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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第七章 転生教団の闇
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第56話 邪悪なるオーガ

 オーガは青年を見ると、怒りに震えていた。

 だが青年は一切取り合わない、むしろ興味ないというように、ただオーガに無慈悲な宣言をした。


 「狩られろ悪魔……お前達は全て俺が狩る……!」


 恐ろしい程の憎悪に、オーガの方が怯んだ。

 この復讐者は狩るの俺で、狩られるのはお前らだと宣告したのだ。

 しかしこのどこまでも苛烈な復讐者をオーグは真剣な顔で諌めた。


 「情報が先だ、殺したら何もわからんだろうが!」

 「……ならばまずは皮を剥ぐ!」

 「て、おい!」


 先制攻撃を仕掛けたのは青年からだ。

 青年は素早く駆け込むと、両手に握った剣をオーガに振り抜いた。


 「ふんっ!」


 しかしオーガは鍛え上げられた両腕で青年の剣を弾いた。

 青年は舌打ちすると、距離を離す。

 オーガは構えを解くと、高笑いした。


 「ぐわっはっはっは! 素晴らしいなオーガの肉体は! そして知性! いずれも強靭! 無敵! 最強ではないか!」

 「本当に無節操な奴らだ、まさかオーガの肉体さえも奪ったのかよ」


 オーグはギリっと歯軋りする。

 かつてエルミアを実験と称して拐われたことを思い出す。

 教団……転生教団は何故他の種族を狙うのか?


 「我らは最強の存在に至るのだ! いずれは神となり全てを支配する! ぐわっはっはっは!」

 「煩せぇ、エルフの聴覚は敏感なんだぞコンチクショウめ……ケイト立てるか?」


 オーグはケイトの側で彼女に耳打ちした。

 ケイトはなんとか頷くと、オーグは彼女に言う。


 「ここは戦場になる、立って走って逃げられるか?」

 「で、でも外は貧民街よ? 逃げたって……」

 「ここにいたら危険だ、俺様も守りきれる自信はねぇ」

 「魔女さんでも勝てないの?」

 「そうじゃない……俺様を誰だと思ってやがる? 天上天下絶対無敵のオーグ様だぜ、ドラゴンに比べりゃ(ぬる)い温い」


 と強がるが、オーガと戦うのは実は初めてだ。

 オーグの名前の由来の一つオーガ族。

 モンスター扱いこそされないが、魔物大辞典(モンスターマニュアル)にきっちり掲載された怪物は人間に対して中立、敵対もすれば友好的な者もいるという。

 敵に回せばなんと言ってもあの怪力、生前のオーグをも超える馬鹿力に加え、その知性は並の魔法使いにも引けをとらない。

 なにせオーガメイジって奴もいるくらいだ。強力な種族に違いはない……が。


 「まっ、グレンデルよりは劣るだろう」


 オーガにあのグレンデルのような馬鹿力や不死性があるとは思えない。

 ましてただの馬鹿力が、あのクイーンスライムよりも強いかと言われればそれも論外だ。


 「よーするに、敵じゃねぇってことだ」

 「ぐぬぬ! 我を愚弄するか生意気なメスガキめぇ!」


 明らかに格下扱いされたオーガは激昂するとその場で地団駄を踏む。

 しかしそれは場所を考えればするべきではなかった。

 脆く所々腐った床材はオーガの体重を支えきれたものではない。


 「うるさい奴だ……!」

 「ぬ!」


 青年が剣を叩きつける。

 オーガの鋼のような肉体には通じない、しかし傷んでいた床がミシミシと音を立て――崩落した!


 「ぬおおお!」


 馬鹿らしい話だが、オーガの体重で暴れれば腐った床が持つわけがない。

 そのままオーガは二階の床さえぶち抜き、一階にまで落下した。


 「ばぁかばーか♥ 頭筋肉で残念♥ ……さてと予定変更、ケイトたちは部屋の隅で身を守れ!」


 オーグは聞こえていないだろうにオーガを煽ると、直ぐにケイトに振り返った。

 オーグは再び風の魔法を唱えると、捕まっていた女性達の手錠を鎌鼬(かまいたち)で切り裂いた。


 「ま、魔女さんは?」

 「奴を逃がす道理はない!」


 後のことはケイトに任せる。オーグはとんがり帽子を目深に被ると、帽子を手で抑えたままオーガが開けた穴へと飛び込んだ。


 キィン! キィン!


 飛び降りると、すでに青年は問答無用でオーガに斬りかかっていた。

 だがオーガは防戦になりながらも、青年の攻撃を強靭(きょうじん)な肌で防いでいる。

 青年の武器がメルの使う白銀剣のような上等な物なら切り裂けようが、装甲負けしているのが現状だ。


 「貴様ッ! 鬱陶しいぞ!」


 オーガは倒壊していた女神像を片手で握ると、青年に振りかざす。

 だが青年は冷静にオーガの乱暴な一撃を回避した。

 ガッシャァァン! 薄汚れた白亜の女神像が砕け散る一撃は、建物そのものを揺らす。


 青年はすぐに仕掛けた。狙いは急所。


 「もらった!」

 「甘いわ小僧が!」


 オーガは魔力を練り出した。

 やばい、本能的にオーグは脳裏にアリスの警句を受け取った。

 おそらく闇の魔法だ、禁呪の一種がくる!


 「間に合え……!」


 足場に苦戦してもたつきながらもオーグはマナを全身から吸収し、エテルを生成する。

 そしてエテルを魔力へと精錬すると、彼女は聖なる光を杖から放った。


 「ホーリーライト!」


 極光が教会を聖なる力で包んだ。

 オーガは闇の炎を掌から生み出すが、それさえ極光が飲み込んだ。


 「ぐわああああ!」


 通常命ある者なら聖なる光に焼かれることはない。

 だが反魂の法により転生した者は、この世の(ことわり)を捻じ曲げ、闇の存在同然であった。

 そのため、オーガは全身を極光に焼かれ、全身を焼き爛れてしまう。

 オーガはズシン! とホコリを上げて前のめりに倒れた。


 「スマートにやれ、スマートにな?」


 とはいえ、だ。オーグは杖を背中に回して抱えると、その顔からはどっと汗が吹き出していた。

 MPの大半を使ってしまった、もしここで立ち上がられたら二度目のホーリーライトは厳しいぞ。

 青年は無言で剣をオーガの首筋に当てると、冷酷な顔でオーガにいくつか質問した。


 「貴様ら教団のアジトはどこだ?」

 「グハ……い、言うと思って、いるのか?」

 「答えろ、さもなくば殺す」

 「ぐわっはっは……す、すでに我らは死を超越して、いる」


 青年は僅かに眉に怒りに(ひそ)めた。

 オーグにはこの青年の怒りが何故これほど強いのかわからなかった。

 だがオーグはそんなことよりも今はオーガの下に向かう。


 「お前のそのダメージ放っておいても死ぬな、せめてなんでアタシが反魂の法で転生したのか教えて」

 「あ、アリス……貴様がエルフの国の秘術を我らに……」

 「なんだと……?」

 「だが……貴様は我らを裏切った……奴らエルフに復讐もできた筈なのに」


 オーグは何も言えなかった。

 アリスはエルミア達を恨んでいた?

 転生教団に関わりがあることは分かっていた、だがオーガの言葉は更に核心を突いている。

 アリスは、アリスは転生教団のどこまでを知っていたんだ? だが死したアリスが答えてくれることはない。


 「きょ、教祖様……どうか我が魂、お救いをぉ……ぉ」


 オーガはせめて天へと手を伸ばす……しかしその指からオーガの体は赤黒い塵となって、そこには降り積もった赤いシミだけが残された。


 「ち……聞き逃したか」

 「おいお前さ……名前なんて言うんだ?」


 オーグは悲しい顔をすると、青年に名前を聞いた。

 極端にコミュニケーションをとろうとしない青年は、今まで名乗りもしなかった。

 青年は僅かに沈思黙考すると、小さく口を開いた。


 「俺の名は―――」

 「その前に君を『いただく』」

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