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趣味

「悪いね聖奈人くん……」

 廊下を聖奈人が銃に力を貸して歩く。

 ゆっくりと歩いているので、後ろから来た人たちにどんどん抜かされる。

 その抜かして行く人々全員が銃の顔を覗き込み「大丈夫?」と心配する。

 銃は力なく「大丈夫」と答えるが、説得力は一切ない。

 そして次に聖奈人の顔を覗き込んで「あんたは何よ」と聞く。

 それに対して聖奈人は「送るだけだ」とテンプレートの回答をする。

 すると、舌打ちをしてから去っていく。

「俺が……何をしたんだ」

「はは、みんな君が珍しくて怯えてるのさ。興味はあるようだけどね。あの態度は興味の裏返しということだよ」

 少し調子が戻ったようで安堵する。

 だが眠そうなのは変わらず。

 「お前、昨日の夜何してたんだ」

「別に」

 沢尻かお前は。

「……まさか」

「まさか、なにさ。……多分、何も考えてないとは思うけど」

「正解だ。なんとなくやってみただけだ」

 銃はやれやれ、と呆れた顔でうな垂れた。

 そして、靴を履き替え、校門をくぐり抜ける。

 もう体力が残っていないようで、ぐったりと聖奈人に力を借りることだけでは止まらず、肩を貸される形で運ばれる。

 聖奈人は聖奈人でそのあまりの重量に体力をごっそり削られながら必死の思いで銃を運ぶ。

 途中で辛抱きかなくなり、その辺りを走っているタクシーを捕まえて銃を乗せた。

 料金が高くつきそうだが、背に腹は変えられない。

 涙を飲んでタクシーへと乗り込む。

 今月、また節約しないとな……。



 料金は五百円で済んだ。

 ワンメーター程度しか走らなかったようで安心した。

「すまない聖奈人くん……このお礼は必ず……」

「いいって。俺がやりたいからやってんだ」

 銃の家には誰もいないようで、なんだか悪いことをしているような気分になりながらも総重量百キロを超える銃を気合と根性と血と汗と涙でベッドまで運び込んだ。

 先ほど悪いことをしている気分になると言いつつも、このまま放っておく方が悪いので家事をしてやることに決める。

「キッチン借りるぞ」

「そこまでしなくても……」

「嫌か?」

「嫌じゃ、ないけども」

「ならいいよな。母親はどうした?」

 父親は大天災でいなくなっていることはわかっているし、母親のことを聞くだけで充分なのだ。

「お母さんは……仕事。しばらくは帰らないって……」

「なら、尚更一人は厳しいか。明日は休みだし、看病してやるよ」

「本当にそこまでお世話になるわけには……」

「遠慮すんな。俺は多少自分に負担が掛かっても、その人が笑顔になるならなんとも思わないんだ」

「それ、私のセリフじゃないか」

 はは、と笑みを漏らす。

「ほら寝てろ寝てろ。さっさと寝て元気になっちまえ」

「……うん、おやすみ」

 そういうと銃はすぐに寝息を立て始めた。

 よっぽど疲労が溜まっていたのだろう。

 何をしていたか知らないが、こんなときくらいゆっくりしないと体にも心にも毒だ。

 と、ここで聖奈人は一つのことに気がついた。

 ここは女の子の部屋ではないか。

 男が女の子の部屋にあがる、なんてとんでもないイベントを今までなんの違和感もなく忘れていただなんて、不覚。

 ……しかし、一切ドキドキしない。

 寝ているのが頬を赤くしたゴリラだからだろうか。いや、それに違いない。

 せっかく初めて琴葉以外の女の子の部屋にあがったのに、なんだか悲しい気分に包まれる。

「はぁ……さて、飯作ってやるか」

 先ほどの宣言通り銃に食べさせる昼食を準備し始める。

 うどんのような、軽くてあっさりとした物がいいだろう。

 近所のスーパーへと足を運び、買ってきてやろう。

 なけなしの有り金を使って女の子へと料理を振る舞う、なんて漫画の主人公のようなシチュエーション。

 ゴリラ相手じゃなかったらもっと燃え、萌えただろうに。

 肩を落とし、とぼとぼとスーパーへと歩き出した。



「お前この辺に住んでんのか」

 店内を見ていると、そこには緋那の姿があった。

 顔を手で覆って、緋那はここに来たことを後悔した。

「ちっ、昨日の今日でもう会っちまったか。最悪だ」

「最高の間違いだろ」

「てめぇ、自分で言って恥ずかしくねぇのか?」

「全然」

「……そうかよ」

 そういってその場を立ち去ろうとする。

「あ、ちょっと待て。こないだの話の続きだ。お前、これ以上あれを使うなよ。出すのもダメだ。俺の幼馴染みに気づかれかけてる。鈍いあいつが気づくくらいなんだよ。他の人に見られたらどうなるか。噂は広まるのが早いぞ」

「わかったわかった。いくら俺だって都市伝説になる気はねぇし、魔女にわざわざ殺される気もねぇよ。もう行くからな」

 何故か先を急ぎたがる緋那。

 その態度に何か違和感を覚える。

「急いでんのか?」

「あ?なんだってそんなこと聞くんだよ」

「なんか変だなって思ってさ……その手に持ってるのなんだ?」

 聖奈人が緋那の手に持っている物を発見する。

「な、なんでもねぇよ」

 怪しさ全開のセリフを吐き、手に持っているものを後ろに隠したうえで汗を流して狼狽え始めた。

 これではもっと突っ込んできて下さいと言っているようなものだ。

「そう言われると見たくなるなぁ……。それっ!」

 一瞬の隙を突いて緋那からそれを取り上げる。

 その商品の外箱に書かれていた文字は……。

「魔法幼女……プリティ・ロリ子?」

「……なんだよ、文句あんのかよ!そうだよ、俺は子供向けのアニメを毎週かかさず見てるんだよ!なんか悪いか、あぁ⁉︎」

 買おうとしたものを見られ、突然怒り出す緋那。

「クソ、じゃあな!」

 そして怒りのあまり何も買わずに店を飛び出そうとする。

「待て!」

 聖奈人が緋那を引き止める。

 出すしかし、緋那は止まる気配を見せない。

「二十二話のBパート!」

聖奈人がそう叫ぶと、緋那はピタリと足を止めた。

「……!」

 そして、ゆっくりと振り返る。

「ロリ子とヴァヴァアが真に敵対するシーン。それまで仲睦まじい二人だったけど、お互いの正体を知ってから本当は戦いたくないのに、自らの使命のために否応なく戦うところだ。二人の心理描写もはっきりしていて、尚且つそれまでの仲が良かった場面が相まってロリ子も不人気のはずのヴァヴァアの方も悲壮感が漂ってて俺的にはグッドだった!さぁ、お前の意見を聞かせろ!」

 店内は静まり返っている。

 たが、聖奈人はそんなこと一切気にしていない。眼中にない。

「………………なぁ」

「なんだって⁉︎」

「俺的にはなぁ!通常はあまり深く掘り下げられないであろう敵キャラも深く掘り下げたところに好感が持てる!」

 そう言ったところで、聖奈人がスマートフォンを取り出して、緋那にメールで画像を送信した。

 数秒後に緋那の携帯電話がブルブルと震えだし、メールが受診される。

 そのスライド式の携帯電話を取り出し、メールボックスを開く。

 聖奈人から送られてきたメールを開くと、ロリ子のエロ画像。

「それ、俺が描いたんだ」

「……お前が……?」

「時代が時代だからな。エロ画像とか一切無いし、あったとしても昔の物か女向けの物だけだ。だから、自給自足するしかないかなって、さ。練習したんだぜ?」

「……大切にするぜ、この画像」

 データフォルダに保存し、消さないようロックをかける。

 それだけをすると、今度こそ店から去ろうとした。

 と、その時に聖奈人のスマートフォンに一着のメールが届く。

 文面には、緋那の家の思われる住所が書かれてあった。

「今度……うちにこいよ。小学校の時河原で拾ったお宝を共有しようぜ」

「お前……っ!」

「じゃあな、親友」

 片手をポケットに突っ込み、もう片方の手で二本指を立て、去り際に格好をつけて挨拶をした。

 その刹那、片耳にキラリとオレンジと黄色……いや、光のせいで金色に見える光を放つピアスが見えた。

 それを見て、聖奈人も自分の首に下がっている黒いネックレスを触る。

「……よし、頑張るか」

 聖奈人はより邁進することを、より良質のエロ画像を描くことを胸に誓う。

 その時、聖奈人の肩にぽん、と何かが置かれた。

 振り返ると、そこには店員が。

「お客様、他のお客様のご迷惑になるので、大声で叫ぶことはおやめください」

「……すみませんでした」

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