表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/59

魔法適正

 新学期が始まって早一週間。

 そこそこクラスにも慣れ、聖奈人のコミュ症もそこまで酷くなくなってきていた頃だった。

 そしてそれは、今年もきた。

「今日も授業は午前で終わります。まぁ授業といっても、今日はみなさんに魔法適正やその周辺のお話をすればそれで終わりになるんですけどね」

 今日は魔法適正の授業だ。

 あの日から毎年一回は行われる特別カリキュラムだ。

 それまで絵本や漫画の中だけの空想の物だと思われていた魔法。

 そんな夢物語だと思われていた魔女、魔法が突然現実に現れ、子供の頃夢見たであろう物が唐突に身に宿ったのだ。

 最初は驚いた。

 次第に慣れ、次は使ってみるようになった。

 もちろん暴走や、使いこなせず事故が起きたこともあった。

 そこで考えられたのが、現時点でわかっていることを総復習する、それが今日やる授業だ。

 この日の午前だけは全世界が動きを止めて魔法についておさらいをするということになっている。

 しかし悲しきかな、初めてこの講習を受けた時から現在に至るまで解明されたことなどほとんど無い。

 魔法のエキスパートである魔法少女は一切姿を見せないし、挙げ句の果てには行方不明になる始末である。

 ちなみに、どの魔法少女が行方不明になったかわかっているのは聖奈人だけだ。

 いくつかもの街を覆っていた魔力フィールドが消失し街が丸裸になるということが起こり、魔法少女は何をしているんだ、まさか死んだのか、どんな魔法少女が死んだんだ、などという憶測が飛び交ったが、直接助けられた人間たち以外は魔法少女がどんな姿をしているかも知らないし、そもそも存在を疑っている人間もいる。

「魔女は魔法で私たちに魔法少女という幻影を見せる自演炎上マッチポンプで、私たちが浮かれている間に全滅させるんだ!」

 などと、直接魔法少女に助けられ、本人から得た魔法が消失した聖奈人のような事情を知る人間からすると、失笑ものの大層な演説をインターネット上で、街角でする者がいるのだ。

 とはいっても信じる者は一定数いるわけだし、類は友を呼ぶというか、そんな終末思想を持っているものが集まって声を大にして言うものだから不安は民衆に浸透し、心の奥底では「魔法少女はいないのかも」と疑っている者も出始めているようで。

 話は脱線事故並みに脱線したが、ともかく、本日の授業は魔法適正についてのことである。

 正直いって、変わりばえのない話の内容に聖奈人は飽き飽きしていた。

 毎年同じ話を聞かされるのは苦痛だ。

 はっきり言ってここにいる誰よりも魔法についてなら詳しい自信がある。

 もちろん、教える側の教師よりも。

 退屈そうに、眠たげに美月を眺める。

 そんな聖奈人に目もくれず、というより気づいていない様子で美月は解説を始めた。

「魔法適正というのはですね、魔女が私たちに人間にかけたあの魔法、通称『大天災』と呼ばれています正式名称は魔女にしかわかりませんが……。大天災の効果はみなさんしっていますよね?男性は菜種君のように女性に間違えられたパターンや、なんらかの方法で自身で魔法を断ち切るなどが出来た特別な人以外は全員消えてしまいます。特に何もないのに偶然生き残れた南宮君は本当に例外、という感じでしょうか?女性はみなさんの様な姿に変えられてしまうという効果を持っていますね。ま、まぁ……私はこの姿でも満足ですけど……」

 頰に手を当てて体を捩らせ恥ずかしそうに言う。

 何が嬉しいのかさっぱりわからない。

 しばらく恥ずかしそうにもじもじとしていたが、周りの目線に気づいて一つ咳払い、話を戻す。

「は、話を戻しますね。大天災を身に受けた人たちは、先ほど言った通りの症状を発します。しかし、その魔法をなんと、自分の物に出来た人たちがいます。それが魔法少女です」

 ここまでがテンプレート。

 今年も特に目新しい情報はなさそうな予感がしている。もうすでにがっかりだ。

 琴葉の姿が目に入った。

 琴葉も暇そうに解説を聞き流しているようで、飽きているのは自分だけではないと安堵する。

 なんとなく、意識して銃が座っている席をみると、意外なことに退屈そうに欠伸をしながらシャープペンシルをくるくると回していた。が、成功することはなく、何度も落としては拾うを繰り返していた。

 真面目である銃はこんな何度も聞かされた話とはいえ露骨にそんな態度をとるとは、考えられなかったのだ。

 全体的に退屈そうな空気を醸し出しながらも、なおも美月は解説を続ける。

「魔法少女の方々は現在どこにいるかわかりませんが……そもそもいるかどうかも定かではないという意見の方もいますけど、私的な意見になりますが先生はいると思います。いや、いて欲しいですね。人類の希望、すばらしいじゃないですか」

 美月が両の指を絡ませ、目を閉じて物思いにふける。

 数秒後に目を開き、パンと手を鳴らして再び話し始める。

「では、次は魔法適正のもう少し突っ込んだ話をしましょうか。魔法適正は、文字通り魔法を使えるかどうかの適正です。魔女の魔法、呪いを身に宿してはいますが、それを自らの力に変換できるかどうかは別問題なんですよね。現に、この中に魔法適正がある人とない人、いますよね。ちなみに、先生にはありません。このクラスだと……十二夜さんがありますね。十二夜さん、少し魔法を使ってみせてくれていいですか?」

 突然琴葉が指名される。

 まさか指名されるとは思っていなかった琴葉は不意を突かれて「ひゃ、ひゃいっ!」と変な声を出してガタリと大きな音を立てて立ち上がり、クラスから笑いが巻き起こる。

「しずかにしてくださーい。ではお願いしますね」

「は、はい」

 琴葉が返事をすると同時に集中を始める。

 すると、手のひらから色々な色をないまぜにしたような取り留めのなく、掴み所ない、見ていて不安になるような色をした魔力の塊が放出された。

 魔力の塊は一つの形を取らず、次々と形を変化させる。

「このように、放出される魔法は魔女を体現したかのような禍々しい色をしています。それに、一定の形をとることが出来ません。日常生活などにはとても使えませんね。火種ぐらいにはなるらしいのでサバイバルなどでは使えそうですね。攻撃も出来ますし。言ってしまえばほぼ攻撃用なんですよ。ちなみに、魔法で人を傷つけたら普通に罪に問われるので気をつけてくださいね」

 そこで、琴葉はそうだ、という風に顔を少し歪めた。

 具体的には、一定の形をとることができない、の辺りでだ。

 昨日一昨日に見た、緋那を思い出しているのだろう。

 緋那は、通常特定の形を取れないはずの魔法を完全に刀剣の形に固定していた。

 それが出来るのは聖奈人も同じことだが、それは誰にも話していないことだ。

 言えば必ず騒ぎになる。

 騒ぎになれば、聖奈人と緋那が日の下に晒されることになるのだ。

 すると、目をつけた魔女が何をしてくるかわからない。

 あの頭の悪そうな緋那でさえ、あそこまでに抑えている。

 正直言って、あそこまで解放しているだけで馬鹿だというのに。

 後でフォローしておかないといけないとヤバイことになるなと肝を冷やす。

「もういいですよ、ありがとうございますー」

 琴葉が手のひらをぎゅっと握り、魔法を消し、今度は音を立てないよう座る。

「と、いうわけで。本日はここまでですね。みなさん、さようなら。まだ侵入した何かはこの辺りをウロウロしているらしいですから、気をつけてくださいね」

 授業は始まったばかりだというにもう終了した。

 しかし、マシンガンのように話をぶち込まれたので短時間とはいえ疲れてしまった。

 両腕を頭の後ろに回し「やれやれ」と息をついて格好をつけてから銃のもとへと向かう。

「お前にしては珍しく不真面目な感じだったな」

 聖奈人が銃に話しかける。

 すると、眠そうな目で聖奈人の方へと振り返る。

「ん……あぁ、聖奈人くんか」

「なんか眠そうだな」

「そうなんだよね。昨日、少しやらないといけないことがあってさ」

「それは大変だな」

「まあね。……それでなんだっけ」

 どうやら相当眠いらしく、今聞いたことも忘れてしまっている。

「お前にしては不真面目だって話だ」

「あぁ……。まぁ、仕方ないだろう。今更分かりきった、自分の忌まわしい記憶をほじくり返されたら流石に聞く気もなくなってしまうよ」

 目を閉じて飽き飽きという風にやれやれポーズを決める。

「昔なんかあったのか?」

「まあ、ね」

 意味ありげに銃が笑う。

 いつでも余裕そうに振る舞い、ああ言えばこういうような物言いで話す相手を楽しませてくれる銃が同じような言葉を返すところを見ると、なかなか限界が来ていることが垣間見える。

「今日はもう帰って寝ろよ」

「そうさせてもらうよ……」

 ふらふらと立ち上がり、意識が朦朧としたまま歩き出した。

「おいおい、ふらふらじゃねーか。送っていくぞ」

「ん、悪いね」

 普段なら気を使って拒否するだろうが、人の手を借りないといけないほどだと自分でわかっているのだろう。

「つーことで琴葉、かな、先に帰っといてくれ」

「わかったわ。あ、後で聞きたいことあるから」

 聞きたいこと、といえば多分緋那のことだろう。

「奇遇だな。俺もお前に言いたいことがあったんだ。じゃあ、また後で」

 手を振り、琴葉と佳凪太に別れを告げる。

 先ほどよりも余裕がなくなった様子の銃は挨拶を交わすこともせずに聖奈人に連れられるまま教室から出て行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ