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第百七十二話 領主とご対面

 馬車はお城の敷地内に停めさせて貰い、ムスメ、ネメア、シェリナ、イズナには控えていて貰った。相手は領主、シェリナの事に必ずしも気が付かないとは限らない。


 パーパは流石に俺たちの代表としては付いてきてもらう必要があるけどな。


 そして廊下を歩く俺達だが。


「なぁミキノスケ。そもそもどうやって男爵と知り合ったんだ?」

 

 前を歩くミキノスケに思い切って聞いてみた。何せ大股で歩くミキノスケが歩いていると兵や使用人たちがぎょっとした顔になり横にそれるか足早に横を通り抜けようとする。


「う~む、語るほど大した話やないで。最初は男爵にあわせい言うても、あの門番らが通そうとしてくれなかったんやが、ちゃんと話し合ったら(・・・・・・)判ってくれたんや。その後はここにおる兵たちから手厚い歓迎も受けたからのう、わいも精一杯やり返してたら男爵のレッドビアードがおる部屋にたどり着いてなぁ」


 ……うん、なんとなくそんな気はしてたが、こいつはわりととんでもないやつだ。

 大体手厚い歓迎のあとやり返したと言ってる辺りで、話し合いからしてただの話し合いではなかったであろうことが容易に想像つく。


「男爵はんも最初は怪しんどったけど、ちょっと話したら判ってくれたんや。意外と物分りのいいおっちゃんやで」


 かんらかんら笑いながら足をすすめるミキノスケ。後ろで聞いていたマイラを一瞥すると目が点になっていた。パパにも脂汗が滲んでいる。


 いや、本当、その話し合い、絶対口だけで済んでないだろ。大丈夫なのか本当に?





「……まさか本当にまたやってくるとはな」

「当然やろ? わいは約束は守る男やで」


 目の前の壮年の男性、レッドビアード男爵が赤色の眉を顰めた。

 髪も赤く、そして顎髭もやはり赤い。ミキノスケ程ではないが身長も高めで逞しい体つきをしているな。目つきも鋭い。領主というより武人のようだ。


「突然やってきて、水門を開けて川を利用させろなどと無茶を言うから、こちらもわりと難度の高い条件を出したつもりだったが、まさか仲間を集めてくるとはな」


 ため息混じりにレッドビアード男爵が言う。やっぱり、相当無茶をやったんだなこいつ……。


「それで、この者たちは腕は確かなのか?」

「それはわいが保証するわ。少しだけ手を合わせたんやが、こっちのシノビン言うのはかなりの使い手やし、そっちの嬢ちゃんは魔法も剣もいける口や」

「ほぅ、それで、残りの者は?」

「レッドビアード・キープブリッジ・ゲイトリヴァ男爵閣下。ご挨拶が遅れ大変申し訳ありません。私は商人のパーパと申しまして――」


 パーパはここに至るまでの経緯を掻い摘んで説明する。 

 男爵は黙ってそれを聞いていた。難しい顔はしているがそれはこの部屋にミキノスケが入ってからの事だパーパの話に問題があるわけではないだろう。


「話は判った。しかし私からの依頼に対応できるのは事実上三人だけということか」

「十分やろ。この三人なら大船に乗ったつもりでいてくれてええんやで」


 ミキノスケが顕になった大胸筋を叩いた。こいつは常に上着を開けさせてるんだよな。これといった防具も装備してないし、よほど肉体に自信があるのか。


 他にも、実際はネメアも戦えるんだが、シェリナの事もあるから敢えては言わない。


「まぁ、お前が来なかったら来なかったでグレイトブリッジで腕利きの傭兵などを募るつもりではあったからな。お前たちが解決してくれるというならそれはそれで問題ない」


 男爵は傲然とした態度で考えを示した。 

 ミキノスケが無茶をやったせいなのか城内の人間は兵士も使用人も、彼を避けている様子だったが、流石は当主だけあってか男爵には全く臆している様子を感じない。


 むしろやれるものならやってみろといった挑戦的な空気さえ滲ませているほどだ。


「ほんなら丁度良かった。早速仕事に取り掛からせてもらいますさかい、約束はわすれんといてな」

「あぁ。それと、砦には声を掛けておいてくれ。私から依頼を請けたとでも言っておけば問題はないはずだ」

「判った判った、ほんじゃ、任務成功の報告楽しみに待っててな~」


 相手が貴族でも全く態度を変えないんだな。既に会っているというのもあるのかもだが、普通なら不敬にあたりそうなものだ。


 とにかく俺たちは城を出て町へと戻る。


「ふぅ、貴族と会うのは緊張するっす」


 城を離れてようやく一息ついたといったところか。マイラが胸をなでおろした。


「これからどうするんだ?」

「勿論、すぐにでも町を出て砦へ向かうんやで。陽が完全に落ちる前には着くやろしな」

「せ、忙しないっすね」

「そうなると、パーパさんにはどこか宿でも取ってもらって、他の皆と待っていてもらいましょう」

「いいのかい?」

「せやな、戦闘できへんものがいても邪魔になるだけや。馬車も狩りには不要やし、ここに居るほうがえぇやろ」


 ミキノスケはこういうところはハッキリとしている。直球な物言いだが、不快には感じない。


「そうですね。それではお言葉に甘えて、何かいつも申し訳ありませんが」

「いえ、俺も護衛としてついてきてるわけだし、何か問題があった時に動くのは当然。シェリーの近くにはネメアもいるし、イズナも置いていくんで」


 イズナは少々寂しそうにしていたけど、シェリナにモフられるのは心地よさそだし。

 まぁ、町にいる分にはそこまでの危険はないかもだけど、それでもグレイトブリッジみたいな事が無いとはいいきれないからな。


 そして宿を決め、俺と、マイラとミキノスケ以外はそこで待っていてもらうこととする。


『いつも役に立てなくてもうしわけないのです』

「そんな事はないさ。シェリーには色々助けて貰ってるし、適材適所というのがある」

「その通りなのじゃ。肉体労働などは脳筋達に任せておけばいいのじゃ!」

「脳筋っすか……」


 マイラはちょっとだけ悲しそうだ。いや、魔法もいけるからただの脳筋じゃないぞ! 

 ……多分。


「イズナ、皆のことよろしく頼むな」

「クゥ~ン、アンッアンッ!」


 飛び跳ねてクルクルと回転し任せておいて! といわんばかりの忍犬が頼もしく思える。


「ガッハッハ! 元気な犬やな! 気に入ったで! 餌になりそうなの見つけたら取って来たるわ!」


 ミキノスケが腹を揺すって哄笑する。

 しかし餌になりそうなのね。そういえば旅の途中で食材になりそうな肉も尽きたんだったな。


 俺も隙を見て次元収納に入れておくかな。


「気をつけてくださいね」

「皆さんの実力なら大丈夫かとは思いますが、お気をつけください」


 パーパとムスメにも見送られ、俺達はオトゥルーの町を出た。


 水門はこの山の八合目あたりにあるらしい。町があるのが中腹あたりなので三合程度登る必要がある。


 山中は水門まで続いている山道があり、それを伝っていけば問題なく着くだろうとの事だった。


 ただこのあたりは麓から町に向かう間以上に魔物が多いんだとか。だから砦に詰めているような兵士以外はここを通ることがないらしい。


「しかしこんなに魔物が多いなら、あの町の商人なんかは大変じゃないか? 山を下りるのも命がけだろう」

「確かにこの時期はせやけど、どうも魔物がぎょうさん出る時期とそうでもない時期があるんやて。今は森のなかに魔物が食する草花や木の実なんかが多いからどうしても魔物が多いんやて。魔物も一人前に腹減らすんやな」

「そうっすね、魔物が好きってことは魔力保有数の多いタイプかもしれないっす。魔物はそういうのを食べて生きる糧とするっすよ」


 魔物が人間を含めた他の生物を襲って食べるのもそういった事情からだったな。


 尤もゴブリンみたいのは他にも理由があるわけだが。


「流石魔法も使えるというだけあって嬢ちゃん詳しいんやな。わいは魔法とかはようわからん」


 かんらかんらと笑う。ということはやはり物理的な攻撃が得意なタイプなんだろうな。


 とりあえず、中腹の町から麓に関してはその時期さえ終われば魔物と遭遇する確率はグッと減るようだ。


 それでも絶対ではないが、魔物が少ない時期は出てくる魔物も大した事がないので、魔物が忌避する匂いを放つ香なんかで何とかするらしい。


 ただ、砦までに向かう道では時期に関係なく魔物が出るようで、実際巨大なトカゲや、踊って混乱を誘うというダンシングツリーといった魔物、それに空を飛ぶ巨大な蚊みたいなのにも襲われた。


 尤もダンシングツリーは現れた瞬間に、ちょんわ! とミキノスケが蹴りでへし折り、巨大なトカゲはマイラが丸焼きに、蚊は俺の針術(という体)で撃退した。


 魔石や素材として売れそうなものは回収し、トカゲの肉も食えるという事で密かに収納。


 そして――それから更に登山を続け、予定通り陽が沈みきる前に水門と隣接する砦が見えてきた。

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