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第百二十九話 犬、魔物使い、傭兵、忍者

「シェリナ、一つお願いがあるんだけど、こいつ治してくれるかな?」


 ハウンドが逃げた後、俺は奴が連れていた犬の一匹を抱きかかえ、シェリナに頼む。


 他の連中は今はまだ遠巻きにポカンっとしているな。


「ぶ、無事っすか?」

「一匹は駄目だった。だけどこいつはかなり危ないが、部位欠損も治せるぐらいなら試してみる価値はあるかなと。あいつは憎たらしいが飼われていた犬に罪はないからな」

『わ、判りました! 絶対に助けてみせます!』

「流石シェリナ様! 慈悲深いのじゃ!」


 ネメアが感動で目をうるうるさせている。まぁでも、シェリナは心優しいからな。やってくれるとは思っていた。


「それじゃあ念のため、エーテルは置いていく。二本しかないけど、マイラも魔力が減ってるなら飲んでおくとい。後はシェリナの分かな。ポーションも一応置いてくから」

「え? 置いていくって、シノブはどうするつもりっすか?」


 次元収納から取り出した瓶を地面に並べてやると、マイラが心配そうに尋ねてきた。


「俺はハウンドの後を追う。それに、まだ元凶は倒せてないからな。そっちも何とかしないと」

「な、ならあたしもいくっす!」

「……いや、マイラはここでシェリナの事を見ていてもらえるか?」


 え? と目を丸くさせるマイラであり。


「ど、どうしてっすか? あたしじゃシノブの足手まといっすか?」

「違う。だけど、見てて判ったんだがシェリナの回復魔法は一瞬で怪我が治るようなものじゃない。怪我が大きければ大きいほど、それ相応に治療に時間が掛かる。ネメアがいるとは言え、やっぱ守りは多いほうがいいし、それに――」


 俺はそこまで言った後、一体どうしたら良いかと逡巡している様子の面々に声を掛け集まってもらう。


「ゴブリンはまだ外にもいるだろうし、それが戻ってくる可能性はある。その時は出来るだけここで食い止めて欲しいんだ。奥で何かあった時に挟み撃ちにあったら洒落にならないからな」


 これは生き残った面々にも伝えたことだ。とにかく俺はハウンドを追うとだけ告げてある。


 マイラのように心配してくれる人もいたが、俺の実力は十分理解してくれたようで、あっさりと俺が単身で向かうことに納得してくれた。


「……シノビン――」

「マーラ、騎士なら判るだろ?」


 騎士から先は耳元で囁くようにして伝える。シェリナは皇女だ。だからこういえば騎士のマイラならどうすべきか判ってくれる筈だ。


「――その言い方は卑怯っす。でも、判ったっす。その代わり絶対に戻ってくるっす!」

「あぁ、当然だ」


 そして俺は、じゃあこっちは頼んだぜ、とだけ告げて奥へ向かった。


 正直言えば、マイラでは厳しいと思った。この先にいるのはそれぐらいの相手だ。正直ハウンドだってどうなってるかってレベルだ。


 だから、俺が行って片を付けないとな――






◇◆◇


「な、なんでよ、どうしてこうなっちゃうのよ!」


 マビロギは一人憤っていた。あの男の魔手から逃れ、そして森でクラス持ちのゴブリンを何体も使役し――

  

 そしてゴブリンの持つ情報を頼りに案内を命じ、この洞窟までやってきたまでは良かった。

 途中ゴブリンジェネラルという冠種もいたが、それも魔物使いの力で上手く避け、更に奥に位置するこの空洞までやってきた。


 本当ならジェネラルをティム(隷属化)し使役するという手もあったのだが、ジェネラルは図体もでかく連れて歩くには目立ちすぎる。


 マビロギは魔物使いとしての勘で、この先に更に強力なゴブリンがいることを察していた。

 だからこそ、大物狙いでわざわざここまでやってもきた。


 そして――それはいた。

 ゴブリンキング、冠種でいえば上から二番目に位置する王種。


 それがこの空洞内で鎮座していた。それを見てマビロギもハッとしたものだ。そしてゴブリンが大量に現れている理由もわかった。


 そう、王の位ともなれば従えさせることの出来る配下の数は一気に増える。それに王は配下になったゴブリンをある程度強化出来る存在でもある。


 だからこそ、通常種とは異なるゴブリンがこれほどまでに大量に集っているのだろう。


 そしてそれはマビロギにとっては僥倖でもある。何故ならこのキングさえティム出来てしまえば、その配下のゴブリンも一瞬にして自分の物と出来るからだ。


 これは冠種を使役した場合の特典とも言える。元々配下を従えさせているこのキングのような存在を魔物使いがティムすると自動的にその下にいた魔物も全て使役されるからだ。


 つまり王の主は王であるという考えだ。それが魔物使いと冠種とその配下の間で成り立つ。


 だが、勿論冠種しかも王をティムするなど本来はかなり難しい事だ。

 

 しかし、マビロギも帝都にいた頃に比べて大分成長している。

 レベルは45まで上昇しているし、新しいスキルのおかげでオーラの量も増えた。

 魔物使いが魔物を使役する上で重要なのはオーラの差だ。


 この差が倍以上あるとティムは非常に難しく、当然その差が縮まれば縮まるほどティムはしやすくなる。


 それでいけば、このゴブリンキングは十分にティム可能と思われた。魔物使いは鑑定こそもっていないが、魔物のオーラはなんとなく感じ取ることが出来る。


 それでいけば若干マビロギよりオーラは上のようだが十分許容範囲の筈であり――だからこそこれであの男相手の切り札が手に入ると、そう踏んだのだが――しかしその考えは脆くも崩れ去ることに、何故なら、何度やってもこのゴブリンキング相手にティムは成功しなかったからだ。


 しかもその間に使役したゴブリンは次々とキングやその配下に倒されていき、それでもなんとかキング周辺のゴブリンをティムしながら粘り続けたのだが――戦力に差が有りすぎた。


 マビロギがいくらティムしてもそれ以上の物量で折角使役したゴブリンがあっさりと叩き潰されてしまう。


 このままではジリ貧であり――マビロギの背中に冷たいものが走った。

 彼女とて魔物使い。

 

 当然ゴブリンの性質についてはよく理解している。そして今の自分は薬が切れてしまった為、すっかり女に戻ってしまっている。

 

 この状況でゴブリンに捕まるような事があれば、そのときは――


「い、嫌だ! そんなの絶対に嫌だ! ナパームレイン!」


 遂に耐えきれなくなり、マビロギもキングの隷属化は諦めたのだろう。戦法を魔法による攻撃に変化させ、頭上から大量の炎の雨がゴブリン達に降り注ぐ。


 火だるまになるゴブリンの集団。地面を転げ回るもの、瞬時に消し炭になるものなど、その状態は様々だが――しかし、キングは無傷のままそこに悠然と立ち続けていた。


「そ、そんな、これで駄目だなんて……」


 絶望の色がその瞳に滲んだ。何とか残り少ないゴブリンを壁にしての魔法だったのに、キングには効いていない。


 このままでは本当にゴブリン共に捕まって――ガタガタと肩が震える。

 そこへ――


「な、なんだこりゃ! こんなところにまだゴブリンが、しかも――キングかよ……」


 先ずは驚きの声。そして動揺した声。


 マビロギは思わず声のした方に顔を向ける。そこには一人の男の姿。腕にアームシューターと呼ばれる弓を嵌め、腰には片手剣。


 明らかに傭兵然としたその姿に、マビロギは多少の希望を持って声を上げる。


「ちょ! 貴方傭兵でしょ? なら助けて! 報酬は後で支払うから!」


 実際はそこまで手持ちはないマビロギだが、今魔法で倒したゴブリンから手に入る魔石なども利用すれば護衛代ぐらいはなんとかなると考えた。


 だからこその救援要請。

 だが――


「――わりぃが、俺に自殺願望はないんでね」


 そう言って男は、むしろキングの目がマビロギに向いている今がチャンスと考えたのか、奥に続いている道へと消えていった。

 

 あの先に何があるかは知らないが、少なくともゴブリンキングと鉢合わせするような状況よりはマシと考えたのであろう。


「そ、そんな……」


 こうして結局あてが外れてしまったマビロギ。男が逃げていったのを認めた直後、ついに最後の壁になってくれていたゴブリン達がキングの大剣によって切り飛ばされた。


 ゴブリンの王と目と目が合う。何故かニヤリと口角を吊り上げたような、そんな気がした。


「お、お爺ちゃん、たすけ――」


 思わず、帝都にいる祖父に呼びかけてしまう。だが、それが祖父に届くわけもなく――だが、その代わりに意外な声がその耳に響いた。


「全く、ハウンドかと思ったらまさかお前がこんなところにいるなんてな」

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