7.自由な心
それから。
コーデリアはサミュエルとの相性を探るために、ガスリー家を出て、かつて別の貴族が使っていたという小さな別荘を買い取った。結婚を待ってくれるとの話だったので、試しに二人で暮らしてみることにしたのだ。
ガスリー家から持参金を返還してもらい、その中から生活費を捻出する。家計は厳しくなり、使用人も少ししか雇えなくなったが、コーデリアは新たに得たこの古びた住処が気に入っている。
コーデリアはサミュエルと話し合い、部屋の間取りやインテリアを二人の使いやすいように変えて行く。
郊外に、二人の帰る家が出来た。
サミュエルとの生活は、思った以上に心が休まる生活だった。若さゆえの刺激を求められると困るなどと心配していたが、それも杞憂に終わった。
二人で過ごす、つつがない日常。
既成事実を重ねる内、最初は二人の結婚に難色を示していたハルフォード家も、二人を認めざるを得なくなっていた。そして意外にも、彼女がこどもを二人産んでおり、その中のひとりが男子である点、また彼らが立派に教育されていた点が決定打となり、二人は結婚を許された。
コーデリアは二度目のウェディングドレスに袖を通す。以前のように華美で真っ白なドレスではなく、淡いクリーム色のシンプルなドレスだった。
式は大々的に行わない。片田舎の、小さな教会で式を挙げる。
この地域のしきたりに則り、家から教会まで、サミュエルと共に歩く。彼女は、以前の政略結婚とはまた違った高揚感を味わっていた。
隣で歩くサミュエルがめちゃくちゃ嬉しそうなので、コーデリアもつられて笑う。
年齢差は縮まらないが、心はもう寄り添っている。
教会が見えて来た。ハルフォード家、ガスリー家、トライヴァル家の面々が集まっているのが見える。その最前列で、少し大人びたアーサーとチェルシーが両手を振り二人を祝福していた。
心地よい初夏の風が吹いて来る。
「……不思議ね」
「何がですか?」
「何度もあなたの好意を断わったのに、今、二人でこうしているなんて」
サミュエルは不敵に笑う。
「断わられたから、むしろ燃え上がったのかもしれませんよ」
「まあ……そんな破れかぶれな気持ちだったの?」
「そう言われるとな……けれど、あなたを振り向かせるのは難しいだろうとは感じていました」
コーデリアは頷く。
「あなたはとても難易度の高い恋をしたのね」
「はい。でも時間はかかりましたけど叶ったので、今はただ嬉しいです」
「私……あなたに何が出来るかしら」
「もう難しいことは考えなくていいですよ。そばにいてもらえれば、それでいいです」
コーデリアは自分を犠牲にしてでも、誰かに何かを与え続けていた。
それが自分の責務だと信じて疑わなかった。
けれど、今日からは与えられる番。
コーデリアはサミュエルの頬にキスをすると、小さく囁いた。
「もう少しゆっくり歩きましょう。この景色を、ずっと見ていたいの」
彼女に言われ、サミュエルが歩く速度を落とす。
コーデリアは近づいて来る幸福な景色に、静かに心を震わせるのだった。