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現代で忍者やってた俺が、召喚された異世界では最低クラスの無職だった  作者: 空地 大乃
第二章 それぞれの旅路編

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第百十九話 町長の依頼

「彼らは今回の旅で護衛を務めてくれていてね、残念ながら二人は帰らぬ身となってしまったのだけど――」


 タイムの町、外壁に囲まれた南門前にて、パーパは門番による検閲を受けていた。


 尤も、行商人として何度も行き来している彼とは門番も顔なじみらしく、俺たちについてもそれほど事細かに聞かれるようなこともなく、荷の確認もあっさりと終わった。


 死んでしまった傭兵に関しては、門番の二人も畏敬の念を込め、祈りを捧げたりしていたが、その直後パーパへと難しそうな顔を見せ口を開く。


「この二人に関してはどこで?」

「実は、町まであと少しというところでゴブリンの集団に襲われまして。それが予想以上に手強かったようで二人は残念な結果に」

「なんと、やはりそうであったか」

「やはり、と、申されますと?」


 片眉を上げ、悪い予感が当たったとでも言うような、そんな雰囲気で声を上げる門番。


 どうやらゴブリンについて何か心当たりがあるようだな。


「パーパ殿は、やはりこの後は港町ハーフェンを目指すので?」


 そう問うということは、彼らはいつも大体そのルートで行商を行っているのだろう。


「そのつもりです」

「そうか、だが、もしかしたら今回はそう簡単にはいかないかもしれないぞ」

「もしかして何か問題が?」

「二点ほどな。一つはハーフェンに向かう途中のサンダル山脈に山賊が住み着いたという話が持ち上がっていること。だが、それよりも火急な問題は今話されたゴブリンの事だ」


 山賊か……こういった世界なら普通にいそうだな。だけど、それより問題なのがゴブリン?

 確かに途中で出くわしたゴブリンは通常のゴブリンよりは手強かったようだけど。


「ゴブリンですか、確かに途中でかなりの数に襲われましたが」

「二人犠牲者が出たのは気の毒だが、それでも荷が無事で守られる側の貴方達が助かったのは幸運だったと言えるかも知れない。かなりの被害が出ている。それは同じように商人や旅人が襲われたというのもそうだが、ゴブリンの影響で動植物にもかなりの被害が出ていて、周辺の畑も荒らされ続けている。農作業に専念していた農民も襲われ殺されたり若い娘は攫われたりなどとにかく尋常じゃない事態に発展している」


 おいおい本当かよ。たかがゴブリンと思っていたが、かなりとんでもない事になっているな。


「とにかく、貴方もゴブリンのことが落ち着くまでは町から出ないほうが良いだろう。被害はサンダル山脈に向かうまでの道中でも起きている。どうやら西のカマス山脈に沿うようにゴブリンが大量に発生しているようでな。そこから多くのゴブリンがこの町周辺になだれ込んできているのでは? というのが現段階での推測だ」


 山脈、あの森の西側に鎮座していた山々か。


「ところで、君たちはあのゴブリンを倒し、護衛の務めを果たしているぐらいなら、腕に覚えはあるのかな?」


 ここで俺に質問が振られた。正直あの程度のゴブリンならやられることは先ずないが、出来るだけさとられないように。


「覚えがあると言っても、今回はなんとかといったところですけどね。自分も無我夢中でしたから、油断していたなら流石に命の危険もあったかもしれません」

「……うむ、確かにゴブリンとはいえ、今出没しているのはかなりLVが高いらしいからな」

「ええ、確かに――」

「何を言っておるのじゃ! あの程度のゴブリン我らなら楽勝なのじゃ! 大体お主も何が命の危険じゃ! 一人であっさり全滅させていたではないか!」

「な、何一人で!?」


 この馬鹿! 腰に手を当てて胸を張って何を得意げに語ってるんだ!


「それは本当ですかなパーパ殿?」

「え? あ、はい。確かに彼、シノビン様のおかげで随分と助かりましたが」


 パーパは俺の雰囲気を察してくれていたのか、必要以上には俺のことは語らなかったと言うのに……でもこう聞かれたら彼の立場としては答える他ないだろう。


「それならば是非、この町の助けになってくれないか? 丁度町長もお触れを出したところでね。よければ町の中心にデカデカと立て札が設置されているから見てやって欲しい。勿論礼拝堂など必要な事を済ませてからでも構わないから」


 結局門番からそう告げられ、そのまま町へと入ることとなった。


 全く、またどうにも厄介事が舞い降りてきてる気がしてならないな。


 とにかく、先ずは礼拝堂により、遺体をおろして神父様に供養してもらった。お祈りを終えた後は、裏の墓地に埋葬してあげる。


 お布施はパーパが支払った。本来なら護衛とは言え、死んでしまった者にここまですることは少ないらしい。


 アンデッドになる可能性があるとはいえ、瘴気が濃くなければそこまで高い確率でもないので、死んでしまったらそのまま放置していったり、良くても適当に穴をほって埋めてしまったりする場合が殆どなようだ。


 尤もパーパだって、町から離れた場所で死んでしまっていたなら、どこか適当な場所に埋める他ないんだろうけどな。


 そしてその後はパーパ行きつけの宿へ向かう。俺達の部屋も約束通り取ってもらった。

 流石に一人一部屋というわけにもいかないので、俺とネメア、マイラとシェリナ、そしてパーパとムスメは親子で一部屋、合計三部屋だな。


 ネメアと俺はとりあえず兄妹ということにしているしな。シェリナと離れることにぶ~たれていたが、一緒にいたいなら二人の部屋に上がり込めばいい。

 

 二人もそれならそれでいいと言ってたしな。


 そして一旦取ってもらった部屋に入り、その後は皆にも護衛の件を伝えるが。


「うん、いいと思うっす。それにムスメちゃんも可愛いっす。旅が楽しくなりそうっす」

『私も異論はありません。目的地が一緒なら、むしろ護衛という形を取ったほうがいいかもしれませんし』

「我はシェリナ様の意見に従うまでなのじゃ」


 というわけで満場一致で護衛に関しては引き受けるという話で落ち着いた。


 ただ――


「問題は、門番が言っていたアレだよな」

「ゴブリンの件っすね!」

『ゴブリンの大量発生、私、気になります!』

「安心するのじゃ。シェリナ様は我が意地でも守るのじゃ!」


 う~ん、ネメアが守るのは当然としてだ。


「ネメア、そう言えばお前ちょっと迂闊すぎるぞ。さっきだってわざわざ門番に実力の事を伝える必要ないだろ」

「何を言うておるのじゃ! シェリナ様の護衛がゴブリンより弱いなどと知れれば末代までの恥なのじゃ!」

「いや、お前一体今どんな立場なんだよ……」

『気持ちは嬉しいけどネメアちゃん、私は別に強いと思われなくても。それに、一応しのんでの旅だから……』

「ぬぉ! す、済まなかったのじゃシェリナ様! わかったのじゃ気をつけるのじゃ~」


 本当、俺よりシェリナ優先なんだなこいつ……まぁ理解してくれたならいいけど。


 とにかく、話はまとまったという事で俺はパーパの部屋に行き、護衛を引き受ける旨を告げる。


「いや! そう言って頂けると本当に助かります。勿論報酬の方は弾ませていただきますので」

「いえいえ、そこは無理なさらなくても宜しいですので」

「ははっ、大丈夫ですよ。勿論出せる範囲で精一杯頑張らせていただきますので。ただ、折角護衛が決まったのは良いのですが、門番の言っていた事が気になるところですね……」

「ゴブリンの件ですね。自分も気になっていたので、これから門番の言っていた立て札というのを見に行こうと思っていたのですが」

「それは丁度良かった。私も気になっていたのでご一緒しましょう」


 結局六人全員で一旦宿を出てその内容を確認しに行くこととなった。


 町の中心に行くと、先ず目についたのが誰でも利用可能な掲示板の存在だった。

 何か伝言などを書いたり彫ったりした細い板を掛けておけるタイプであり、細々とした要件が書かれた板が並んでいる。


「この掲示板は伝言よりも仕事の依頼が主ですね。私ももしシノビン様とお会い出来なければ傭兵の募集をここにも掛けていたかもしれません。冒険者ギルドが帝国から撤退した為、各町はその代わりにこういった形でやり取りするようになったのですよ。ギルドが関係しないのであくまで個々でのやり取りになりますけどね」


 俺が実はわりと田舎の方から来ていてこういったものに疎いと話すと、パーパは掲示板について親切丁寧に教えてくれた。


 特にこの町のように傭兵ギルドもないような場合は公に開放された掲示板を利用する事が多いようだ。


「しかし、今日は掲示板に掛けられてる依頼も少ないようですね。やはりあの立て札の影響でしょうか?」


 そう掲示板から少し先に目を向けると、門番が言っていたように確かに大きな立て札が設置されている。


 多くの人が注目しているようでもあり、俺達もその正面に立ち内容を確認した。


・求む! 腕自慢の討伐者!

ここ最近、通常種とは大きく異る凶悪なゴブリンが出現し、その被害が現在も拡大中である。田圃は荒らされ、農民もゴブリンによってその生命を奪われ道行く商人も数多く狙われた。若い娘や子供もゴブリンに捕まりどこぞへと連れ去られる始末。すでにここタイムの町にも甚大な影響が出てしまっている。そこでここにこの町を任されし町長である私の名のもとに、ゴブリン討伐のための隊を結成する事と決定した。我こそはと思う腕自慢の猛者、傭兵、その他諸々、とにかく腕っ節に自信のあるものはこの危機を救うため集って欲しい。討伐隊への参加希望者は本日夕刻4時までに町長である私の屋敷の庭へ集合する事。討伐の決行は早速明朝からとなる。討伐に関する詳細については追って説明する。勿論報酬は弾む! さぁ今こそお前たちの腕を見せつけるときだ!


依頼者:町長スートレース・デ・ハッゲール


 

 気苦労が絶えなさそうな名前だな――なんとなくそんな事を思ったが、その場でこの話についてどうするか護衛の依頼を引き受けたパーパも含めて相談する。


「そうですね、私としては問題は解決してからのほうが安心できる気がします。何より目に入れても痛くないほど超絶かわいいワンダフルキュートなエレガントマイ娘のムスメがいますから」


 ムスメというのがイマイチなれないけど、親バカなのは良くわかった。


 ゴブリンは人間の女性を狙うから気が気ではないのだろう。


「私もゴブリンは……」


 娘のムスメも肩を震わせる。あの時襲われていた記憶が蘇ったのかも知れない。


「シノビン! これは迷うことないっす! ゴブリン退治にあたしたちも参加するっす! ムスメちゃんとパーパさんの不安を取り除くっす!」

『賛成です。ゴブリン死すべしです!』


 中々ゴブリン相手だと過激だなシェリナ……。


「それなら我に任せるのじゃ! ちょっと行って殲滅してくるのじゃ!」

「待て待て、単独行動はやめろ全く」


 大体いくらネメアが強くても、相手の規模がわからなきゃどうしようもないだろ。


「とりあえず、4時までにこの町長の屋敷庭まで赴くとして、まだ少し時間があるな。パーパさん、このあたりで魔物の素材や魔石を買い取ってくれる店は知っていたりしますか?」


 何せ傭兵ギルドがないからな。そうなると聞いてみるしかない。


「あぁ、それならばですね――」





 パーパに教えてもらった店で素材と魔石を売った後、俺達は町長の屋敷へと赴いた。


 元々本来はそんなに多くの買い取りが発生することはないらしく、俺の手持ちの素材と魔石だけでも査定に結構な時間が掛かってしまった為、店を出る頃には立て札に記されていた時間が近くなってしまっていた為だ。


 おまけに買い取り値が高くなる魔石はここでは買い取れないと言われた。霧の巨人の魔石がそれだな。


 まぁ仕方ないからこれはとりあえず塩漬けだな。


「いや~やっぱり結構な数の人が来てるっすね」

「あぁ、そうだな」

 

 マイラの言うとおり、屋敷の庭は多くの人でごった返していた。

 傭兵ギルドのない町ではあるけど、ゴブリンの件で足止め喰らっていた流しの傭兵なんかも多かったのかもな。


 ざっと見たところでも、数十人は軽くいるなこれ。


『怖そうな顔の人が多いです……』

「シェリー様、こんな連中顔だけなのじゃ。腕前なんて大したことないのじゃ」


 おいおい……今何人かから思いっきり睨まれたぞ。喧嘩売るような発言は控えて――


「あん? おいおいなんだよこれ、なんでこんな弱そうな餓鬼がこんなところにいるんだ? 全くこちとら餓鬼の面倒見るためにわざわざ来てるわけじゃないってんだよ糞が!」

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