調査官 アリウーラ教会 司教 ニクラウスの日記~ブロックバルド暦821年3月18日
イズリア学園の卒業式で前代未聞の出来事が起こった。
『王太子を含む数名の男子生徒達による侯爵令嬢への弾劾』である。
彼ら曰く、アリサ・フィール子爵令嬢は『聖女』で、その『聖女』であるアリサ・フィール嬢はこれまで誰かから数々の嫌がらせを受けていた。
そんな事をするのは王太子の寵愛を受けているフィール嬢に嫉妬した王太子の婚約者であるエレオノーラ・バスティア侯爵令嬢に違いない。
『聖女』は国の宝で、王族と同等の権力を有する。
その『聖女』を害するのは不敬罪である。
卒業の答辞の最中にアレクサンドル・エラ=ブロックバルド殿下が突然、そう言い放ったのである。
突然の王太子の言葉に在校生席で驚きの表情を浮かべるフィール子爵令嬢の手を掴み、無理やりといった風に壇上へと導き王太子に引き渡すリノリー・ベルモンヌ子爵令息。
そのあとに続き壇上へと登壇したサミュエル・コモンノルド小公爵、ビンセント・エルモア伯爵令息は王太子の両脇に立つとバスティア侯爵令嬢を睨み付けた。
元平民の子爵令嬢アリサ・フィール嬢の肩を抱き、婚約者であるエレオノーラ・バスティア侯爵令嬢に反論を許さず、『聖女アリサ』に行ったとする嫌がらせの数々を捲し立て、婚約破棄を言い渡した王太子アレクサンドル・エラ=ブロックバルド殿下。
在校生席で立ち上がり毅然とした態度で真っ直ぐ壇上の王太子殿下を見つめる侯爵令嬢と王太子殿下に肩を抱かれたまま青ざめて今にも倒れそうな子爵令嬢、自らの正義に酔いしれた様な恍惚とした表情で侯爵令嬢を弾劾する4人の紳士
一体何の茶番を見せられていたのか…
それにしても、侯爵令嬢の話を一切聞かず一方的に断罪するのは如何なものか…
私の感情は別として『聖女』という冠を掲げて行われた弾劾である為、教会も動かなくてはならない。
本来、上位貴族の血筋からしか生まれない筈の『聖女』
彼らは何をもってしてアリサ・フィール子爵令嬢を『聖女』と考えたのか?
まさか、フィール嬢自らがそう言って王太子らに近づいたのだろうか?
『聖女』と詐称することは罪である。
もし『聖女』と本人が吹聴していた場合、重い刑罰を下さねばならない。
兎も角、明日早々に教会内で協議を行った後、関係者ひとりひとりに聴取することになるだろう。
しかし、4人の名だたる紳士が一人の令嬢にここまで篭絡されるとは…
これでは『聖女』というより『毒婦』と言った方が相応しいのでは?と思わざるを得ない。




