Case.1-① アナザーディメンション
患者を一旦帰したのちに、小影は問診書を読んだ。
――――――――――――――――――
氏名 佐野ひな
年齢 15歳
生年月日 2010/09/26
好きなこと ゲーム(特にRPG系)
苦手なこと 人付き合い
備考 中学時代に孤立経験
――――――――――――――――――
そして、彼女は頰杖をついた。
「東雲先生、どうしたんです?」
「あの子のレベル3なんだ……。妄想世界がある。だから、その世界設定を考えてたんだ……」
小影は意味のわからない単語を羅列した。
「レベルってなんです? それにアナザーディメンション……とは?」
「なんだ斉藤、そんなことも知らないのか……?」
「いや俺、数日前に配属されたばかりなんですけど……」
小影はため息をついて、近くに置いてあったホワイトボードを取り出した。
「いいか、身体に叩き込めよ! まず、レベルっつーのはな、こっちの世界――いわゆる現実世界に及ぼす影響の規模の話だ」
「影響……?」
「ああ。むぅ……理屈で説明がつかないな、見たほうが早い」
「な、なるほど……?」
小影は再び問診書に目を向けた。
「うーむ……」
「でも、東雲先生。その問診書って、とても普通の問診書には見えないですね。診察中も思いましたが、カウンセリングっぽいというか……」
「ここはそういう……"壊れちった奴らが来る場所"だからな」
斎藤には、小影がどこか遠くを見つめているような……そんな風に見えた。
「ところで斎藤! 免許と車は持ってるか?」
「ないですけど、何か?」
「ったく……使えねぇなぁ! 仕方ない、タクシー呼ぶぞ! もちろん"経費"でな!」
◇
白鷺記念総合病院からタクシーでおよそ2時間。
時刻は20:00。もう日は沈み、街灯がぼんやりと地面を照らしていた。
「ここが患者さんの……?」
「うむ、いかにも」
コツコツコツ……。
足音がこちら側へとやってくる。
斎藤は小影の一歩前に出た。
「先生、お待たせしました……」
「夜遅くに悪いね、ひなちゃん」
そこには患者――佐野ひなの姿があった。
「それでお願いって――」
「学校に一歩入って、10秒経ったら出てくる……できるかな?」
「……? でき、ますけど……そんなことして何か――」
「いいから、いいから!」
「わかりました……」
ひなが校門を越えると、彼女は忽然と姿を消した。まるで初めからいなかったかのように。
「えっ!? 東雲先生! これはいったい……」
「……見ただろ? これがアナザーディメンションっつー現象だ。簡単に言うのであれば、あの子だけ学校に入ると、別世界に飛ばされる……そういう感じだ。試しに、斎藤も校門を越えてみろ」
斎藤が校門を越えると、どこも違和感のない普通の高校だ。
そして斎藤が高校から出た瞬間、ひなは"無"から現れた。
「こんなのどうやって治療を――」
「ふっ……ふははは! さあ、行くぞ斎藤!」
小影は病院から持ってきたカバンから、VRゴーグルを取り出した。
ひなは思わず、「先生、ゲームでもするんですか……?」と言った。
「ゲーム……? ふむ、ゲームか……別の世界に入るって意味では間違ってはいないかもしれんな……。ほら、斎藤も付けろ!」
「あ、はい!」
小影は斎藤がVRゴーグルを装備すると、ひなに尋ねた。
「ひなちゃん、手を出して……」
「はい……!」
小影はひなの手を握った。
「あと、悪いけど……この斎藤ってヤロウの手も握ってくれるかな? ごめんね、こんなヤロウと手繋がせて……」
「先生……聞こえてますよ……」
ひなが斎藤の手を握る。
「このゴーグルはな、ひなちゃんの世界に入るための道具だ。それじゃ、ひなちゃん……校門を潜れる?」
「はい……!」
そして、ひなが一歩踏み出し、校門を潜ると――
「こ、これは……!」
そこは――"ダンジョンと化した学校"だった。




