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第百九十一話 黄金のサハギン

 流石にサハギンの根城ともなると、サハギンの数はより多く、攻撃もより熾烈になっていた。それにただのサハギンだけではなく、鱗の赤い上位種も行く手を塞ぐ。赤いサハギンは口から炎を吐いてきた。


「……水棲の魔物でも口から火を吐くんだな」

「はん、だけど大したこと無いね!」


 バーバラが大きく踏み込み戦斧を振り回す。それだけで赤いサハギンを含めた大軍が紙くずのように吹っ飛んでいった。


「全く、表のサハギンより歯ごたえがないじゃないのさ」

「……あそこにいたのは将軍みたいなものだろうしな」

 

 確かに、キングもジェネラルも倒しているのだから幾らサハギンが数を増やしても無駄なこと。


 結局進路を塞ぐサハギン兵は全く意味をなさず、二人はあっという間に奥の広間にたどり着いた。そこでは周囲が堀のようになっていて水が溜まっている。


「ギャギャギャギャっ、ギョギョッ、ギョッ!」

「あれ、何言ってるかわかるかい?」

「……さっぱりだな」

 

 広間の一番奥には鱗で出来たような玉座に座ったサハギンがいた。鱗の色が金色なあたりが如実に他のサハギンとは違うのだと物語っていた。


 そして王冠のようなものを頭に乗せ、赤いマントを羽織っている。手には中々立派な三叉の鉾が握られていた。


 その槍の石突を床に叩きつけながら、偉そうにふんぞり返り、何かを告げてきたのだが、二人に通じるわけもなく。


「ギョギョギョ!」


 立ち上がり、黄金のサハギンが命じると、左右に並んでいたサハギンが動き出し攻撃を仕掛けてきた。銀色の鱗をしたサハギンだ。恐らくは赤い鱗のサハギンより更に強い。自家製の鱗がある癖に、上から鱗の鎧を纏い鱗の盾を装備して、手には十字形の槍を所持していた。


 黄金のサハギンを警護する近衛兵といったところなのだろう。


「……金ピカなのがエンペラーだろうな」

「そうみたいだねぇ。でもその前にこの銀色のをチャッチャと片付けちゃおうか!」


 バーバラが斧を横薙ぎに振るう。だが銀色のサハギンはそれを盾で受け止めつつ、力を利用してバーバラの背後を取る。


 そこから渾身の一突き、だがまるで背中に目があるかのように彼女は躱し、距離をとった。


 一方ケントのジャブも全て盾で防がれ、小癪にも突きの連打で返してきた。しかしケントは得意のウィービングを披露しつつ、上半身を振りながら突きを避け、Uの字を描くようなダッキングを織り交ぜて後ろに下がる。


 全ての突きを避けられ悔しそうな顔を見せる銀のサハギン。だが、手応えを感じたのか、穂先を揺らして来いよと挑発してきた。


「なるほどね、確かにさっきまでの連中よりはちょっとは手応えありそうだね」

「……あぁ、だが」

「そうだねぇ、だけど!」


 バーバラとケントが加速した。最初に見せた動きは準備運動のようなものだ。そして一段回ギアを引き上げただけで、もう二体のサハギンはその動きについてこれず。


「ドリャァアア!」

「……フンッ!」

 バーバラの振り下ろされた斧刃が、ケントの右ストレートが、二体のサハギンを鎧ごと、叩き切り、貫いた。


 銀の鱗を纏ったサハギンはもう起き上がることはない。二人が残されたサハギンエンペラーに体を向ける。


「ギョギョギョギョーーーー!」


 金色の鱗が輝きを増し、サハギンの皇帝が鉾を振り上げる。堀に張られた水が鉾の先に集まりだし、渦を巻くように鉾に纏われる。

 

 そして金色のサハギンが鉾を振ると同時に大量の水が勢いよく吹き出し、二人を飲み込んだ。鉄砲水のごとく衝撃。


 熟練した傭兵であったとしてもこれを喰らえばきっと一溜まりもないだろう。


 サハギンエンペラーが勝利を確信したように肩を揺すって哄笑した。

 

「……何を笑っているんだこいつは?」

「さぁねぇ。魚類の考えることなんざあたいにはわかんないよ」


 だが、逆にその姿をあざ笑うように、二人は平然とそこに立っていた。ケントが首を傾げ、バーバラは水に濡れた黒髪を掻き上げながら目を眇めた。


「ギョ、ギョーーーー!」

 

 二人の姿を認め、狂ったような声を上げると、サハギンの口から大きな水球が飛び出した。近づいてきた水球には見覚えがあった為、逃げようとする二人だったが、皇帝が腕を動かすとそれに倣うように水球が軌道を変え加速し、二人は泡の中に閉じ込められた。


 これは一見するとさっきの戦いでキングが見せた魔法にも似てるようだが、中に水が詰まってるという点で異なっていた。これでは黙っていても溺死してしまう。


「……問題ない」


 だがケントにとってはどうってことがなかった。どのぐらいどうということないかと言えば、水の詰まった泡の中で普通に喋られるぐらいには問題なかった。


 そして問題のないパンチで泡が破けた。水の中で普通にパンチが打てるぐらいには問題がなかったのだ。


 一方隣でも泡の弾けた音がするが。


「ゲホッ! ケホッ――」


 バーバラも泡から解放されたようだが、しかしケントと違ってかなり咳き込んでいた。割と苦しそうに見える。


「……大丈夫かバーバラ?」

「ば、馬鹿、へ、平気だこんなの(ちょっと焦ったけど)どうってことねぇよ!」

「……今、何かが紛れて聞こえたような?」


 バーバラが小さく呟いたことはケントの耳には届いていなかったようだ。とにかく、ダメージは深刻ではなさそうなので問題ないだろう。


 一方サハギンの皇帝はどうみても動揺していた。大きな魚眼が左右バラバラに蠢いている。


「ギョギョギョッ!」


 すると、何を思ったのかサハギンエンペラーが堀の中に飛び込んだ。


「おいおいまさか逃げ出したのか?」

「……いや、多分違う」

 

 ケントはなんとなくそれはないと思っていた。サハギンを統率する皇帝だ。こんなところで逃げるなど面子が許さないことだろう。


 ケントの予想は正しかった。水には潜ったようだが、しばらくすると水中から飛び出し、鉾を振るって水の散弾を放ってまた水の中に潜った。

 

 散弾は着弾すると巨大な水柱となり天井に突き上がった。そんなことをサハギンエンペラーは何度も繰り返してくる。


 どうやら完全に持久戦狙いのようだ。だが、正直この攻撃はケントからすれば面倒という感想しか持てない。避けること自体はそれほど難しくないからだ。


「くそ、どっから出てくるのかがわからないってのが厄介だね」

「……いや、これなら二人でやれば問題ない」

「え? どういうことだい?」

「……半分で割るのさ」

「半分――なるほどそういうことかい」


 ケントの作戦にバーバラはニヤリと笑みを浮かべ、そして二人は背中あわせするような体勢となり皇帝が出てくるのを待つ。


 その内に、再び水中から飛び上がるサハギンエンペラーだったが。


「待ってたよ!」

「ギョギョッ!?」


 サハギンエンペラーが水中から飛び上がったとほぼ同時にバーバラも地面を蹴り、金色の身に迫っていた。


 何故こんなに早く! とサハギンの皇帝は焦ったかも知れないがなんてことはない。ケントとバーバラで範囲を分けることで動く範囲を三六〇度ではなく一八〇度ずつにしたのだ。


 こうすることで当然反応速度は倍となる。バーバラが高速でサハギンの皇帝に迫れたのもその為だ。


「大木割りーーーー!」


 バーバラの技が炸裂。金色の鱗が弾け飛び、黄金の血しぶきが上がる。どうやらこのサハギンは血の色も金のようだ。


「チッ、仕留めきれなかったようだね」


 だが、流石はエンペラーの称号を得ているだけに一撃では倒れない。水中に潜り、再び姿を消した。


「でも、血でもう位置はばればれだね」

「あぁ――」


 水面が金色に染まる。出血の為であろう。それを知ってか知らずか、とにかくサハギンエンペラーは今度はケントの近くで水中から飛び出てきた。しかし、今までと違って、小さめなジャンプで地面に降り立ち、そしてケントに向けて鉾で直接攻撃してきたのである。

 

 サハギンエンペラーが焦っていたのは間違いないだろう。そしてだからこそきっとこのような手に出た。何故ならバーバラと比べてケントはこれといった防具も装備しておらず武器も持っていない。


 それであるなら、有利なのは鉾を持つ自分だとそう判断したのだろう。間合い的にも当然鉾の方が長い。


 だが、それはサハギンエンペラーにとって大きな誤算となる。


 何故なら鎧など着ていなくても、当たらなければ意味がなく、水の力さえ味方にした鉾の攻撃すら尽く躱され、更にボクサーの瞬発力は間合いの差などあっという間にゼロにする。


「……終わりだ」

「ギョッ――」


 ケントが上半身を揺らし、振り子のような動きに変化する。しかもその振り子の動きは縦横斜めと自由度が高く、そこから一気に拳の弾丸が降り注いた。


「ギョッ、ギョッ、ギョッ――」


 あっという間に千を超える拳がサハギンエンペラーの鱗を剥ぎ取っていき、そして鱗のなくなった肉塊がその場に転がることとなった。


 それを見たバーバラが後頭部を擦り。


「全く、あんたの拳はえげつないねぇ」


 そう感想を述べる。ケントは肩をすくめ。


「……俺は魚屋じゃないからな。綺麗におろすことは出来なかった」

 

 そう返し、互いに笑いあった。そしてエンペラーが倒されたことで生き残ったサハギンも散り散りとなり、その数も大きく減らすこととなった。


 こうしてケント達の活躍により、サハギンの驚異から村は解放されることとなったのであった。

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