知らん。本人が姿を晒すのを極端に嫌がった結果だ。この国は八百万の神がいるのだろう。ならば、和結正人のような神が居てもおかしくはない。人前に現れる神は、ほんの一握りだという事だ」

 確かに、その通りかもしれない。この国は何時の頃からか、山や海等の自然のあらゆる物に神が宿っていると信じ、崇め、祭る自然崇拝から始まった神道と、二五〇〇年前に、釈迦が悟りを開いて仏陀となり創設し、中国、朝鮮を経由してから日本に入って根付いた仏教が習合していた。人の思惑があってか、江戸時代まで神道と仏教、互いに仏と神が祭られていることも珍しくなかった。明治の世になってから神仏分離令が政府から出され、神道の復古を掲げた神職の一部が廃仏毀釈運動に走ってしまい、寺が破壊してしまうことがあったが、明治四年に何とか収拾された。神仏分離令発令の後、神社で仏を祭ることを禁じられ、神話等から由緒をもつようになってしまった為に、由緒と祭神を替えてしまった神社も多い。そう考えると、人前に現れるのを極端に拒む神は神話にも登場せず、当然のように祭神として祭っている神社はないだろう。

「まあ、和結正人に関しては、ぼちぼち調べます」

 人前に出たがらない神なら、調べても無駄な気もするがと、喜助は言葉にはしなかったが、半分は諦めていた。

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