第5話 大柄な魔族
「アルトさん、大変です! 街の入り口に、狂暴化した魔族が現れました!」
ハンスくんが青い顔をして駐在所に駆け込んできた。
住民たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、僕と、そして「アルトくんの邪魔をする人は……私がっ」と不器用そうに杖を握りしめるアオイは、街の境界へと向かった。
防壁の前にいたのは、漆黒の角を持つ大柄な魔族の男だった。
彼は目が血走り、口から泡を吹いて、大剣を狂ったように振り回している。
彼の体を包んでいるのは、あの赤黒いの霧だ。
「死ね……! 殺してくれ……! 頭の中がうるさいんだあああっ!」
「第一部隊のみんなを呑み込んだ呪いと同じだ……。ハンスくん、あの人は狂わされてる。僕が止めるよ」
「ええっ!? アルトさん、戦う気ですか!?」
僕が前に出ようとしたその時、アオイが僕の服の裾をキュッと引っ張った。
彼女は恐怖でガタガタと震えながらも、僕の前に一歩踏み出し、必死な顔で杖を構えたんだ。
「だ、ダメです、アルトくん! アルトくんは戦えないから……私が、守ります……っ!」
元々常人を凌駕する魔力量を持つ彼女の放つ魔法は、僕の『レストア』で修正、最適化されたおかげで、大陸最高峰に達している。
アオイが呪いの霧を吹き飛ばそうと、最高位の攻撃魔法を唱え始めた。
凄まじい熱量が周囲に渦巻く。
本来なら、魔族ごと周囲を一瞬で消し飛ばすほどの魔法だ。
だけど、アオイは実戦経験ゼロの、自信のない女の子だった。
迫り来る大巨体の魔族を見て、直前で「ひゃぅっ!?」と怖気付いて目を瞑ってしまった。
ドカンッ!!!
「ふぇぇぇ!? 外しちゃいましたぁ……!」
緊張で手元がブレた彼女の魔法は、ゴルザの頭上を遥かに越え、背後にある山肌を綺麗に丸ごと一つ消し飛ばした。
地形が変わるほどの威力なのに、命中率はゼロ。ただの超ド級の空振り。。
「ガアアアアッ!」
無傷の魔族が、アオイのポンコツな一撃に怒り狂い、大剣を振り上げて彼女へと肉薄する。
「ひ、ひぃっ……!」と腰を抜かして床にへたり込み、涙目でお腹を抱えるアオイ。大剣が彼女の白い髪を引き裂こうと振り下ろされる。
「――そこまでだよ」
僕は一瞬でアオイの前に滑り込み、振り下ろされた巨大な刃を、素手で『ガシィィィン!』と受け止めた。
「なっ……!? 素手で魔族の大剣を……!?」
ハンスくんが叫ぶ。
違う、僕は剣を受け止めたんじゃない。
剣の刃が僕の皮膚に触れた時、僕は『レストア』を発動し、大剣に込められていた狂暴な魔力を「一瞬で丸ごと僕の中に吸い上げた」んだ。
「ぐ、あ、ああっ……!?」
魔族の動きがピタリと止まる。
僕の右腕に流れ込む、世界中の悪意を煮詰めたような激痛。
だけど、僕はそれを優しく受け止め、僕の奥底にある深淵のような魔力で包み込んだ。
赤黒い呪いを綺麗な状態へと修正し、純粋な癒やしのエネルギーに変えて、男の体へと一気に送り返す――!
キィィィン……!
澄んだ光が走り、魔族の目から血走った赤みが消えた。
彼は大剣を落とし、そのままドスンと僕の足元へ膝をついた。
「頭の音が……消えた……?」
「うん、もう大丈夫だよ。……怪我はない、アオイ?」
僕は困り眉で笑いながら、床にへたり込んでいたアオイに手を差し伸べた。
アオイは、山を消し飛ばす魔法を使えるのに、僕の守り方に完全にノックアウトされたようで、
「アルトくんが、私を守ってくれた……えへへ……」
と、目をハートにして僕の手にすがりついてきた。
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