最終話 スバラシサとは
■最終話 スバラシサとは
奇数回は、場面が校長室から始まると思っている、そこのアナタ。そうも思っとらん?まあともかく、今回は「最終話」なので、いつものパターンは通用しないのですよ……ふっふっふ……そういうアンタこそ誰?みたいな。
体育館に、西條令の声が響く。
「こんにちは、西條令です。本日は、私の生徒会長立候補演説を聞いて頂けること、大変ありがたく思います。投票の是非にかかわらず、この演説を聞いたことが、皆さんに糧となったと思って頂けるよう、心を込めて、臨みますので、宜しくお願いします。なお、現在は、風紀委員として、委員長兼務の会長を、補佐しています。このたび、思うところがあり、次期生徒会長に、立候補致しました。」
館内には全生徒が座し、演説に耳を傾けていた。高城春樹は応援演説者として、西條の脇に待機しているが、動揺を隠せていない。
伴侶……伴侶!ハンリョって、これえぇぇぇ!?ぐっはあ!!なんという、シチュエーション!!なんという、さらし者!!いやいや、これで俺達は誰もが認める公認ナントカ……ん?ナントカって、なんだ?なんて言うんだ!?これはっ!!分からん、わからーん、ぱからーん、ぱからんぱからん、ひひーん、ふぬおぉぉぉ!!
以上、高城の心情描写でした。放っておこう。
西條の演説は続く。
「私は、皆さんに、皆さん自身に、そのスバラシサがあることに、気付いて頂けるよう、生徒会を運営します。スバラシサとは、相手を思いやる、そして、ひいては自分自身を思いやる、労わりの心です。皆さんは、気付いているとおっしゃるかもしれません。余計なお世話とおっしゃるかもしれません。また、こう大上段に構えられたら、それこそ偽りのものにすり替わってもしまい兼ねないと、おっしゃるかもしれません。でも、敢えて、私は、言いたいのです。」
聴衆が一層、静かになった。いや、西條が言葉を切ったのだ。
西條は、全生徒の目を、心を、その間に見る。それは一瞬のことのようでもあり、長い時を経たことのようでもあった。もしかしたら、このとき限りは、時計の針が止まっていたのかもしれない。そういう不思議な時間が、空間が、そこにはあった。
そして、続く西條の吸気と呟きが、再び時空をゆっくりと始動させてゆく。
「私には、弱さがある。それは、何よりも、弱く儚いところ。それに気付いたのに、隠すことすらできないし、それどころか、弱い私には、とても守り抜くこともできそうにない。だから、あなたに守って欲しい。そして、あなたにも同じように、弱さがある。だからこそ、それを守って欲しいことが、分かってもらえる。そう、お互いに。」
西條は一息吐くと、口調を戻す。
「これが、思いやるということ、労わりの心です。ここで言いたいのは、労わりの心に気付くこととは、即ち、自分の弱さに気付くことであり、また、それを伝えることでもあるということです。これは、自分自身をそのままに表現すること、とも言えましょう。」
ふわりと笑顔になった西條は、最後の節を語り出す。
「だから私は、皆さんが、自分自身の表現を自由にできるよう、生徒会の規則を、改めていきたいと考えています。一例として、スカートの丈を定める規則……」
このとき、現生徒会長の星影昴?いや、フトモモ教の教祖は、心の雄叫びを上げた。
キタアアアァァ!!
やったぞ、やった!!
遂に、遂に、フトモモ教の時代が来る!!
いや、来た……来たのだ!!
これから神は無限大に増殖し、
そして、信者はまたその無限倍に!!
アレフゼロのアレフゼロ条的な!?
ウヒ、ウヒヒヒ、ヒヒン!ひひーん!
以上、教祖もとい、不審者の心情描写でした。以下略。もちろん、西條の演説は、そんなウマノホネの妄想的心情に阻まれることはない。
「この規則は、表現の自由を、数値で制限してしまっています。このような規則を今後、見直していくことと、また、必要であれば、表現を自由にするための規則を、新たに設けることもいといません。例えば、もふもふしたもの、ふわふわしたもの、そういったものを身にまとい、表現することは、自由です!そんな規則が、必要かもしれません。飽くまで一例ですが。」
歓喜していた不審者は、目が点になる。もふもふー、ふわふわー……なんのことだ?なんか一瞬、熱が入ってたし。
すると西條は、思い出したかのように付け加えた。
「ああ、言い忘れました。そのほかに、ふにふにしたものもまた、よいでしょう。」
不審者は泣く。ふにふにー……そうだ!それだあぁっ!フトモモのことを言っているに違いない!!イエーイ!!
「これで、私の立候補演説を、終わりにします。皆さん、ご清聴、ありがとうございました。」
西條の演説が、スタンディングオベーションで締めくくられる中、高城による応援演説へと移っていく。
体育館は次第に静けさを取り戻し、演台には高城が代わって立った。場を静寂が包んだ頃、高城は上ずった声で演説を始める。
「俺は、いえ、すみません!私は、生徒会長候補の西條令の、応援演説者を務めます、高城春樹です。私は、……私は、実はっ、西條令のっ!ハンリ……」
その瞬間、西條が高城の脇に飛び出した。西條の亜光速回転ひじ打ちが、高城の脇腹にクリーンヒットする。刹那、会場にどよめきの渦が巻くが、すぐに拍手と歓喜狂乱の波に打ち変わっていった。
西條さん、カッコイイ!!
会長を任せたい!!
怪盗ホチキスをぶっ飛ばせるわけだ!!
……的な。まあ、漫才というか、演出であると、善意に捉えたわけですな、生徒諸君は。
なお、このスバラシイ演説+αで、全生徒及び教職員は、無意識にもモフモフ教へと改宗した。フトモモ教の三名及び、そのほかただの一人を除いて。
その一人とは、校長。なぜなら、彼はこの演説のさなかもまた、校長室で椅子に腰掛けていたからだ。かの校長も、この演説を耳にすれば改宗したやもしれぬが、こうして良識(?)の府は、すんでのところで危うくも全滅を免れたのだった。
この演説ののち、フトモモ教の教祖は、西條へ意志が引き継がれたとド勘違いして、フトモモ教本部を解体した。その代わり、本部は、新生家具ブランド「芯―S(h)IN―」の工房となった。工房の主はバラー、そして資材調達はツーが担う。
因みにブランド名に新たに挿入された「h」は、家具の代表として椅子の象形を表し、且つ、ホチキス並びにヘンタイの頭文字であることを織り込んでいるとか。うん、どうでもいいことだね。




