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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第七章 転生教団の闇
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第58話 ショットグラス一杯のお酒

 その日、転生教団が信徒を増やすための犠牲にされかけたケイトは深夜になっても彼女を探すベンと再会した。

 ベンは無事な姿を確認すると、情けない声で大泣きしたのだ。


 「良かったよぉ、本当によかったぁぁぁ!」

 「あ、あの店長……もう泣き止んで?」

 「だって! 俺店長なのに、店員の無事も守れないで……うわぁぁぁん!」

 「いい加減にしなさいっての、ガリ勉!」


 ベンの店の中で、カウンター席に突っ伏した魔女はそう言うと呆れ返った。

 ケイトはこの命の恩人に何度も頭を下げた、しかしそれはベンの為に取っておけと魔女は優しく返す。


 「それよりベン、酒よ、お酒ちょうだい」

 「ぐす、酒はリンさんから……」

 「気持ちよく眠りたいだけ、一杯でいいから、ね?」


 ベンは涙を拭くと、今の魔女がいつもよりも妖艶で別人のように映っていた。

 違和感はこの店に集合したベーオウルフの面々にも伝わっている。


 「魔女殿、一体何があったであります?」

 「大人びた女性の雰囲気も格好良いが、オーグ、いつもの俺様っぷりはどこへいった?」


 メルとエルミアはオーグを両側から挟み込むと心配した。

 俺様……そういえば意識しなければ自然と一人称はアタシで、振る舞いも女性らしくなっていた。

 ベンはリンにアイコンタクトで酒を出していいか確認を取ると、なるべく酔わないお酒で、という返事を貰い、オーグの前にショットグラスで差し出した。


 「はい魔女さん、今日はケイトさんを助けてくれたお礼」

 「ふふ、それは重畳(ちょうじょう)


 やっぱりドキッとする。オーグは優しく微笑むと、グラスに口を付けた。

 素材がこれだけ良いだけに、本来ならこの妖艶さは当然なのだろうが、それでも違和感は拭えない。


 「お頭、あの暗殺者なんだけど」


 リンはオーグの様子は諦めて、あの青年について質問した。

 ベンの店の前までは青年ルキが送ってくれたが、オーグを降ろすと、再び都会の闇へと消えていった。

 ただルキは去り際「また会おう」と言っていたことにオーグは目を細める。


 「彼は協力者よ……悲しい復讐の鬼、だけどね」

 「復讐でありますか?」

 「魔女様も、元々復讐は」


 コールガはあまり事情を知らないが、オーグがルキに殺されたことを知っていた。

 そんなルキが憎くないのか質問すると。


 「もうどうでもいいさ……アタシもあの転生教団ってのを許せない。身勝手な肉体奪取、魂さえも犯して穢す奴らを……っ!」


 オーグの手は震えていた。それはどうしようもない怒りだった。

 リンはそんなオーグが気掛かりで、唇を噛んだ。

 転生教団……オーグの転生となにか関わりがある可能性がある組織。

 そして何よりも、その身勝手な転生に一番怒っているのはオーグだということ。

 危うくケイトまで、名前も知らないならず者に肉体を奪われたかと思うと身の毛がよだつ。

 リンだって許せない。まして正義感の強いメルやコールガなら尚更。


 「確かに許せないであります……このことはお父上にも報告するであります」

 「ああ、そうしてくれ……奴らのアジト、必ずこの街にある筈だ」


 オーグはほろ酔いになりながら、転生教団の性質を考えていた。

 反魂の法の性質も含め、本来なら人の多い場所でこそ教団は活動しやすい。

 手軽に新鮮な肉体が手に入るし、何よりならず者の多いこの街は信者を集めやすい。


 強風の魔法(ウインドバースト)で一発で気絶したならず者達は憲兵が一斉検挙したが、ならず者達は「騙されたぁ」と漏らしていた。

 転生教団は幸せな者よりも不幸な者を優先して信徒にする傾向がある。

 本来反魂の法は権力者の方が永遠の命と飛びつきそうだが、逆に転生教団はそんな権力者の肉体を奪って破滅させる、なんらか社会構造に対する不満でもあるのだろうか。


 考えても結局奴らを捕まえる手段がない。

 奴らは他人の全てを奪った後、本人に成りすまし潜伏するのだ。

 クラリスの例を見ても、奴らはどこにだって潜入できることは証明されている。

 はっきり言えば有力者の家ほど転生教団の信徒が混じっている可能性は高い。


 「んっ、眠い……一週間くらい寝たいわ」

 「あぁ、ダメですって魔女さんカウンターで寝ちゃ!」

 「アタシがおぶっていく、どうせ同じ宿屋だもの」


 リンはオーグの小さな体を背負うと、オーグは全く抵抗しなかった。

 ちょっと前まで恥ずかしくて抵抗してたのに、段々女の子になっていってる。

 複雑だけど、それが当然の理なのかも知れない、とリンは思った。


 「まっ、無事ケイトも助かった! ならお開きね!」


 エルミアはそう言うと席から立つ、もう夜は更けメルやコールガもまた立ち上がった。


 「念の為ケイト殿はもう少し護衛を付けるべきであります」

 「護衛って言っても、私には雇うお金なんて」


 簡単じゃない。ケイトがそう困っていると、ベンは小さく手を上げた。


 「あの、ケイトさんが良ければなんだけど、二階使って。この店元々は宿屋兼酒場だったからさ」


 ベンの言うとおり二階にはベッドを備えた部屋がいくつかあった。

 ベンは宿屋経営が出来るノウハウがなかったから、緊急時以外二階は使っていなかったが、ケイトをこれ以上危険な目に合わせたくないのだ。


 「店長、いいの?」

 「ああ、勿論! なんなら一生いてくれたって!」

 「イヒヒ、末永くお幸せに」


 リンにおぶられたオーグは茶化すようにそう言うと、二人は顔を真っ赤にしていた。

 ベンはケイトに好意を抱いているし、ケイトもベンは情けなく男らしくないけど、優しく思いやりのある男性だった。

 ケイトはベンの顔が直視出来ずもじもじすると、更にエルミアが茶化した。


 「結婚式には絶対呼べよ! 参考にするからな!」

 「あら? エルミア様も結婚のご予定が?」

 「今はないけど、なにエルフの寿命は長いわ。アッハッハ!」


 人生長いからこそ全力で今を楽しんでいるエルミアはかんらかんら笑った。

 一方結婚式を既定路線にされたケイトとベンは、結婚する自分たちを想像して、更に顔をゆでダコのように赤くさせた。

 たまらずケイトは手を大振りして、ベーオウルフ一行を追い出す。


 「馬鹿言ってないでもう帰りなさーい! ここは深夜営業してないの!」

 「ははっ、花嫁に怒られたらこれ以上は茶化せないな」

 「それでは、おやすみなさいませ」


 コールガはいつだって礼節を忘れない。

 パタンと、ベーオウルフ一行が店を出ていくベンはどっと疲れた顔をした。


 「ケイト君、その……俺」

 「あっ、私上見せてもらいますね?」


 ベンが何かを言おうとしたら、ケイトは逃げ出すように階段を登っていった。

 がっくり俯くと、まだダメかと独り言ちる。

 それでもベンはケイトを失いたくない、もっと男らしくなってやろうと誓うのだった。

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