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番外編三 ある侍女のひとりごと 後編

前半はリリ視点。後半はラヴェンナ視点に戻ります。


 ラヴェンナさんと恋話してから、二日経った。

 今は昼過ぎ。私はシルビアーナの自室にいた。

 二人がけのソファに並んで座り、茶菓子をつまみながら話に花を咲かせる。


「あ、そうだ。ラヴェンナさんとグレイ様は上手くいったよ。次の休みの日に、お互いの家に挨拶に行くんだって。婚約も秒読みじゃないかな」


「まあ!お祝いを用意しないといけないわね!」


「うん。よかったよ」


 ドック様と共に、グレイ様のケツを叩いた甲斐があった。

 実は、七日前にこんなやりとりがあったのだ。


『ジュリアス!ラヴェンナ嬢と二人きりで何をしていたんだ!』


『人聞きが悪い言い方やめろ!このヘタレ!』


『なんだと貴様ァ!誰がヘタレだ!この酒乱!』


『んだとテメェ!やんのかコラぁ!』


 ラヴェンナさんとドック様が二人きりで話していたので、グレイ様が嫉妬心丸出しでドック様に詰め寄ったのだ。

 私は拳で仲裁し、二人から話を聞いた。


『と、言うわけで、ラヴェンナちゃんはお前の想い人を探しに行ったのでした』


『どうしてそうなるんだ!俺はラヴェンナ嬢一筋だぞ!』


 ゴールドバンデッド公爵家では周知の事実だ。グレイ様の嫉妬深さと独占欲も含めて。

 だけどねえ。


『ザックス、お前は言葉が足りない。外堀を埋めて囲い込むことしか考えてないだろ。ラヴェンナちゃんは初心で自信のない子だ。恋愛経験もない。はっきり『好きだ!』って言わないと伝わらないぜ?』


『ぐっ!そ、そんなことは……!』


『そうですよ。もたもたしているなら他の人を紹介しますよ』


『いや、ブランカ殿それは……は?紹介?』


『ええ。シルビアーナ様のご意向です。ラヴェンナさんにはマートル領でも仕えて欲しいので、良縁の世話をしたいと……』


『やめてくれ!わかった!ちゃんとラヴェンナ嬢に言う!』


 と、言うやりとりがあったのよね。グレイ様は護衛騎士としては有能なのに、恋愛が絡むとヘタレらしい。


「グレイ様からは感謝された。しっかり恩が売れてよかったよ」


「本当によかったわ。……これで、グレイとラヴェンナがマートル領に付いてきてくれたら良いのだけど」


「きっとそうなるよ。ラヴェンナさんはシルビアーナを敬愛しているし、私も説得するから」


 優しく穏やかなシルビアーナだけど、実は本当に信頼して気を許せる相手は少ない。身分と立場上無理もない話だけど。

 例えば、護衛騎士のドック様のことが苦手だ。あの豪快さと軽薄さが無理らしい。本人に悟らせるようなことはないけれど。

 グレイ様とラヴェンナさんは、そんなシルビアーナがそれなりに気を許せる相手だ。出来ればマートル領にも連れて行きたい。

 特に、ラヴェンナさんは必要な人材だ。


「それで、ティアナの恋人の件は?」


「黒。元ガーデニア公爵家の残党が裏で手を引いていた」


 恋人がティアナに近づいたのは、ゴールドバンデッド公爵家の情報を引き出すためだった。残党が商会の弱みを握っていたので、跡取りに命じて間諜の真似事をさせたのだ。

 目的は復讐。逆恨みもはなはだしい。


 もちろん、残党どもは始末した。商会も処分を受け、近く解体される予定だ。

 ティアナ自身は、何も知らなかったし殆ど情報を流していなかったのでお咎めなし。本人の安全のため、真実を告げることも出来ないけれど。

 失恋の痛みが早く癒えることを祈るばかりだ。


「他にも怪しい話が幾つかあったけど、それは精査中」


「ご苦労様。それにしても、ラヴェンナにこんな才能があったなんてね。話していて和む子だとは思ってたけど……」


「わかる。あの子、栗鼠みたいで見ててほっこりするし、話しやすいんだよね。油断を誘うというか……」


 あれは才能だ。本人には自覚がないけど。あと、侍女としてもなかなか優秀。際立った能力はないけれど、侍女としての必要な技能をそろえていて手際がいい。

 まあ、たまに暴走するのは玉に瑕だけど。


「自覚のないまま活用させてもらいましょう。リリ、絶対に逃しちゃ駄目よ?」


「わかってるよ。ラヴェンナさんは貴女の癒しでもあるしね」


 ちょっと嫉妬しつつ言うと、シルビアーナが満足そうに微笑んだ。


「私の一番の癒しは貴女よ。わかっているでしょう?」


「それはもちろん。誰にも譲らない……」


 シルビアーナが私の身体にしなだれかかる。


「……だから今夜、癒してね?」


「っ!もちろんいいよ。寝かせてあげれないかもだけど」


「あらあら。リリったらいけない子ねえ」


 からかう唇を奪い、ソファに身を沈めたのだった。



 ◆◆◆◆◆



 ザックスさんと恋人になってから、世界がなんだかキラキラしている。

 周りからも祝福してもらえてるし、来月には両家のご挨拶を済ませて婚約するし、来年の春には結婚するのが決まった。こんなに幸せでいいのかしら?

 というか、こんなに素早く色々進むものなのかしら?ザックスさんが有能だから?

 侍女仲間たちが『外堀埋め立て済みだからね……』と言っていたけど、どういう意味だろう?


 ところで、侍女仲間といえばリリさんだ。


 リリさんとシルビアーナお嬢様は、今日も仲睦まじい。互いを見る眼差しは、とろんと甘くて柔らかい。

 だからやっぱり……。

 まあ、幸せそうだからどちらでも良いけど。

 私とザックスさんも、お二人と一緒にマートル領に行くことになったし、いつかはっきりと教えてもらえるといいな。

 私は未来に思いを馳せつつ、今日も侍女として働くのだった。



 おしまい




ここまでお読みいただきありがとうございました。

今後も番外編を更新するかもしれませんが、現時点で書きたい話は全て書いたので完結表示にします。

他作品もふくめて、今後ともよろしくお願いいたします。

よろしければ、ブクマ、評価、いいね、感想、レビューなどお願いいたします。皆様の反応が励みになります。

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