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第百一話 交渉

第百話にて、マビロギにシノブを以前戦った相手として認識させてましたが、それだと話の流れ上おかしな事になるのでその箇所だけ修正いたしました。

「貴様! こんな事して恥ずかしくないのか!」

「ぐむむむむっ! よりにもよっって、私の大事な孫を人質に取るとは! このゲスが!」


 酷い言われようだな。相変わらず目深にフードを被っているマビロギといい、マジェスタといい、親の敵みたいな目で俺を見ている。


 いやそういわれてもな。こっちだって必死だからね。生き残るためならこれぐらいやる。忍者舐めるな。


「う、うぅ、な、何か仕方ないとは思うっすが、何かモヤモヤするっす!」

『正義のヒーローがこんな真似……』


 そして気のせいかマイラとシェリナの株も下がっている気がする。

 それと何気にシェリナが石版普通に使ってるけど、バレるからそれ!


「貴様の仲間のせいで私の孫は何度も辱められているというのに、更に人質にまで取るとは、ここまでの外道初めて見るわ――」

 

 すっげぇ怒りに満ちた目で見下されているけど、あれ? これ何? 何か俺の方が悪役みたいになってない?


 いやいやおかしいでしょう絶対!


「まさかここまで最低な男だったとはな。貴様の仲間もとんでもない男だったがここまではしながったぞ。全く本当に見下げた男だ貴様は」


 人質のマビロギにもこんな事言われているよ。大体それ、どっちも俺だからね! 


 全く、喉に刀当ててるんだからもっとこう、人質らしい態度をとってほしいところなんだけどな。


 とは言え、家名一緒のようだから、親族の可能性は高いとは思っていたけど、孫だったとはね。


 それであの男、まあ、お爺ちゃんも俺に腹を立てていたってわけか。

 

 でもそんなに酷いことしたか? 精々土遁で狭くて暗い場所に閉じ込めたり、おもらしさせたり、うん、結構な事やってたな。


 でもだからって、こいつもいい年だろ? 男の孫に執着ありすぎじゃないのか。俺の爺ちゃんなんてどんなに危険そうな任務でも、根拠なく、『お前を信じてるぞ!』ぐらいしか言ってくれなかったぞ。


 とは言え、そこまで溺愛してくれていると言うなら好都合だ。

 こっちの要求もきっと通りやすい事だろう。


「お前らがどう思おうが知った事か。それよりもどうするんだ? 要求を飲まないと言うならこの場でこいつの首を刎ねるぞ?」


 まぁ、正直言えばこれはハッタリだ。本当に刎ねる気なんてない。別に命を取ることに躊躇しているとかではないが、ここで本当に首を刎ねたところで何のメリットもないからな。


 あくまであの厄介な魔法をやめさせるための人質であり言うなれば盾だ。自らその盾を壊してしまったら身を守る術はなくなるし、何よりそこまで溺愛しているなら殺したりしたら相当な怒りを買うことも間違いないだろう。


 だから、ここからは是が非でも相手に手出しさせないように持っていかないといけない。


「ふ、ふざけるな! お祖父様! こんなゲスの言うことなど聞く必要ありません! 僕も覚悟ぐらい――」

「あいつから聞いたが、ちょっとビビったぐらいで簡単にお漏らしする程度のお前に、本当にそんな覚悟があるのかよ?」

「な!?」


 案の定囀りだしたので耳元でその時の事を囁きかける。途端に喉をつまらせて黙り込んだな。肩もプルプル震えてる。


「……もういい、判った。ならば要求を言ってみろ。どうせ貴様のような外道が求めるのは金であろう?」

「決めつけんなよ。別に金なんていらねぇ、今俺が必要なのは――逃げ道だ」

「――は? 逃げ道だと?」

「そうだ、仲間もやられて俺達はもうこんな場所に用はないものでね。だから俺達が無事脱出できるまで手を出さない約束をしてくれればそれでいい。尤も、安全だと判断できるまでこいつは人質としてついてきてもらうけどな」


 俺がそう告げると、マジェスタは怪訝そうに顔をしかめた。


「ここまで来て貴様を逃がせと言うのか? 貴様らのおかげで我が帝国の面目は丸潰れだ。そこまでの事をしておきながら、この場を退くのを見逃せと、貴様はそう言っているのか?」

「そのとおりだ、でなければ大事な孫の胴体と首から上が離れ離れになるだけだぜ?」


 しっかり殺気を込めて、首筋にあてた刃に力を込めて宣告する。

 相手に本気だと思わせなければ意味が無いからな。


「……その条件を呑んだとして、貴様が無事孫を返すという保証がどこにある?」

「信じてもらうしかないがな。ただ、お前ほどの腕があるなら、例えこの場から離れても俺たちを見続けることは可能だろう? 勿論それと似たような事は俺にも出来る。お前がおかしな気を起こさず、その場でじっと黙っていてくれるなら、安全だと確認が取れた時点でこいつを解放してやるよ」

「――もし約束を反故にしたら、私は絶対貴様を許さん。この手で八つ裂きにして、いやその程度では済まさぬ、考えられるあらゆる責め苦を与えた末に、殺してくれようぞ」


 こっちはこっちですげぇ威圧を込めて忠告してきたな。これは万が一でもあったら本気で狙ってきそうだ。地の果てまでも追ってきそうだしな、くわばらくわばら。


「約束は守るさ。とにかく、俺達はこの場から少しでも早く立ち去りたいだけだからな」

「……判った。ならば、私もその条件を呑むほか――」

「勝手な約束は勘弁願いたいところだな」


 上手くいった! と心のなかでガッツポーズを取りそうになったその時――あり得ない声が地上から響き渡る。


 そう、あり得ない。あれだけの傷を負っていながら――まだ、立ち上がるだと?


「――フィフスだ、ギア・フィフス、まさか、ここまでギアを上げることになるとはな。こんなこと随分と久しぶりだ。全く、やってくれる」


 こいつ! ギア、ギアを更に一つ上げたのか! あの状況から――どうりで、ほぼ千切れたも同然の腕も、深手を負った身体も、完全に回復していると思った。


「ちょ、ちょっと待つのだアイン! 今やつには私の、私の孫が人質に取られておる!」

「そうですか、それはご愁傷様としかいいようがないな。だが、そんなことは俺には関係がない」

「な!?」

「まぁ、でも安心するんだな。一応は生け捕りにするのが目的だ。俺も加減はする。よっぽどのことがない限り、死ぬことはないだろう。ま、死んでしまったらそれまでと諦めるんだな」


 おいおい、この黒騎士、本気か?

 マジェスタの話なんて全く聞く気がないって様子だし、しかも――


「ヌゥウウウウウウウオオオォオオオ!」


 柄から右手を外して、腰溜めにし、何か唸り始めたぞ。

 しかも、その右手に何か光が集束していくのが見て取れる。


 これは、オーラか? とにかく、ただ事じゃない。


「それは、そうかフィフス――確かオーラの放出、己、貴様本当に我が孫をも巻き込むつもりか!」

「ウォオオォオオォオオオオォオ!」


 マジェスタが叫ぶが、黒騎士は全く聞く耳持たずといった様相で、溜めた力を今まさに解放しようとしている。


 何か強力な一撃が来る。それは間違いない。オーラの放出、確かマジェスタがそう言っていた筈だ。


 しかし、だとしたらそれはどれぐらいの物だ? 規模は? 威力は? 放ってから届くまでの時間は――駄目だ、情報量が少なすぎる。

 

 しかも今俺はこのマビロギを人質に取っている手前、印が結べない。唯一霧遁だけは使用可能だが、霧化のあれはまだまだ完全に使いこなしているとは言い切れない。


 雲散霧消もどんな攻撃が来るかぐらいはせめて判っていないと確実性は薄い。


 ネメアは――距離が少し離れている。あれじゃあ間に合わないだろう。


 くそ、こうなったらやはりイチかバチかでも、霧化で逃れるしか――


「うぉおおおぉおおぉおおおぉおおお!」


 その時だった。気勢を上げ、茂みの中から飛び出した一つの影。


 それが黒騎士に向けて一気に詰め寄り、今まさにその光の集まった手を突き出そうとしていた黒騎士の顔面に拳を叩き込んだ。


 それは一人の男。まるで俺みたいに仮面を被った、逞しい漢。


 そして、俺がよく知る人物でもあり、ダチでもある――最強の拳闘士(ボクサー)


「ぬぐうぉおおおお、くっ、何だ貴様は!」

「俺は仮面シノビー二号だーーーー!」


 その瞬間、何かが彼、そうケントの全身から吹き上がった。

 そしてそこから振り子のような動きを見せ――まずは猛烈なフックの連打が黒騎士に向けて左右から襲いかかる。


「ぐぅ、な、なんだこの圧力は――これが、素手だと?」


 ケントのラッシュは続く。今ケントが見せているのは、ボクシングではデンプシーロールとして有名な技。


 だがこれも、ケントが使用するとひと味もふた味も違う必殺技とかす。

 

 通常デンプシーロールは、左右からのフックの連打を相手に叩き込むが、ケントの場合は、これに加えて上下や斜めからの攻撃も加わる。


 つまり、ケントは振り子の猛烈な勢いを保ちつつ、より複雑な軌道の変化をやってのけることで、攻撃のリズムが単調で攻撃を合わせやすくカウンターに弱いという欠点を克服してしまっている。


 その万能さからか、会長からはハルバードロールと命名され、確かスキルにもその名称でのっていた筈だ。


 だけど、この凄まじさはそれだけじゃないな。なんというか前にマグマ戦で見た時よりも確実に身体能力が向上している。

 

 何より拳の威力と拳速が段違いだ。この強烈さは、そうだ、あの時、あの妙な組織に閉じ込められたときに見た、あの拳の威力だ。


 それがそのまま出てしまっている。本人はあのときは火事場の馬鹿力みたいなものとか言っていたけど、やはりこれだけの力を秘めていたってことか。


 それに加え、恐らく三分間の死闘という固有スキルも使用しているな。


 確かあれは三分間限定で、拳の威力や諸々が強化されるスキル。


 それをも組み合わせることで、ギアをフィフスまで上げた黒騎士をも驚愕させている。


 くそっ! 正直分身の記憶から近くにいたのは知っていたけど、このタイミングでなんて、イカすじゃねぇか!


「……早く行けぇええぇええ!」


 そして、ケントが叫ぶ。それが全てだった。ケントは俺のために、黒騎士を食い止めてくれている。


 俺がこの場を脱出できるよう、必死で! なら!


「おいマジェスタ! 約束を忘れるなよ! ほら、いくぞ!」

「な、放せ! この卑怯者!」


 マビロギは暴れているけど、とにかくマイラやシェリナにも目配せしてこの場を急いで離れることにする。


 ネメアは何故かシェリナに抱きかかえられているけど、とにかく、ケントの負担を減らすためにも急ぐんだ!

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