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カラフル軍記  作者: ノイズa.k.a.天谷川
秘密警察『B3』編
6/65

六話

俺にとって「なんで彼女つくらないの?」 は「なんで錬金術で金が出来ないの?」に等しいから言わないでほしい

 人は誰しもが成長に伴い試験と言うものを通り自分の職や学ぶ環境を得る。その場合が就職や就学に限られない者だとしても個人的に試練として経験を持っている事だろう。それらを通過して大人への階段を上ってゆくのだ、今現在チタンの状況がソレだった。時期先輩のランに案内され通された部屋で待ちかまえていたのは机を並べてスーツを身に纏う威圧的な面接官―――などでは無く通された部屋には恐らく秘密警察『B3』の他愛ない日常風景と思わしきものだった。




その部屋は先ほどまでチタンが眠っていた部屋とは打って変わって瀟洒な装飾が施されており、行き届いた掃除が見受けられる部屋だった。そこでは昨日自分と戦ったフールも含めて面識のない秘密警察『B3』のメンバー二人がなにやら忙しく動いているその一人はフールだった、どうやら食事の準備をしているらしい。

 


 「おぉ、ラン調度良いところに戻ったな、手伝ってくれ、あと・・・チタン? だったか?お前も皿並べるの手伝え」

 「はーい」

 「え、ハイ」

 


 一番近くで作業していたバンダナの男が言った通りにチタンはランと作業に取り掛かる、ランの指示で皿や食器をやたら細かい所までこだわって置いて行く。採用試験と聞いていたがどうプラス思考で考えても食事会である。チタンは堪らずランに尋ねた。

 


 「あの・・・ランさん、コレって・・・」

 「え? そのまんまだけど」

 「いや・・・」

 


 明確な回答を求めて聞いたのにこうもあっさり流されてはどうも拍子抜けである。おそらくこの場の誰に聞いても似たような回答をされるだろう。この事象の真理を知る術はないのでとりあえずチタンは作業に集中した。

 


 「よぅし、出来たぁ」

 「はぁ」

 


 途中何処で作っているのかは分からないが料理が運ばれて来るのでソレを並べて眺めてみると部屋は少し高級なレストランのような雰囲気に様変わりした。まだ料理の湯気の冷めぬうちに隊員たちは席に着く、先ほどと同じくバンダナからチタンに指示が飛ぶ。

 


「お前の席はそこな」

 


指さされたのは先に座っていたランの隣だった。二つ返事で促されるままに座る。やがてもう一つの調理場キッチンと繋がっているであろう扉から三人の男女が出てきた。

 


「うおっ・・・!」

 


と、チタンは驚きの声を小声ながら漏らしてしていた、と同時にやけにこの部屋の天井が高い疑問が解けた。それは出てきた内の一人が異常に背が高かった。間違いなく自分が出会ってきたどの人物より遥かに大きく長身という形容では表し切れない巨人といっても差し支えないレヴェルの大男、昨日見たフールの筋肉や体躯が霞んで見えるほどのインパクトだった。そのドグマと呼ばれる男は後ろでヘアゴムまとめられた真珠色の長髪を軽快な仕草でパッとほどくと隣の女性に椅子を引いて先に座るよう促した、見た目と行動のギャップに驚かされるのに流石に慣れたつもりだったがただの思い込みだったようだ。



「全員そろってるなぁ、んじゃあ食べるかぁー頂きまーす」

 


一番最後に腰かけた銀髪モヒカンの男がチタンと真反対の上座でそう言い放つと他の隊員も同じようにして食べ始めるこれまで疑問を抑えてきたチタンだが思わず―――

 


「ちょっと待って下さいっ! 何なんですかコレ!」

 


と思わず叫んでしまった。その絶叫に別段気に留めるそぶりもなく隊長と思わしき銀髪モヒカンだけが口を開く。

 


 「堅苦しいのはアレだからよ、まぁ食べながら話そうやチタンや」

 「しかし、俺は!」

 「まぁまぁ隊長が言ってんだから。ね?」

 


 ランと嗜めでチタンは席に着きなおす。次にあの巨人ドグマが口を開いた。

 


「俺が作ったんだ、冷めないうちの食べてくれや」

 


こちらは採用試験と聞きそれなりの覚悟で来ているのにこうまで言われてはもう調子も何もあった物ではないとチタンはやや投げやりで料理に手を付けた。

 


「頂きます―――」

 


不貞腐れながらもスプーンで一番手前にあったシチューを掬い口に運ぶ。すると―――

 


「!?」

 


刹那、舌の上が熱さで支配されかけたがそれをさせまいと旨味が追い抜いたのだ。その味からは作った料理人が丹精込めて意匠を凝らした事が感ぜられた。ここ数年間食べ物と言えば自分でハントした熊の肉か魚位のものだった。



隊商から奪った物品のなかに食糧や調味料があったのではと言われるかもしれないが答えはNOである。元々帝国は政治不信こそあったが物量は圧倒的な数を誇っており家畜や食糧もその例に漏れない。なので食料品を輸入すると言う事は殆ど隊商が運搬するのはいつも外国の特産品位のものだった。なので食糧目当てで襲っても当てが外れる事が多いので他人に頼らず自分の力で確保していたのだ。調味料もなく素っ気ない食事だけだった育ち盛り(チタン)にとってこのシチューがどれだけ感動的なものかは察してやれた。


 

 「美味いだろ」

 「・・・はい」

 


 『美味い』という単語の前に超が三つくらい付いても可笑しくないとチタンはこの感動を懸命に脳内で形容してみせようと思う。しかし語彙力が無いせいか、感動が勝っているせいか中々うまくいかないので食べる事に専念した。

 


「っ・・・!」

 


美味さを通り越して衝撃と言っても差し支えない味だった、これは食べた者が感動と言う被ばくを禁じ得ない奇怪な爆弾だったのだ。コレと同等それ以上に美味い料理がこの円卓上に並んでいるとすればさながら爆薬庫と言えた。

 


 「さぁてチタン君。感動の最中いくつか質問を失礼するが―――」

 


モヒカンは両指を絡めて聞いてきた。

 


「君は行方不明となっていた五年間、『人狼』と名乗りして山賊していた、相違ないか?」



 チタンはスプーンを置き、口元を拭って答えた。

 


「山賊稼業に身を置いていた事は相違ありません、しかし」

 「しかし?」

 「俺は一度足りと『人狼』と自称した覚えは有りません」

 


 「成程」



モヒカンはそれで納得した。チタンは聞き返す。

 


 「あの―――」 

 「ニシキでいい」

 「え?」

 「名乗ってなかったろ、秘密警察『B3』隊長ニシキだ宜しく」

 「あっ、宜しくお願いします」

それまでモヒカンと呼称していた男はニシキと言うらしい。改めて聞き返す。

 「ニシキさん、俺。元山賊なのに、いやまだ山賊ですけど俺なんかが警察になれるんですか・・・?」

 「んーと、まぁとやかく言う輩は出てくるだろうな」

 「俺、その・・・五年間で何度も人を・・・」

 「殺してるか、やっぱ」

 


 ここでチタンは『殺した』ではなくて『殺してしまった』っと言いなおすことも出来た、しかしそうはしなかった。ここで言い訳をしては殺した命はどうなると良心の呵責と罪悪感の狭間に苛まれ口が閉ざされた。かといってその姿勢を潔いと褒めてほしい訳でも無かった。

 


 「まぁさ予想付いていると思うけれど、俺等の仲間になったらこれまでの倍以上は殺すことになるかもよ? 覚悟の程以前にお前はどうすれば思い切りよく人を殺せる?」

 


 人を殺してはいけない理由、何度も考えたり聞かれたりもした。今度はその真逆、どうすれば自分は人を思い切り殺せるか、類を見ないと言える質問。チタンは一瞬驚いたが案外頭の中で思考の糸が解けて行った。その現象に妙な憤りと脱力感を覚えたが口にしようと試みる。いつの間にか他の隊員は食事を中断してチタンに視線を向けていた。チタンは堂々と言い放った。

 


 「俺は今まで自分が生きる為、保身の為に戦い人を殺して来ました。それが昨日の件で俺は実はその理論で自分は間違っていないと思い込もうとしていただけだと気付いたのです」

 「それで?」

 「俺があの森で生活している限りほぼ毎日戦いがおきて誰かが傷ついていた、俺が全ての元凶だった、俺が殺した人間には家族がいてその人たちの心も傷つけた」

 「うん」

 「俺に対して十人襲ってきて五人殺してその五人の家族親族百人が悲しむとする。だけど差し引いて生き残った五人は死んだ五人の分も生きようと懸命になって生きていくはずです、結果的に救ったと思います。戦いでも同じはずです、俺は一人殺して九人救う様な心構えなら心にしこりを残さない。そんな気がします」

 


 頭の中の考えをぶちまけた、前提が大間違いである事は火を見るより明らかだった。ニシキ始めランやフール、ドグマも全員瞬き一つせずチタンの言葉聞き入っていた。

 

 

 「つまり、俺はもしこれから秘密警察になるとすれば自己の保身ではなく自分を献身していくスタンスに生まれ変わりたいんです」

 「つらい稼業だぜ? 山賊よりも」

 「覚悟は出来ています、しました」

 「君が殺されるかもよ?」

 「先ほどの信念を抱いて殉職するならば本望です」

 


 この言葉を仕切りに部屋に沈黙が訪れた。耐えがたい時間が刻一刻流れる。チタンはと言うとあの様な暴言を撒き散らした後とは思えないほど落ち着いていた。ただその翡翠色の瞳は死んでいた。やがてニシキが沈黙を破る。

 


 「全く・・・・・・とんでもねぇのが来たもんだ」

 「え?」

 「これで落としたらダメなアレだな。てかこんな人材逃すなんて出来ねぇよな」

 「つまりそれって・・・」

 「合格、修羅の道へようこそ。チタン」

 


 唐突といえばそうかもしれない、しかし待ちわびていた答えには違いなかった。



 「有難うございます!」



 席を立ちあがり深く頭を下げた、この決定で場の空気は軽快な物となり一気に最初の雰囲気が舞い戻った。



 「今日はお祝いだな」 



 とドグマが。



 「これから宜しくな」



 とフールが。



 「俺は副隊長のフィ―――」

 「改めて、狙撃手のランだよ!」



 フィアーの言葉を遮って、ランが。



 「おめでと。私の分のパン、あげる」



 とチープが。

 形は様々ながら祝福を受けてチタンの気分も明るくなる。場は祝賀ムードだった。ニシキは淡々と話を続ける。

 


 「でもな、一目見てタダ者じゃないと思ったよ」

 「えっ、フールさんとの戦闘がですか?」

 「違う」

 


 これが違うとすれば後は―――

 


 「じゃあガタイとか、剣術が」

 「違う」

 「え?」

 


 剣術と運動が否定されたとすれば奇しくも自分のアイデンティティが無くなったと言う事である。チタンは恐る恐る聞き返す。

 


 「すみません、分からないです・・・」

 「あっそう? じゃあ教えてやるよ」

 


 ニシキはグイッと水を飲み干して言った。

 


 「飯の食べ方が綺麗」







 秘密警察『B3』補欠・チタン

 (VC・浪川大輔)

 155センチ

  68キログラム

   B型

 好きな食べ物・柑橘類

 嫌いな物  ・下半身の筋トレをしない輩


 ・元は地方の高官の息子だったが十五年前の事件の混乱で家門が没落して山賊に身を落としていた。運動神経は天賦の物らしく五十メートルを裸足で五秒で走る。腹筋は四つ、自信のある筋肉はヒラメ筋。十歳の頃から異性との交流が無く異性と目を見て話せない。

 

 いかに自己流のこだわりと試行錯誤をキャラクターのプロフィールに詰め込んでもカタギには『変態』の一言で片づけられる。

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