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爛れ顔の聖女は北を往く  作者:
2.聖女、旅の仲間を得る

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40.効果はばつぐんだ!

 盛大なドヤ顔で胸を張って見せたシャナだったが、それも長くは続かない。

 せっかくさらさらになった髪を、顔がむかつくという理不尽極まりない理由で早速ぐちゃぐちゃにかき乱された。おのれライフル銃。化粧水で手もしっとりしていたため、昨日ほど引っ掛かりはなかったが許さん。


「シャナ……!」

「ぅえっ、はい!?」

 

 ジト目でヴィルを睨みつつ、乱れた髪を手櫛で整えていたシャナの肩を、がっしりとエドガーが両手で掴んだ。

 真剣な顔で見つめてくるエドガーに、何かやらかしてしまったかと不安になる。


 ヴィル相手にはもう数えきれないほどやらかし放題やらかした自覚はあるシャナだが、エドガーにはまだ聖女()であることだとか、異世界から来ただとかは話していない。

 あまりに素直で嘘のつけない彼の性格を考えれば、今後も話さない方がエドガーのためだろう。

 なので(これでも)エドガーのいるところでは発言に神経を使っているつもりである。――昨日はこの世界に来てからずっと張りつめていた緊張の糸が盛大に弾け飛んで、タガが崩壊したゆえの情緒不安定なのでノーカンとする。


 そんなわけで善良で純真なエドガー少年相手へのやらかしは思い当たる節がない。知らずにやらかしていた場合、土下座で許されるだろうか。

 ヴィルに助けを求めようにも、彼もきょとんとした顔をしている。なんて使えないんだ。


「これ、売れると思う!」

「へぁ……?」


 間の抜けた声と顔を晒してしまった。

 真剣に、目を輝かせて冒険者ではなく商人の顔をしたエドガーの向こう、シャナの間抜け面を見たヴィルが小さく噴き出していたのだけは見逃さなかった。



「――だから、絶対に売れると思うんだ!」

「へ、へー……。でもほら、今は旅の途中だし……」

 

 商人と化したエドガーが、懇切丁寧に化粧水とリンス液の素晴らしさや、需要の高さ、見込める収益などを熱弁するのを半分ほど聞き流しながら宿に戻ってきたところである。

 お金は欲しいが、すでに保湿剤があって使われている世界で、エドガーが言うほど儲かるビジョンがシャナには見えなかった。

 

 なんとなく流れでそのまま三人揃ってシャナの部屋に入ったはいいが、ベッド(木箱)と机と椅子が一つずつあるだけの簡素な狭い室内である。座る場所以前に人間を三人も収容するスペースが足りていない。


「狭いな……」

「なんでついてきたし」

「シャナ、俺の話聞いてる?!」

「はい、すいません!」


 ぽつりと漏らしたヴィルに言い返せば、エドガーから怒られた。理不尽が過ぎる。そして本当になぜヴィルまでついてきたのか。どうせなら部屋に入る前にエドガーを止めてほしかった。

 そう念を込めてヴィルを睨みつければ、彼は肩を竦めて見せた。シャナの視線に対する返答というのはわかるが、それがどんな意味なのか分からない。相変わらず空気も表情も読めないシャナである。


「エドガー、その話はイェーレブルーに着いてからでも遅くないんじゃないか?」

「ヴィルさん……」

「そろそろアスローを出ても良さそうだし、作るにしろ売るにしろ、旅の途中じゃやりにくいだろ」


 シャナは全く読めていなかったが、ヴィルはきちんと視線の意図を汲み取っていたようである。さすがS級冒険者は違う、と即座に手のひらを返したシャナはこくこくと頷いて同意した。

 なお、ヴィルが言ったことは、さっきからシャナがエドガーに言っていることと変わらないので、効果があるとは――


「――そうですね!」

「えっ」

「じゃあ今日はそろそろ寝るぞ」

「はい! じゃあおやすみ、シャナ」

「えっ」

 

 ――効果はばつぐんだ!

 RPGでよく見た文言が脳裏を過った。

 懐かしいが、シャナはタイプ別相性などを覚えきれなかったりで、早々にレベル差で殴る戦法に全力投球するタイプの脳筋プレイだったので、あまり馴染みがあるわけではない。相性などステータス差の前では無力。力こそパワーだ。異論は認める。


 一人残された部屋で、二人が出て行った扉を見つめながらそんなことを思った。

 結局、何を言うかではなく、誰が言うかが重要。そういうことである。


「わかるけど、納得いかない……」


 なんとなく傷ついたような心持ちのまま、シャナはベッドに敷いた寝袋に包まった。こんな時はさっさと寝てしまうに限る。

 

 その夜は見覚えのある赤と白のボールでもふもふの魔獣をゲットし、思う存分もふり尽くす夢を見た。

 この世界には魔物をテイムして戦わせるテイマーもいるらしいので、叶わぬ夢ではないかもしれない。

 欲望の限りを尽くしいてもふもふしていた魔獣の毛並みが、いつの間にかプラチナブロンドの大柄な人間になっていて、驚いて悲鳴を上げるとともにベッドから落ちて目が覚めた。


 何が起きたかわからず、ベッドに片足だけ残して仰向けのまま固まっていたら、夢にまで見たプラチナブロンドが部屋に駆けこんできたので、起こしてもらいがてら頭を撫でて確かめたのは仕方がないことである。

 当の本人は起き抜けに頭を撫でられ、何事かと固まっていたが。

 

 何はともあれ、シャナ作のリンス液は非常に良い仕事をしたことだけは確かだった。

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