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第46話 罠


人は。


剣を抜いた時に。


裏切るのではない。


疑問を持った時から。


もう。


元いた場所へは戻れなくなる。






薩摩。


夜。


黄金の天秤本陣。


静まり返った廊下を。


一人の男が歩いていた。


レオンである。


足音を消し。


闇へ溶け込む。


目的は一つ。


黄金の天秤が集め続けてきた帳簿。


兵糧。


金。


密偵。


裏切り者。


すべてが記された記録だった。


「あれさえあれば……。」


大友は守れる。


そう信じていた。


---


重い扉。


誰もいない。


ゆっくり開く。


部屋の中央。


木箱が一つ。


「……あった。」


レオンは息を殺し。


帳簿へ手を伸ばす。


その瞬間。


カチッ。


小さな音が響いた。


「しまっ――」


部屋中に灯がともる。


外から兵がなだれ込んだ。


「いたぞ!」


「裏切り者だ!」


レオンは刀を抜く。


だが。


誰も驚いていない。


まるで。


待っていたかのようだった。


---


廊下の奥。


ゆっくりと歩いてくる男がいる。


エドワード。


その表情に怒りはない。


「残念だ。」


レオンは歯を食いしばる。


「最初から……。」


「気付いていたのですか。」


エドワードは静かに頷いた。


「お前は変わった。」


「いや。」


「変わったのではない。」


「迷い始めた。」


静寂。


「人は。」


「剣で裏切るのではない。」


「心で裏切る。」


その言葉は。


レオンの胸へ突き刺さる。


---


「帳簿を奪えば。」


「大友を救えると思ったか。」


レオンは答えない。


エドワードは微笑む。


「その帳簿は。」


「最初から偽物だ。」


レオンの瞳が揺れる。


「本物は。」


「誰にも見せない。」


「これは。」


「お前を試すための餌だ。」


レオンは拳を握る。


完全に読まれていた。


---


「捕らえよ。」


兵が一斉に襲い掛かる。


刀がぶつかる。


火花が散る。


レオンは二人。


三人。


次々と倒す。


しかし。


数が違う。


背後。


鋭い痛みが走る。


「……!」


短刀。


黒い刃。


腕をかすめていた。


傷は浅い。


だが。


熱い。


身体が重い。


「毒か……。」


兵が叫ぶ。


「逃がすな!」


---


レオンは窓を突き破った。


夜の闇へ飛び込む。


屋根。


塀。


森。


必死に走る。


だが。


身体が思うように動かない。


視界が揺れる。


呼吸が浅い。


手足が痺れていく。


「まだ……。」


「倒れるわけには……。」


それでも。


足は止まらない。


---


本陣。


エドワードは逃げる背中を見送っていた。


部下が尋ねる。


「追いますか。」


「いや。」


エドワードは首を振る。


「必要ない。」


「毒は回る。」


「助かる確率は。」


一瞬だけ間を置く。


「一%以下だ。」


部下は黙った。


エドワードは窓の外を見る。


「人は。」


「可能性のない者へ。」


「貴重なものは使わない。」


その声には。


冷たさしかなかった。


---


夜明け前。


山道。


レオンは一人。


岩にもたれかかる。


身体は燃えるように熱い。


視界は霞む。


それでも。


頭から離れない言葉があった。


「敵ではない。」


「思想だ。」


ハリーの笑顔。


整命部隊。


宗麟。


民の笑顔。


すべてが脳裏をよぎる。


「私は……。」


その言葉を最後まで言えなかった。


身体が崩れ落ちる。


闇が。


静かにレオンを包み込んだ。



一%。


それは。


諦める理由になるのか。


それとも。


信じる理由になるのか。

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