第九十九話 忍者VS魔導大臣
声を俺に向けて発してきたマジェスタは、森よりかなり上の方でふわふわ浮かびながら俯瞰してきていた。
空中静止は忍術の中でも結構難しい部類なんだけどな。奴はそれを魔法で難なくこなす。
「高みの見物とはいいご身分だなおい!」
仕方ないので上空の魔導師に挑発の言葉をぶつけつつ、看破の術でステータスを確認する。
ステータス
名前:マジェスタ・ランボルギニ
性別:男
レベル:108
種族:人間
クラス:神言魔導師
パワー:a■
スピード:πγ
タフネス:■□
テクニック:aエ_r
マジック:βΣαγγ△
オーラ :○◆zオBγ
固有スキル
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スキル
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称号
魔導を極めし者、無限知識の追求者
クソ! 予想はしていたけどほぼわかんね! 判ることと言えば名前と性別とLVと称号だけかよ。
しかもLV100超えとか初めて見る三桁の相手だ。称号もいかにもって感じで嫌な予感しかしない。
ただ、スキルはともかく、ステータスの数値、これは数値こそ見えないが、桁はそのままであっているのではないだろうか?
だとしたら、魔力六桁というのは正直とんでもないが、その他の数値は大したことがないとも言える。
だったら――先手必勝!
「紫電一閃!」
脚力を体遁で向上させ、大きく跳躍し接近、そこから霧咲丸を抜き、機先を制する為に一撃を浴びせる。
だが、バチィィイン! と何かに阻まれ、紫電も斬撃も跳ね返されマジェスタには全く届かない。
「全く、無粋なやつだ」
マジェスタが杖を掲げる。今のは、もしかして障壁という奴か? ネメアのような物理無効というのも考えたが、紫電一閃の紫電は物理ではない。
つまり物理的な攻撃だけではなく雷という属性すらも阻まれた事になる。魔法使いでそれが出来るとなるとやはり障壁と考えるべきか。
「――な!?」
そして、俺が次の手を考える頃には、周囲に灼熱の膨張が、しかも一つだけではなく、俺を囲むように数十――それが限界に達し、爆轟し、その現象が他の爆轟と連鎖し、重なり合い、空全体を覆うかのような大爆発を引き起こした。
夕刻のごとく茜色に染まる空。その余波で熱風も地上へと降り注いだ。地上の温度が一気に上昇し、蒸し風呂の如しと言ったところだろう。
洒落にならない威力。あのまっただ中にいたなら、間違いなくやられていた。
だからこそ俺は、咄嗟に瞬間移動を行使し、爆発の範囲から逃れることに成功した。
瞬間移動直後は風遁の効果は切れるから改めて術を掛け直す。
このあたりは流れるようにやっておかないと隙が生まれてしまうから注意が必要だ。
それにしても威力が凄まじい。これ、一つの魔法なのか?
いや、それにしては違和感がある。どちらかというと一つの爆発の魔法を何個も行使したような――ただ、二つ三つなら判るが、こんなにいっぺんに同時に展開出来るものだろうか?
「ぐぅう!?」
「逃れたのは良いが、油断し過ぎであろう」
そんなことを考えていた矢先、数本の落雷が俺の身を打った。
なんだ? マジェスタは振り向きもしてないぞ、それなのに位置が掴めたのか?
「お前のそれは魔法なのか? しかし転移魔法特有の魔力の流れも一切感じさせん。いや、そればかりではない、先程からずっとみていたが、貴様のそれは異質すぎるな。魔法のようで魔法ではない。魔力を全く感じないのがその証明だ」
こいつ――最初見た時はただの小狡い魔導師程度だと思っていたが、魔導大臣の肩書は伊達じゃないって事か。
厄介なのは魔法に関して、全く予備動作がないということだ。本来なら忍術の印のように、魔法にだって詠唱や術式を刻む動作があるものだ。
だが、こいつからは全くそういったものが感じられない。
「ふん、まぁ良い。貴様、さっき随分と面白いことを試していたな?」
面白いこと? な――突然水の泡が……息ができない。
「アクアプリズンだ。中々面白い魔法であろう? 放っておいても溺れ死ぬだろうが、お前がさっきやってみせたように――」
俺に向けたマジェスタの杖が放電を始めた。青白い稲妻だ。その時点で考えていることは読める。
「水との組み合わせで威力の増した電撃を受けて、貴様は無事でいられるかな?」
杖を突き出し、先端から蒼い稲妻が俺に向けて伸びてくる。
当然本来稲妻の速度なんて見てから避けれる物じゃないが――
「舐めるなこん畜生!」
俺は先ず霧咲丸で包み込んでいる泡をたたっ斬る。浮力がついていて厄介だったが、電光石火と重ねて叩き込んでやった。
そして更に返しの刃で伸びてきた稲妻を切り消す。ギリギリだったが、上手く言った。
「ほう、貴様、魔法が切れるのか。そのようなスキルを持っているようには見えんがな」
魔法を切るようなスキルもあるという事か? ただ、俺のはこの霧咲丸の効果によるところが大きい。
この刀は実体のないものでも切れる。ただ、無制限になんでも切れるってわけではないけどな。最初の隕石みたいに明らかに切れる範囲より大きな物は無理だ。
「自分が見せた技の返し方ぐらい、自分がよく判っているさ」
「いいよる。ならば、次はこのようなものはどうかな?」
問いかけるようなマジェスタの発言。かと思えば、突如その背後から炎に包まれた腕が伸び、俺に迫る。
「チッ!」
腕は八本、それが高速で俺に向けて拳を振り下ろしていた。握りこぶしの大きさだけで、俺の身体より倍以上ある。
ブォン! ブォン! と風を掻き乱しながら振り回される炎の巨腕、かなり太いが――これならなんとか、切れる!
「紫電一閃!」
俺は霧咲丸と紫電一閃を組み合わせ炎の腕の一本を見事切り飛ばした。
霧咲丸の効果で腕はすぐさま霧散する。よし、切れることさえ判れば――
「グフぉ!」
だが、俺の背中に突然生じる痛みと熱。一顧すると、炎の腕が俺の身体に突き刺さっていた。だが、残った七本の腕の位置は完全に把握していた筈だ。
実際、他の七本は別の位置にいて、俺に当てられた様子はない。つまり、この一本は背後から突然現出し、奇襲を仕掛けてきたことになる。
そして背中から爆発が起きた。最初にマジェスタが見せた爆発ほど激しくはないが、それでも俺にダメージを与えるには十分なものだ。
その衝撃で、空中にいた俺の身が、更に上空へと投げ出される。ダメージは、当然ある、だけど、まだまだ動ける! この程度で、やられるわけにはいかない。
ただ、さっきから何かが妙だ。突然泡の中に閉じ込められたり、あの魔法の量。
それに炎の腕――色々おかしな点が多い。あまりに魔法が多彩で、しかも発動までが早すぎる。
一つ一つが早いならともかく、連続的に早いというのは――とにかく、試しに俺は印を結び、開眼の術で魔力の流れを探ってみようと試みるが――
「な、なんだありゃ――」
唖然となった。マジェスタの背中からは、あの炎の腕だけではなく、無数の半透明の腕が伸び、まるで触手のように蠢いていたのである。
「ほう? その顔、お前まさか私の魔導の多腕が視えるのか? 並の、いや多少の魔法の使い手であったとしても、これは見えざる手でしかない筈なのだがな」
魔導の多腕? 確かに腕はかなりの数ある、一体何本あるのか――
「四十八本さ」
「……何?」
「言ったとおりだ。気になったのだろう? 今、腕は四十八本出している。特別サービスだ、これがなんなのかも教えてやろう。この腕の一本一本は私の意志で自由に動き、同時に腕の一本一本からそれぞれ別の魔法を発動することが可能だ。その意味、貴様に判るか?」
……つまり、あの腕は腕であると同時に、一つ一つが魔導を行使する為の頭脳のようなものでもあるということか。
しかもこいつは、詠唱や術式など一切無しで魔法を行使してくる。それが腕の数だけ、つまりやろうと思えば四十八の魔法を瞬時に発動することも可能って事だ。
その上、どうやらあの腕は伸縮自在なようで、動きも軟体系のそれだ。俺を背後から突然狙ってきた炎の腕も、あの自由自在な動きで回り込ませたのだろう。
炎の腕は、炎の効果をつけることで魔導の腕を燃焼させたといったところか。しかし、厄介なのはどうやら腕そのものはいくら切ったところでいくらでも再生出来てしまうのだろうという事だ。
全く、とんでもないのが最後に控えてくれていたものだ……。
「どうかな? 私が敢えて教えたのは、知ったところで絶望しか生まれないからだ。多少はハンデのつもりもあるが、ま、秘密が知れたところでどうしようもないだろうさ」
先んじて活動報告で書かせて頂きましたが今月の3日行きつけのコンビニの駐車場で轢き逃げにあってしまいました。翌日病院でみてもらったところ、最も大きな怪我は左脚親指の骨折でそれ以外は骨には異常はないとの事。ただ結構激しく地面に身体を打ち付けたため、節々が痛く、体調もすぐれないといった状況から更新が滞ってしまいました。今は大分落ち着いてきたので、毎日更新が出来ると断言は出来ませんが出来るだけ頑張ろうと思います。
活動報告では温かいコメントを頂きありがとうございます。とても励みになりました。
逃げた相手が見つかっていないのが心残りですが、今は警察を信じるしかないですね。




