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『過労死医学生、リストラ女神の借金クレカで異世界へ〜現代戦傷救護とCQCで無双しつつ、理不尽なリボ払い返済します〜』  作者: 月神世一


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EP 4

「煙管と杖と、神の財布泥棒」

ルナミス帝国の冒険者ギルド『ゴールドラッシュ』支部の扉を開けると、そこは熱気と酒臭さ、そして殺伐としたマナの残滓が渦巻く空間だった。

「いいかリリス、ダイヤ。俺たちの目的は『最高効率』だ。引き落としまであと72時間を切った。端金の依頼クエストに構ってる暇はない」

優太はG-SHOCKのタイマーを睨みながら、掲示板の「高難易度・緊急依頼」の欄へ真っ直ぐ向かった。そのストイックな歩みは、救急救命センターの廊下を歩く医者そのものだ。

だが、そんな彼らを不愉快そうに眺める視線があった。

「おいおい、見ろよ。紅蓮の貧乏令嬢が、変なパーカーのガキとジャージの小娘を連れてやがるぜ」

道を塞ぐように立ちはだかったのは、重厚な鎧を着た三人の大男たち。このギルドで幅を利かせている『新人潰し』のゴロツキ冒険者だ。

「ダイヤ・マーキス。お前、また路地裏でゴミみたいなパウチ啜ってたんだろ? そんな腹を空かせた騎士様に、この高ランクの依頼は荷が重いんじゃねえか?」

「……どけ。私には貴殿らに関わっている時間も金もないのだ」

ダイヤが天魔竜聖剣の柄に手をかける。だが、空腹で闘気が十分に練れていない彼女の顔には、微かな焦りが滲んでいた。

「あぁん? 生意気なんだよ。そのジャージのガキ、ツラはいいな。人材ギルドに売り飛ばせば、今夜の酒代くらいには——」

リーダー格の男が、リリスの腕を掴もうと下卑た笑みを浮かべて手を伸ばした、その時だった。

「——うるせえなぁ。耳元でギャンギャン鳴くなよ、駄犬が」

低く、ひどく退廃的な声。

どこからともなく漂ってきたのは、安酒の匂いと、ポポロ村特産の『ポポロシガー』の芳醇な煙。

「あ……?」

ゴロツキの男が固まった。

彼の伸ばした手の甲に、一本の火の付いた葉巻が、じゅり……と押し付けられていた。

「ぎ、ぎゃああああああっ!? あ、熱っ! 熱い熱いっ!」

「おっと、すまねぇ。灰皿と間違えちまった」

そこに立っていたのは、長い耳を揺らし、シャツの胸元をだらしなく開けた銀髪のエルフだった。

美貌はエルフそのものだが、瞳には退廃的な光が宿り、手には国宝級の魔導杖を『肩たたき棒』のように肩に乗せている。

「な、なんだお前は! 魔法も使わずに何しやがる!」

「魔法? ああ……属性とかこねくり回すのは、ギャンブルの時だけで十分なんだわ」

ウィスターと呼ばれたエルフは、不敵にニヤリと笑うと、肩に乗せていた二柱杖ツヴァイ・スタッフを、電光石火の速さで振り抜いた。

ドガッ!!

詠唱も何もない。ただの「杖による物理的なカチ上げ」だ。

ゴロツキのリーダーの顎を、重厚な世界樹の枝が完璧な角度で粉砕する。男は白目を剥き、そのまま噴水のように鼻血を吹いて崩れ落ちた。

「ヒッ……!? こ、こいつ、放蕩賢者のウィスターだ!」

「逃げろ! 関わったら全財産魔法で溶かされるぞ!」

取り巻きの男たちが脱兎のごとく逃げ出そうとしたが、ウィスターは欠伸をしながら指をパチンと鳴らした。

瞬間、逃げようとした男たちの足元が、泥のようにドロドロに液状化する。

「おっと、通行料を置いていけよ。俺も今朝、競馬でスッて一文無しなんだ」

「あ、あのっ、それは私の仕事ですぅ!」

そこで飛び出したのは、優太の後ろに隠れていたはずのリリスだった。

彼女は驚くべき手際の良さ(あるいは天性の悪運)で、泥に足を取られたゴロツキたちの懐に手を突っ込むと、次々と革袋を抜き取っていった。

「えいっ! はい、確保ですぅ!」

優太が呆然とする中、リリスは手に入れたばかりの財布を掲げて満面の笑みを浮かべた。

「優太さん! ウィスターさん! 見てください、金貨が5枚もあります! これで今夜は、お団子とビールで一杯いけますねっ!」

「……お前、女神じゃなくて追い剥ぎの間違いじゃないのか?」

優太のツッコミは、リリスの歓喜の舞にかき消された。

   ◆ ◆ ◆

数十分後。ギルド併設の酒場『ラスト・リゾート』の隅で、四人はテーブルを囲んでいた。

「ひゃあ〜! 運動した後のビール(魔導冷却)は最高ですねっ!」

リリスがジャージの袖をまくり、ジョッキを煽る。

「……恩に着る、ウィスター。貴殿に助けられるとは。だが、その杖を鈍器にするのはどうかと思うぞ」

ダイヤが真面目な顔で、無料のサービスの豆をポリポリと食べている。

「いいんだよ。精霊と対話なんて面倒なことしてられっか。それよりよ……」

ウィスターはポポロシガーを吹かし、隣に座る優太を値踏みするように見た。

「お前、面白ぇな。あのゴロツキが動く前、既に『殺す場所』を決めてただろ。そのパーカー、血の匂いが染み付いてやがる」

「……俺は医学生だ。患部を確実に切除するのが仕事なだけだ」

優太はスキットルのウィスキーを喉に流し込み、ウィスターを見た。

「あんた、魔法の天才らしいな。全属性使えるってのは本当か?」

「ああ、ギャンブルの確率操作から、女を口説くためのオーロラまでな。だが、実家(世界樹の森)からは追放されて、今は借金取りから逃げ回ってる身だわ」

優太、ダイヤ、リリス、ウィスター。

戦地救護のスペシャリスト、極貧の重装騎士、リストラされた財布泥棒の女神、そして飲む打つ買うの放蕩賢者。

「……決まりだな」

優太はG-SHOCKの時刻を確認し、全員を見た。

「引き落としまで残り68時間。今夜の酒代を引いても、まだ金貨88枚足りない。……ウィスター、ダイヤ、リリス。俺の返済オペに付き合ってもらう。最高難易度の依頼を受けて、一気に稼ぐぞ」

「ふん……面白い。競馬の軍資金が必要だったところだ」

「貴殿がそう言うなら、私は信じよう。共に行こう、ユウタ!」

「お菓子がいっぱい食べられるなら、どこまでもついて行きますぅ!」

アナステシア世界で最も危険で、最も「金に困っている」パーティーが、ここに結成された。

「……支払日まで、あと3日か」

優太は新しいアメスピに火を点けると、暗雲立ち込める異世界の夜空に向かって、静かに煙を吐き出した。

次の戦場(依頼)は、死蟲王の息吹が漂う『天魔窟』——生きて帰らねば、待っているのは深海の蟹工船だ。

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