第百三十四話 飼う? 飼わない?
マビロギは結局どこかへ消えてしまったが、大量のゴブリンを生み出す要因となっていたクィーンは倒すことが出来た。
その後はクィーンの魔石を取った後、マイラ達のいる場所まで戻った。
どうやら他のメンバーも戻ってきたゴブリンの群れと一悶着あったようだが、一丸となって挑んだことで大した怪我もなく乗り切ることが出来たようだ。
「ゴブリンが次々に戻ってきてたっすが、それが突然落ち着きがなくなって、それぞれがバラバラに動き出したっす。シノビンの向かった方からやってきたゴブリンも殆どがパニック状態だったすが――やっぱりシノビンが大本をやっつけてくれたっすね」
「あぁ。ゴブリンクィーンというのがいてな、それが大量のゴブリンを産み落としていたんだ。かなり凶悪な奴でハウンドも惨殺されていたな」
ハウンドに関しては誰ひとりとして同情するものはいなかった。
まぁあいつは自業自得だからそうもなるだろうな。
それでも一応あいつが死んだと判るように遺留品はある程度持ってきている。これを添えて町長へ報告するとしよう。
勿論奴がやろうとしていた事もしっかりな。
「ワン! ワン! ワン!」
シェリナも当然無事だった。
やはりネメアに護衛を任せておいたのは正解だったな。
シェリナは怪我をした人たちをしっかり治療してあげたりもしていて他の面々から随分と感謝もされていた。
影の功労者は間違い無しに彼女だろうな。
そしてそんな彼女のおかげで命拾いしたと言えばこの猟犬もそうだ。
一匹は残念な事をしたが、もう一匹は助けることが出来た。
そしてなぜか今、吠え声を上げながら俺の周りをグルグルと回っている。
威嚇している、というわけでもなく、何か凄く嬉しそうでもあるな。
「フン、これだから獣は。怪我を直して上げたのはシェリー様だというのに、なぜそやつに靡く?」
『きっと本能で手を差し伸べてくれた相手が誰か、判っているのですよ』
「そういう事っすね。シノビンの優しさが判ったっす!」
優しさって、そんな褒められるほどの事じゃないけどな。
まぁそれはそれとして……。
「キャン!?」
「はいはい、おとなしくしとけよ」
「え? 何してるっすか?」
俺は次元収納からハンカチを取り出し、犬の顎を掴んで口を開けさせた。
不思議そうにマイラが声を掛けてきたが、俺はハンカチで犬歯についているそれを拭い取ってやる。
「気持ち悪かっただろうけど、これで大丈夫だ」
そしてハンカチを水遁で濡らし犬を解放してやる。
「え~と……」
「あぁ、歯に塗られていた毒を取ったんだ。耐性はある程度あるんだろうけど、それでも身体にいいものじゃないし、気持ち悪かっただろうしな」
そう、ハウンドは調合した毒を犬歯に塗布していた。それがあったから、ゴブリンの冠種も毒にやられたわけだが、当然そんなもの塗っていたら唾液にもまじるし舌にも触れる。
きっとハウンドに調教されて慣らされていたんだろうけど、だからってついたままで嬉しいものじゃないだろうしな。
「そうだったんすね。そう考えると、やっぱりあのハウンドはとんでもない奴だったっすね!」
「まぁな」
すると、ペロリと猟犬が口の周りを舐めた後、尻尾を揺らして鳴きだした。
そして――
「お、おいおい……」
俺に向けて飛びかかってきたかと思えば、そのまま首にしがみ付くようにしてペロペロと顔を舐めてきた。
「すっかり懐かれたみたいっすね!」
『これは責任を取らないといけないかもしれません』
「どっちでもいいが飼うならしっかり育てるのじゃぞ」
ま、マジかよ……これ、俺が飼わないといけない流れなのか?
なんか雰囲気を読んだのか、一旦犬を地面に戻すと、ちょこんと座って、ワフン、と鳴き、尻尾を左右に振りながら何かを期待するような眼差し。
「……ふぅ、とりあえずどうするかは後で考えるとして、せめて宿までは一緒につれていくとするか」
「良かったっすね! 飼ってもらえそうっすよ!」
「ワフン! ワン! ワン!」
「いや、ちょっと待てマイラ、俺はまだ飼うと決めては……」
『も、もしかして捨てちゃうつもりなのですか?』
シェリナが瞳をウルウルさせ酷く悲しそうな顔で石版を掲げてきた。
ネメアも、酷いやつなのじゃ! なんて騒いでる。お前今までどうでも良さそうな顔をしていただろう!
そして犬も項垂れて、クゥ~ン、なんて悲しそうな声を上げている。
なんかハウンドと一緒の時と性格違わないか? いや、悪くはないしなんなら結構可愛く思えてくるぐらいだけど!
まぁとにかくだ、ここですぐ決められる話でもない。何せゴブリンの件を解決したら次はパーパとムスメの護衛も待っているんだ。
飼うにしてもふたりがどう思うかは確認しておく必要がある。もしそうなった場合必然的に旅に犬が同行することになるしな。
――とは言え、実はわりと忍犬というものに憧れを抱いていた時期があることも確かだ。
うちで飼ってたのネコだったし。
こっちの犬にその素質があるかはわからないけど、ハウンドとの連携を見る限り身体能力なら十分に物になる可能性が高い気もする。
まぁ、そううまく行くとは思えないけど、シェリナが結構気に入っている様子でもあるしな。
ネメアはあんな感じだからペットって風じゃないし、心のオアシス的にはいいのかもしれない。
そんなわけで、俺達は洞窟を後にし、途中適当に残ったゴブリンなんかを片付けながら――タイムの町へと凱旋したわけだが。
◇◆◇
「いやはや! まさかこうも早くに解決に至るとは感謝の言葉もありません!」
どうしても頭に目がいってしまうが、町長のハッゲールから随分と喜ばれた。
その流れであの灰色の猟兵団についても報告したのだが――
「はて? 灰色の猟兵団? ハウンド?」
「それについてはこのカツーラが後を引き継がせてもらいます。ハゲは黙っていてください」
「え? 今お前、私の事ハゲって?」
「言ってませんよ、このハゲ」
「え? いや、いったよね? 確かに今いったよね?」
「報酬の件ですが、予定通り生き残った皆様には千万ルベルを山分けという形で、シノビン様には特別報酬として更に追加で百万ルベルお支払い致します」
「おい、いいからお前答えろって、ハゲって言ったよな? 私の事ハゲと――」
どうやら全体的な事はこのカツーラが把握しているらしく、ハゲ、もといハッゲールの執拗な詰問を無視しながら今回の件の話はまとまった。
ただ、念のため屋敷からも調査団が派遣され、洞窟などを確認し、本当にゴブリンの脅威が去ったかを見てからの支払いになるそうだ。
まぁ、問題がなければ明日中ぐらいには支払われるそうだし、これは問題がないな。
「くそ! 馬鹿にしやがって、大体お前こそカツラだろうが!」
「誰がカツラだこのハゲーーーー!」
最後はそんなふたりのやり取りを聞きながら俺たちは屋敷を去った。
そして宿に戻ってゴブリンの件をパーパに伝えたわけだが。
「いやはや、皆様流石ですね。こんなにも早く事件が解決されるなんて。でも、助かりました」
「予定は間に合いそうですか?」
「えぇ、元々余裕を持っての道程を組んでおりましたからこのぐらいであれば誤差の範囲内です」
「早く解決できてよかったねパーパ」
「そうだね、それにゴブリンに愛するムスメが汚されなくて本当に良かった」
心から喜んでる様子のパーパ。娘さんの事は大分溺愛しているみたいだしな。
「あ、あの魔導書の件、本当助かりましたっす! おかげ様でゴブリンを退治するのにも役立ったっす!」
「そうですか。お役に立てたなら何よりです」
朗らかな顔でパーパが答える。確かに魔導書のおかげでマイラの扱う魔法にもレパートリーが増えたな。
「それで犬についてなんですが……」
そして俺は例の犬について確認を取る。
「えぇ、勿論一緒で構いませんよ」
それについてパーパは快く了承してくれた。どうやらムスメも犬は大好きらしい。
ふぅ、ここまで話が纏まるとな。どちらにせよ放ってはおけないし。一緒に連れて行くとするか――
次の更新は17日になるかもしれません。




