第14話 裏切り者は誰だ
敵が恐ろしいのではない。
本当に恐ろしいのは、
味方を疑い始めた時だ。
朝だった。
---
府内の城。
---
宗麟の顔色は、
以前より明らかに良くなっていた。
---
だが。
---
城内の空気は重い。
---
理由は一つ。
---
情報が漏れている。
---
島津軍が。
---
あまりにも正確に、
大友側の動きを読んでいるのだ。
---
「おかしい」
---
臼杵鑑速が地図を見つめる。
---
「兵の移動も」
---
「補給も」
---
「読まれ過ぎている」
---
戸次鑑連が拳を握る。
---
「ならば答えは一つだ」
---
「内通者がいる」
---
広間の空気が凍る。
---
誰も口を開かない。
---
誰もが思った。
---
まさか。
---
だが。
---
あり得る。
---
戦国の世では、
珍しい話ではなかった。
---
宗麟が静かに言う。
---
「証拠はあるか」
---
鑑連が首を振る。
---
「ない」
---
「だが臭う」
---
ハリーは黙っていた。
---
皆の顔を見る。
---
怒り。
---
疑い。
---
不安。
---
恐怖。
---
流れが悪い。
---
「まずいな」
---
小さく呟く。
---
宗麟が聞いた。
---
「何がだ」
---
「内通者より」
---
「疑心暗鬼の方が危険です」
---
全員が見る。
---
ハリーは続けた。
---
「今の空気だと」
---
「レオンは戦わなくても勝てる」
---
沈黙。
---
確かにそうだった。
---
疑いは広がる。
---
仲間同士が疑う。
---
それだけで組織は壊れる。
---
その時。
---
若い兵が飛び込んできた。
---
「御屋形様!」
---
「城下で噂が!」
---
宗麟の目が細くなる。
---
「何だ」
---
「四人衆の中に裏切り者がいると……」
---
広間が静まり返る。
---
鑑連が立ち上がる。
---
「ふざけるな」
---
怒気が広がる。
---
兵が震える。
---
だが。
---
ハリーだけは冷静だった。
---
「始まった」
---
アルメイダが聞く。
---
「レオンか」
---
ハリーは頷く。
---
「人間は恐怖だけじゃない」
---
「疑いでも壊れる」
---
宗麟は静かに考える。
---
そして。
---
ゆっくり笑った。
---
最近戻ってきた、
あの笑顔だった。
---
「ならば利用するか」
---
全員が見る。
---
宗麟の目は鋭い。
---
「ハリー」
---
「お前ならどうする」
---
ハリーは少し考えた。
---
そして。
---
静かに言った。
---
「嘘を流します」
---
広間がざわつく。
---
「嘘だと?」
---
鑑速が聞く。
---
ハリーは頷く。
---
「本物のスパイがいるなら」
---
「偽物の情報を食べさせる」
---
宗麟の口元が上がる。
---
鑑速も理解した。
---
アルメイダも笑う。
---
だが。
---
鑑連だけは不満そうだった。
---
「まどろっこしい」
---
ハリーは苦笑した。
---
「あなたらしいですね」
---
鑑連が鼻を鳴らす。
---
「戦は斬った方が早い」
---
「だからレオンはあなたを警戒する」
---
その言葉に。
---
鑑連は初めて笑った。
---
「面白い男だ」
---
その時だった。
---
ハリーの視界が揺れる。
---
未来。
---
戦場。
---
兵士たち。
---
そして。
---
疲れ果てた兵の身体へ、
手を当てる自分。
---
呼吸。
---
疲労回復。
---
身体の流れ。
---
「……そうか」
---
ハリーが呟く。
---
「何だ」
---
宗麟が聞く。
---
ハリーは静かに答えた。
---
「兵だけじゃない」
---
「後ろも整えないと」
---
「後ろ?」
---
「炊事係」
「荷運び」
「馬係」
「傷病兵担当」
---
「そこが止まれば、
戦も止まる」
---
宗麟の目が変わる。
---
鑑速も頷いた。
---
「なるほど」
---
「それは軍そのものを整える話か」
---
ハリーは笑う。
---
「戦力アップです」
---
「しかも兵糧節約付きで」
---
全員が固まった。
---
「……兵糧節約?」
---
ハリーの説明が始まろうとしていた。
---
戦国時代の戦は、
前線の武将だけでは成立しません。
食料。
輸送。
治療。
修理。
後方支援。
現代で言う「物流」が止まれば、
どんな強い軍も戦えなくなります。
次回から、
ハリーの整命術が個人ではなく、
軍全体へ広がり始めます。
そしてレオンとの情報戦も、
本格化していきます。
読んでいただきありがとうございました。




