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婚約破棄で追放された悪役令嬢ですが、隣国で『魔道具ネット通販』を始めたら金貨スパチャが止まりません〜私を追い出した王国は経済崩壊しました〜  作者: はりねずみの肉球
第5章:帝国での大バズり! 新商品と金貨の雨

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シーン1:【帝都の中心で覇を唱える】大商会の誕生と、物流センターの構想

コツ、コツ、コツ。

ピンと張り詰めた冷たい朝の空気を切り裂くように、硬質なヒールの音が、広大な空間に規則正しく反響する。

足元に広がるのは、泥と埃にまみれた土の床ではない。帝都の凄腕の職人たちが三日三晩かけて磨き上げた、鏡のように周囲を反射する純白の大理石だ。

俺の歩みに合わせて、真新しいシルクのドレスの裾が擦れ合い、シャラシャラと心地よい衣擦れの音を立てる。

アルフェン王国を追放された日に着ていた、あの泥だらけのドレスはとうの昔に暖炉の火にくべた。今俺が身に纏っているのは、帝都で一番の仕立て屋を大金貨で叩き起こし、徹夜で作らせた『セシリア商会・初代会頭』としての戦闘服だ。

深い夜空を思わせるミッドナイトブルーの生地。貴族の過剰な装飾を削ぎ落とし、機能性と圧倒的な威厳だけを残した、細身で洗練されたシルエット。


「キュ、キュアッ……ツルッ、ドテッ」


俺の足元を一生懸命についてこようとしていたウニが、滑りすぎる大理石の床に短い足を取られ、無様に転がって仰向けになる。

青い針の生えた背中を下にして、亀のように短い手足をジタバタとさせているのが酷く滑稽で、愛らしい。

俺は立ち止まり、ドレスの裾を邪魔にならないようにさばきながらしゃがみ込む。


「ははっ。お前にはまだ、この床は早すぎたか。ほら、掴まれ」


俺が指を差し出すと、ウニは「キュイッ!」と鳴いてその指に短い前足を絡ませ、器用に俺の肩の上へとよじ登ってくる。

肩の定位置に陣取ったウニの温もりを感じながら、俺はゆっくりと立ち上がり、改めて自分の新しい『城』を見渡した。


帝都の中心部、皇帝の宮殿から馬車でわずか十分の一等地。

かつては帝国軍の武器庫として使われていたという、巨大な石造りのドーム型建築物。それをレオンハルト皇帝の権限(と俺の莫大な資金)で強引に買い上げ、内部を完全に改装したのだ。

見上げるほど高い天井からは、無数の魔力照明が太陽のような光を降り注いでいる。

だが、この広大な空間を埋め尽くしているのは、優雅な調度品でも芸術品でもない。


「……よし、第七から第十までの転送陣、魔力充填完了。いつでもいけるぞ」

「梱包班、手が止まってる! 美容液の小瓶は割れ物だ、緩衝材をケチるな!」

「送り状の宛名と波長番号のダブルチェックを徹底しろ! 誤配は商会の信用問題だぞ!」


ドーム型の空間を埋め尽くすように規則正しく並べられた、何十台もの巨大な作業台。

その間を縫うように、お揃いの清潔な制服を着た数十人の従業員たちが、怒号を飛ばしながら小走りで駆け回っている。

彼らが手にしているのは、昨晩の配信でさらに追加受注した『黄金の薔薇美容液』の小瓶と、それらを安全に帝国貴族の館へ送り届けるための梱包箱だ。


ここはこの異世界で初めて誕生した、近代的な『超巨大物流倉庫フルフィルメントセンター』。

俺の頭の中にある現代ECの物流システムを、魔道具と人海戦術で完全に具現化した、商売の心臓部だ。


「セシリア様。朝の視察ですか」


背後から聞こえた重厚な金属音に振り返ると、そこには黒銀の甲冑に身を包んだ、近衛騎士団第七部隊隊長ガランの姿があった。

彼は皇帝から俺の護衛を任されているはずなのだが、その手にはなぜか、分厚い羊皮紙の束(在庫管理表)が握りしめられている。

完全に俺の商会の『現場監督』として使い倒されている状態だが、本人は満更でもないらしい。


「おはようございます、ガラン隊長。夜通しの作業、ご苦労様です。……発送の進捗はどうなっていますか?」


「はっ。昨晩の通信(配信)で獲得した『継続の誓い(サブスクリプション)』の新規契約者五百名様分、および単発購入の千名様分の梱包が、先ほどすべて完了いたしました。これより、転送陣を用いた一斉発送の手続きに入ります」


ガラン隊長の声には、隠しきれない興奮と、得体の知れないものに対する畏怖が入り混じっている。

無理もない。

これまでの帝国の商売といえば、商人が馬車に荷物を積み、数日かけて貴族の館を一つ一つ回り、玄関先で頭を下げて売り歩くのが常識だった。

それが今、俺の目の前にあるのはどうだ。


「素晴らしい手際です。では、一斉送信のスイッチは私が押しましょう」


俺はドームの中央に設置された、一段高い司令塔のような場所へと歩みを進める。

そこには、巨大な一枚板の制御盤が鎮座し、数十個の『物質転送陣』を統括する魔力回路が集約されている。

俺が制御盤の前に立つと、作業台で梱包をしていた従業員たちが一斉に手を止め、こちらに注目する。


「全員、よく聞いて」


俺の声は、魔道具の拡声機能を通して、巨大なドームの隅々にまで反響する。

従業員たちは、スラムの孤児や、ギルドからあぶれた平民の若者たちだ。

彼らは俺が破格の給料で雇い入れ、徹底的なマニュアル化によって『誰でも間違えずに作業ができる歯車』として鍛え上げた、俺の誇るべき兵隊たちである。


「たった数日前まで、あなたたちは泥水をすすり、明日のパンにも困る生活をしていました。ですが今、あなたたちの手の中にあるその小さな箱が、帝国の高慢な貴族たちの肌を、そして心を支配しています」


俺の言葉に、彼らの目に強い光が宿るのが分かる。

身分など関係ない。確かな『対価』と『役割』を与えられれば、人は誰でも最高の仕事をする。


「私たちの商売は、ただ物を売ることではありません。箱を開けた瞬間の『感動』と『圧倒的な価値』を、帝国の隅々にまで張り巡らせる魔法です。……さあ、帝都の朝を、我々の商品で染め上げなさい」


俺は制御盤の中央にある、巨大な真紅のレバーに手をかけ、一気にそれを押し込んだ。


ガコンッ!!

キィィィィィィン……ッ!!!


鼓膜を圧迫するような、凄まじい魔力の駆動音。

ドーム内に設置された数十の物質転送陣が、一斉に目も眩むような青白い閃光を放つ。

バチッ、バチバチッ!

オゾンの焦げた匂いが一瞬にして空間を満たし、光の柱が天井を突き破らんばかりに立ち昇る。

そして次の瞬間、作業台の上に山積みになっていた千五百個の梱包箱が、まるで蜃気楼のように音もなく虚空へと消え去った。


「……全件、転送完了。魔力回路、正常値に低下しました」


制御盤の数値を確認したガラン隊長が、震える声で報告する。

たった一秒。

瞬きをする間に、千五百件の取引が成立し、帝都中の貴族の館の受信トレイに俺の商品が物理的に叩き込まれたのだ。

従業員たちから、自然発生的に「おおぉっ……!」というどよめきと、割れんばかりの拍手が巻き起こる。

「キュイッ! キュイイッ!」

俺の肩の上で、ウニも短い前足をパタパタと打ち鳴らして拍手をしている。


「……恐ろしい光景です、セシリア様」


ガラン隊長が、額に滲んだ脂汗を甲冑の袖で拭いながら、俺の横に並んで呟いた。


「昨晩、あの『黄金の薔薇美容液』を初めて手にした貴族の令嬢たちから、深夜にもかかわらず宮殿にまで悲鳴のような感謝状が殺到したそうです。……なんでも、『鏡を見るのが恐ろしくなくなった』『十年前の肌が戻ってきた』と」


「ふふっ。当然です。私の商品は、絶対に客を裏切りませんから」


俺は腕を組み、満足げに鼻を鳴らす。

コンプレックスを煽り、そこに最強の解決策を提示し、毎月の自動課金に縛り付ける。

一度この快楽を知ってしまった帝国の女たちは、もう二度と俺の商会から逃れられない。

俺の指先一つで、彼女たちの美しさが決まるのだ。


「しかし、セシリア様。問題も起きております」


ガラン隊長の表情が、すっと引き締まる。


「帝都の商人ギルドが、完全にパニック状態に陥っています。セシリア様の商会が帝国市場の富を独占し始めたことで、彼らの抱える在庫が全く売れなくなり、倒産する商会が続出しているとのこと」


「あら、それはお気の毒に」


俺は口元を扇子で隠すようにして、わざとらしく目を伏せる。

だが、その実、腹の中では痛快さに笑いが止まらない。

時代遅れの粗悪品を、特権階級の威光だけで売りつけていた豚どもが淘汰されるのは、自由競争の当然の帰結だ。


「ギルドの幹部たちは、セシリア様が『不当な魔道具を使って市場を荒らしている』として、近々大規模な抗議活動、あるいは実力行使に出る準備を進めているという情報が入っております。……いかがなさいますか。私が近衛騎士団を率いて、ギルドの本部を物理的に制圧することも可能ですが」


ガラン隊長が剣の柄に手をかけ、物騒な提案をしてくる。

レオンハルト皇帝の後ろ盾がある以上、それも簡単だろう。

だが、それは三流のやり方だ。暴力で黙らせても、人々の心には反発が残るだけ。


商人の喧嘩は、暴力ではなく『圧倒的な資本力と集客力』で殴り勝つのが一番美しいのだ。


「お気遣いありがとうございます、ガラン隊長。ですが、騎士団の剣を血で汚す必要はありません。彼らが実力行使に出るというのなら……こちらはさらに上の『熱狂』を被せて、彼らの存在そのものを客の記憶から消し去って差し上げましょう」


俺は制御盤から離れ、ドームの奥に設置された、今夜の『配信』のための特別スタジオへと視線を向ける。


「彼らはまだ気づいていないんです。私の商会が、ただ物を売るだけの場所ではないということに」


「……と、仰いますと?」


俺は肩の上のウニを撫でながら、最高のエンターテインメントの幕開けを予告する、ゾクゾクするような笑みを浮かべた。


「今夜の配信は、ただの商品紹介ではありません。……帝都のすべての民衆を巻き込んだ、『超大型の祭典セールイベント』の開催宣言です」


俺の頭の中には、すでに現代EC最大の暴力装置――『ポイント還元祭』と『福袋』の極悪な組み合わせが完成していた。

商人ギルドの息の根を完全に止める、黄金のスパチャの嵐が、今夜再び帝都に吹き荒れるのだ。

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