第百八十七話 ケント一行の動向
おまたせいたしました。更新再開です。
入院中にレビューを頂いていたようで遅くなりましたが本当に嬉しいです!ありがとうございます。
「それにしてもリョウくんのそれ便利だよね~」
聖 知癒が背後に目を向けた後、水風 良へと語りかけた。
それを聞いたリョウは照れくさそうに頬を掻く。キノコのようなブラウン髪の少年だ。目元は前髪で常に隠れているため若干表情がわかりにくいが、口元は嬉し恥ずかしそうに緩んでいた。
「は、はい。そうですよね。おかげで荷物運びも楽です」
「全くだな。本当、あたいなんか結構苦労して素材運んでいたことがあるのに馬鹿らしくなっちゃうよ」
「……だけど、確かにこれは助かる」
おさげ髪のメガネっ娘、木崎 加古がチユに同調するように口にする。
その後ろでは斧を肩に乗せたバーバラ・マキシアが肩を竦めて愚痴っぽい台詞を吐き出していた。
女性陣の中ではその大きさが際立っている。バーバラはこの中で唯一のこちら側の世界の人間だ。元は帝都で傭兵ギルドのマスターをしていたが、紆余曲折あり今はケント達に同行している。
そして最後に口にしたのは神崎 拳斗。長身で体格の良い彼は、日本にいた頃はプロボクサーを目指していた。
その夢は今でも変わらず、出来るだけ早く日本に帰還したいとも思っている。彼は霧隠 忍の親友でもあり、今は皆と一緒にシノブが向かったという港町ハーフェンを目指している。
そんな彼らの後ろからは、ひょこひょことした足取りで大きな植物がついてきていた。
「う~ん、でもやっぱりぱっくん可愛い」
そう言ってチユがぱっくんと呼んだ植物をなでた。正確には自然祭司であるリョウの魔法によって生み出されたものだ。
カブのような形状をした顔につぶらな瞳、分厚い唇のような花弁が特徴的な魔法植物であり、胴体となる茎の部分はぽってりと丸っこい。
この植物は大きな口で術者の指定した物を飲み込むことが可能だ。そしてそれを膨らんだ茎の部分に収納しておける。
根の部分が足となっており、それで自走も可能であり嵩張った荷物を運ぶにはぴったりな魔法だ。
帝都を脱出しあの吸血鬼の手から逃れてから既に数日が過ぎているが、その間も当然何もおきなかったわけではない。
道中魔物にも襲われるし、盗賊にだって幾度と出くわした。尤もケントとバーバラはかなり強い。
流石にあの吸血鬼レベルが現れるとキツイが、そんなのがゴロゴロでてくるわけもなし。
途中での戦いはスムーズなものであった。おかげで戦利品もかなり手に入ったが、そこで役立ったのがリョウの魔法である。
「おっと、これはいい夕食の材料が現れたね」
そんな彼らの進行方向に三体の魔物が姿を見せた。パビルザという魔物で、猪の胴体に鹿の角が特徴な魔物だ。
「……これは――」
だが、ケントの注目は三体の内の一体に向く。それは他の二体とことなり、猪の胴体に鹿の角、そして蝶の羽が生えていた。
「へぇ、バビルザパーピも一緒かい。そっちは少しバビルザよりレベルが高いんだよね」
「……何か足りないと思っていたんだ」
「うん?」
「……猪に鹿とくれば、蝶だろう」
「え? そ、そうなのかい?」
うんうん、と後ろの三人も頷いているがバーバラには理解できないようだ。
「まぁいいや。一応そっちのぱっくんとかいうのは隠しときな」
「はい」
リョウが指示するとぱっくんは地面の中に潜っていった。戦闘能力はなく、攻撃には弱いため、敵に遭遇した場合は地面に潜らせて戦いを回避させるのが基本である。
「……援護を頼む」
「よっしゃ! いっちょうやっちまうかい!」
ケントとバーバラが前に出ていくと、チユの魔法によって二人の防御力が上がり、カコの付与魔法で膂力が上昇した。
リョウは自然魔法で三体の魔物に蔦を絡ませ動きを阻害。その間にケントの拳がバーバラの戦斧が三体の魔物に炸裂した。
この辺りに出現する魔物はレベル20~25といったところであり、ケントとバーバラにとっては苦もなく倒せる程度、他の三人にとってはちょうどいい相手となる。
ケントとバーバラの攻撃で相手を追い詰め、その後はカコとリョウに戦わせレベルアップを狙う。チユは攻撃魔法を持たないため、ひたすら魔法による回復や支援だ。
ちなみにカコも付与魔法であり支援系だが、彼女には新しく覚えたターゲットバーンという魔法がある。これは相手に火傷の状態を付与する魔法だ。
地味ながらもダメージを与え続ける為、うまく利用すれば戦闘でのレベルアップが狙える。
こうして三体の魔物は全て倒された。バビルザもバビルザパーピも魔石以外に角と毛皮は素材として売却する事ができる。
羽の生えた方はその羽も買取対象だ。肉は食材として役立つ。中々旨い肉なのでその日は良い食事にありつけた。
「美味しいけどやっぱり外だと焼くぐらいしかできないから味気ないね」
「鍋でもあればよかったんですけどね」
「逃げるように帝国から出てきたからそれは仕方ないよね」
「あ、でもハーブとかで味付けは変わるので」
「……リョウが植物に詳しくて助かったな」
「そ、そうかな。えへへ……」
ケントに褒められて嬉しそうにするリョウ。彼は地球にいた頃から植物への造詣が深く、自然祭司になれた影響もありこちらの植物にも詳しくなった。
調味料など何も持たずに出てきたが、異世界特有の不思議植物の中には粒胡椒そっくりな種子が宿るものがあったり、塩苔なども存在した。
これらは個々で採取できる量はそれほど多くないがケント達が利用する分には十分であった。
「あたいなんかは肉さえあれば上等だと思うけどね。塩や胡椒がなくても肉さえ食ってれば見ろこんなに逞しく」
力こぶを見せつけるバーバラだが彼女はこれでも女性だ。その様子に苦笑するチユとカコでもあるが。
「でもバーバラさんみたいな格好良さも憧れますね」
「は、はい。それに綺麗だと思いますし」
「ふぇ? き、綺麗! あ、あたいがかい!
」
「……顔は綺麗だと思うぞ。中身は生肉をそのまま食べてても違和感ないが」
「ケント、それ、褒めてるのかい?」
「……健康なのはいいことだ」
ニヒルな笑みを浮かべるケントだが、彼がバーバラの強さに敬意を払っているのは事実だ。それに命を助けられたこともある。
「ふぅ、まあでも。野宿も今日で一旦終わり。明日にはウーファシッフにつくからね」
「何かそう聞くと安心するね」
「うん、でも最初ケントくんの話を聞いた時は驚いたな」
「それはあたいだって同じさ。シノブを助けにいくのに船を利用したいなんてね」
「……北東部は川での水運が活用されていると聞いたからな。ただ、どこにいくかは判ってなかったから助かった」
バーバラに顔を向けながらケントが言う。ケントの言うように北東部は水運が盛んだ。それはシノブが向かった港町ハーフェンの影響もある。
つまり船を使って川を利用すればハーフェンまでの道程が大分短縮出来ると考えたのである。
尤もケントが知っていたのは今本人が語ったようにそこまでであり、船をどこで調達していいかまでは考えていなかった。
そこで役立ったのがバーバラだ。傭兵として国中を回っていたこともあるというバーバラは当然帝国の地理に明るい。
今から向かうウーファシッフの町は水運用の湊としても機能しているが、造船所としても有名らしい。
そこで造られている船は運河に特化したものではあり、ケントの目的にピッタリ合う。
そしてその日の夕食を終え後日、再び森を越え丘を越え、そして目的のウーファシッフのあるサイドリバル領に辿り着いた。
水運が盛んというだけあって、川が多く小高い山々に囲まれたような地形でもある。
そしてバーバラの案内で町へ向かう一行だったが。
「きゃーー!」
どこかからか悲鳴が聞こえた。ケント達が駆けつけると数台の馬車が魔物に襲われていた。
襲っている魔物は見た目には半魚人といったところで、魚のような顔にぎょろりとした魚眼。全身は棘まじりの魚鱗に包まれ、背鰭を生やし、手には槍や杖を握りしめている。
成人男性ほどの上背があり動き方は人間のそれと変わらない。
「あれはサハギンだね! 水場に縄張りをつくり他の生物を脅かす魔物だよ。放って置くと間違いなく全員殺されるね」
馬車には傭兵もついているようだが、旗色が明らかに悪い。
サハギンは戦士系は槍の扱いに長けている上、口から水を吹き出し相手をひるませたりもする。
杖を持っているタイプは見た目通り魔法が使え、水球を生み出し傭兵を閉じ込めたりしていた。
「……射程内に入ったら、チユとカコは襲われている人たちを援護してくれ。リョウはあのサハギンの動きを止めて、これ以上傭兵たちに被害が出ないようにするんだ」
ケントの指示に、三人が頷く。そしてバーバラとケントは思いっきり地面を蹴りサハギンへと疾駆した。
「ひっ、もう駄目だ、え?」
死を覚悟した傭兵の一人は、サハギンの槍でのダメージが思ったよりないことに驚いたようだ。
それもそのはず、チユがホワイトシールドを彼に掛けたおかげで、槍は直接肉体には刺さらずその場で動きを止めている。
更に他の傭兵にもカコの付与魔法が施され一時的にステータスが向上した。
馬車を襲っていたサハギンはリョウの魔法で縛められている。
そうこうしている間にケントとバーバラがサハギンに接近し、自慢の拳と斧で次々と倒していった。
杖持ちも魔法を使おうと杖を掲げたときにはケントが肉薄しておりあっさりと打ちのめされる。
その上ケント達の介入で襲われていた傭兵の士気も上がりあっという間に劣勢から優勢に逆転していた。
こうして馬車を襲っていたサハギンの群れはあっという間に蹴散らされる事となったのである。
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