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第百三十五話 犬の名は……

 報酬は後日の夕方には、確認が取れたということでわざわざ執事が支払いにやってきてくれた。

 

 俺達は山分けの報酬を四人分受け取る事になったが、今回生き残ったメンバーでそれに異を唱える物は誰ひとりとしていなかった。


 今回の件で――やはり犠牲は少なからず出てしまった。ゴブリンクィーンのいたあの場所に積み重ねられた団子を見た調査団の中には思わず吐き出してしまったものもいたらしい。

 

 悍ましい話だが、クィーンを倒せたことで少しは恨みも晴れただろうか。


 報酬は結果的には生き残った二十五人で分けることとなった。当初の予定より金額は増えたが、素直に喜べる話でもないな。


 ハウンド達に関しては自業自得ではあるとは言え、他のメンバーに関しては尊い犠牲だ。


 とは言え、報酬も含めると、手持ちの金額は四百万ルベルにもなった。

 その上で、ゴブリンクィーンの魔石については価値を知るすべがないということで、結局塩漬けとなる。


 本来ならゴブリン系の魔石は倍値で買い取るという話だったのに申し訳ないと頭を下げられたが、そのかわり他の魔石で色をつけてもらえたのでこちらとしては問題はなかった。


 だからこれで十分と執事のカツーラには伝え、握手を交わし別れた。


 パーパと相談し出発は明日となった。ゴブリンの件が片付けば後は港町ハーフェンに向けて馬車を走らせるだけだ。


 途中進行上に横たわる件のカマス山脈と北東に向けて緩やかな曲線を描くサンダル山脈を越える必要がある。


 この山脈越えだけでも結構な道程になるな。サンダル山脈の麓には小さな村があってそこで宿を取った後は基本野宿となる。

 

 峠あたりに宿場でもあればまた違ったのだろうけど、先に聞いていた盗賊の跋扈。それに魔物の出現頻度も高いことから、まともな宿なんかは一切期待できない。


 だからそれなりの準備は必要なんだろうな。今日は色々と旅に必要な物を買い揃えておくようだ。


 そして俺達は――宿にあの討伐隊で一緒だった面々が押しかけてきて、夕食に誘われてしまった。


 何せなんだかんだでゴブリンクィーンなんてものを倒してしまったわけだしな。

 少なくともゴブリンキングより更にとんでもない相手だったことは肌で感じたらしく、すっかり今回の主役は俺扱いだ。


 そうなると断るわけにはいかないしな……仕方ないのでマイラ、シェリナ、ネメア、そして犬も連れて酒場へと向かった。


 俺はまぁ基本呑まないけど、マイラは呑んでたな。

 連中からしたら仲間の死など悲しむべき事もあっただろうが、それでもやはり今回の報酬は嬉しかったようだ。

 

 中には借金で首が回らなくて最後の賭けのつもりで参加したのがいたらしい、結婚資金を稼ぐために参加したのもいたそうだ。


 俺、この戦いが終わったら結婚するんだぁ、が口癖だったらしいけどそんなフラグ立ててよく生き残れたなと感心する。


 とにかく彼には、折角拾った命なんだし今後はあまりフラグは立てるなよと忠告しておいた。


 意味わからないって顔してたけど。

 それにしてもなんかこういう酒の席に参加しているとバーバラの事を思い出すな。


 そういえば何かあった時はバーバラにも助けになって欲しいとお願いしておいたけど、あれからどうなっただろうか?


 まぁユウトやケントがいればそう酷いことにはならないと思うけどな。


 まぁとにかく、そんなこんなで町を出る前日の夜は、こうして更けていき――





「うぅ、頭痛いっす……」

「大丈夫か? 水ちゃんと飲んどけよ」


 昨晩はそんなに長いするつもりもなかったんだが、結局夜中までどんちゃん騒ぎに付き合うことになってしまった。


 それにしてもマイラ――あまり強くないのに無理するなよ。

 結局へべれけになって突然脱ぎ始めたりで止めるのに一苦労したんだからな。


 まぁ最終的にはシェリナがウトウトし始めたタイミングで宿に戻ったけどな。

 マイラは完全に寝てしまってたから俺が背負ったけど。


「ハハハッ、中々良いお酒だったようですな」

「呑んだのも呑まれていたのもマイラだけでしたけどね」

「うぅ、申し訳ないっす」


 朝からしゅんっとしているマイラだ。

 まぁ、多少は反省してもらわないとな。


「偉そうに言っておるが、お前、そこの娘に抱きつかれて嬉しそうにしておったのじゃ。本当にスケベな奴なのじゃ」

「へ? あ、あたしが抱きついて……?」

「ふ、不可抗力だろうアレは! 誤解を招くような言い方するな!」


 ベッドに寝かせようとした時に寝ぼけたマイラに抱きつかれただけだしな! 大体シェリナやお前も見ていただろう!


「ふむ、中々隅に置けませんなぁ」

「うぅ、あたしが、うぅ」


 な、なんか朝から面倒な事になってるんだけど。


「美味しい?」

「アンッ!」

「そう、良かった~て、え~と、え~と……そういえばこの子名前なんて言うんですか?」


 すると、犬に餌を上げてくれていたムスメが俺に問いかけてきた。

 そう言われてみると――


『名前をまだ決めてませんでしたね』

「そ、そうっす! 名前を決めるっすよ!」


 いい感じに話が切り替わってくれたのでマイラもそれに乗っかった。

 割とナイスタイミングだったな。

 とは言え、ふむ、名前か……。


「――イズナ」

「え?」

「いや、こいつの名前イズナにしようと思ったんだけどどうかな?」


 なんとなく頭にふとその名前が思いついたからな。後はみんなの反応だが。


「イズナっすか……イズナ、うん! いいっすねそれ!」

「アン! アン! アン!」

『イズナちゃんも喜んでくれてます』


 確かに尻尾を振って嬉しそうだな。シェリナも既にその名前を書き込んでるし、これで決まりかな。


「イズナですか。うん、私もいい名前だと思いますよ」

「よし、それなら決まりだな。今日からお前はイズナだ」

「ワン! ワン!」

「お、おい、舐めるなって、ハハッ――」


 俺が持ち上げると、イズナに顔を舐められた。

 まぁ気に入ってくれたってことでいいんだろうな。





「兄貴! 兄貴がもう町を離れるなんて寂しいです!」

「全くだぜ。あんた程の凄腕、そうは現れないだろうからな」


 犬の名前も決まり、旅の支度も整った後は、いよいよタイムの町とお別れとなる。


 馬車に荷物を詰め込み、さぁ出発だとなったわけだが、見送りには随分と色んな人が来てくれた。


 討伐隊として参加した面々の中にはなぜか俺を兄貴呼ばわりしてくるのまで現れて驚いたけどな。

 どうみても俺のほうが年は下なんだが、年なんて関係ねぇ! 実力があれば兄貴だ! なんだそうだ。そうですか。


「うふふ、そんなに凄い漢と知ってたら、もっとじっくりしっぽり味わってあげたのに」

「全くだ! この俺が今度は別な世界の王者を狙えるよう鍛えて上げたんだがな!」

「本当に残念です。どうでしょう? 最後にもう一度身体検査など――」

「お断りだ!」


 そしてなぜかあの警備員の三人も来ていた。何でだよ、お前らあんま俺と接点ないだろ! 

 精々俺の分身が色々調べられたぐらいだよ、別の世界の扉なんてこれっぽっちも開けるつもりないからな!


「お前たちこそがこの町の救世主だ! 全く旅立たれるのが惜しいぞ。そうだ! お主我が娘と結婚しないか? 私の娘フトメデであればきっとぴったり……」

「丁重にお断りさせて頂きます」


 町長は好意のつもりのようだけど笑顔でつき返しておいた。フトメデって時点で色々想像つくしな!


「ところでお主の頭、カツラなのかのう?」

「ぐふぉ! な、何を突然。私はあくまで名前がカツーラというだけです! カツラではございません!」

『そうですよ。流石にそれは失礼です』

「す、すまぬのじゃ……」


 執事の頭を見ながら中々失礼なネメアだが、シェリナに叱咤されて素直に謝った。


 まぁ確かに名前がカツーラってだけでカツラというのは――だがその時、突然強い風が駆け抜け、すぽっと彼の頭が飛んでいった。


『…………』


――シュタタタタタッ、カプッ、シュタタタタタ。


「クゥ~ン、クゥ~ン」

「……あぁ、ありがとう」


 かなり微妙な空気だが、イズナがダッシュで飛んでいったカツ、もとい髪の毛を咥えて戻ってきて、カツーラに向けて差し出した。


 利口だとは思うのだけど、こ、これは褒めるべきだろうか?

 しかし、カツーラはお礼を述べ、それを受け取り頭にはめ直し。


「とにかく私はカツラではありません」

「あんたすげーーーーな!」

「男っす! 真の男がここにいたっす!」

「ま、まさか本当にカツラだったとは、このパーパの目を以ってして――」

「パパ空気を読んで!」

「ははははっはっ、一体なんの話ですかな?」


 しかし何を言われても動じなかったカツーラ。彼こそ執事の鑑だ。


 とにかく、そんなわけで中々濃い町の人達に見送られながらも――俺達はパーパの護衛として港町ハーフェンに向けて動き出すのだった。

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