第二百十九話 弱点攻める双子
「むぅ何故攻撃が効かぬシュウ?」
「わからぬが物理反射などというスキルとは別物であることは確かであるなラサ」
双子のシュウとラサが互いに確認しあう。確かに銀虎と化した直後にネメアが利用した力はスキルではない。
これはネメア自身完全には理解していない能力でもあった。
ただこの力も万能ではない。ネメアもそれはよくわかっている。このまま時間を掛けてはいずれ弱点に気がつくかもしれない。
「覚悟するのじゃ!」
ネメアが叫んだ瞬間全身から放電し電撃がシュウとラサに直撃する。
「「ぬぐぅ!」」
電撃を受けた二人の体が弾かれたように飛んだ。手応えを感じネメアが追撃しようと動き出す。
「ウィンドプレッシャー」
だが箒にまたがったエアが上空から魔法を行使。押しつぶすような風がネメアに迫った。
「むぅ! 厄介なメスなのじゃ!」
ネメアが後方に飛び退くと地面に巨大な窪みが出来た。どことなく適当な雰囲気の感じられる女魔導師であったが扱う魔法の威力は凄まじい。
「へぇさっきの防御はずっと張りっぱなしってわけじゃないみたいだねぇ。エアパージ!」
更にエアが魔法を追加。彼女を中心に発生した風によって周囲の樹木が浮かび上がりネメアに向けて飛んでいく。
「舐めるななのじゃ!」
ネメアが再び左側面をさらし飛んできた樹木を防いだ。
「ん~?」
しかしネメアの様子にエアが怪訝そうな顔を見せ、再び杖を掲げた。
「エアレスファミリア――」
今度はまるで妖精のように変化した無数の風がネメアに迫った。正面から来た風は上手く防いだが軌道を変え別方向から迫る風を喰らってしまい苦悶の表情を浮かべて飛ばされた。
「やっぱり~そいつ防御出来るのは側面。しかも左側限定だよ。それ以外の攻撃は避けられないよ」
「はははっ。聞いたかシュウ?」
「勿論だラサ」
「「それさえわかればこの程度の相手取るに足らず!」」
シュウとラサはネメアを前後から挟むような形を取り猛攻撃を開始した。ネメアは片側の攻撃は防げてももう片方の攻撃は喰らってしまう。
しかも双子の息の合った攻撃に対処しきれず痛々しい傷が増えていった。
「「修羅月下双挟刃!」」
「グワァアァアアアアッ!」
シュウとラサが互いにすれ違うようにしてネメアに痛烈な一撃を叩き込んだ。血飛沫を上げながらネメアが舞い上がり回転しながら落下した。
「あ、ぐッ――」
「これで終わりだなシュウ」
「そうだなラサ」
「それならこっちは残った連中でも探してこようか――」
「へぇ。中々面白いことしてますねぇ。迷ってみるものだなぁ」
血溜まりの中、意識が朦朧としているネメアの耳に声が届く。さっきまで聞こえてなかった声だがどこか聞き覚えのある響きでもあった。
「……こいつは誰だラサ?」
「わからぬが運の悪い奴とは思わぬかシュウ?」
怪訝そうに顔を見合わせる双子。そんな二人の前に歩み寄って来たのは見た目には強そうに思えない眼鏡を掛けた小柄な人物であった。
「はは、それにしてもこんなところで再会なんて奇遇だね」
「再会……? どうやらそいつもその魔獣の知り合いみたいだよ」
上からエアが声を掛けた。シュウとラサの顔つきが変わる。
「こいつが? む、よく見れば」
「その腰に吊るしているのは――」
「ねぇ。折角だから僕と遊んでよ」
シュウとラサがその腰に吊るされた得物に注目した直後眼鏡が光りやってきた人物が得物に手をかけた。
「我々とやろうというのか」
「いい度胸だ。ならば受けてみよ修羅双心流の奥義を!」
迫る相手にシュウとラサが加速し息の合った動きでその刀を振るった。
「「修羅双月斬!」」
双子の斬撃が相手を捉えた――かと思えば瞬間その姿が掻き消えた。
「「何ッ!?」」
「こんなものかぁ……」
二人の横に笑顔でそれは立っていた。笑みの中に失念の感情も滲んでおりギョッとしたシュウとラサが顔を向けた瞬間双子の右腕と左腕がそれぞれ飛んだ。
「ぬぐぉ! シュウの右腕がァ!」
「ラサの左腕がァ!」
「ごめんなさい――殺しちゃったらごめんなさい……」
そんな二人を見ながらそれが笑顔で呟いていた――