Case.0 現実改変症例科
作者に医療の専門知識はございません。
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体及び症例とは一切関係ありません。
白鷺記念総合病院。
そこには一つの部署があった。
ある人は窓際部署と呼び、
ある人は給与泥棒と呼ぶ。
―現実改変症例科―
「先生。患者さんです」
自室へと変えてしまった医局で眠る少女に、男は声をかけた。
反応はない。
返ってくるのはいびきだけ。
「起きてください、東雲先生」
「我が……左目に宿る深淵よ……我に――」
ゴンッ。
上から分厚い本が落ち、少女の額に当たった。
「いっだぁぁぁいっ!」
少女は奇声とともに飛び起きた。
「東雲先生、患者さんがお待ちです」
「うむ……心得た」
少女は、白衣を肩掛けジャケットのように纏うと診察室へと向かった。
少女の名は『東雲小影』。最も優秀な『厨二病専門医』である。年齢は28歳。身長は中学生ほど、胸にあるソレはほぼ平面だ。小影が言うには「深夜アニメという文化が悪い」……とのことである。
そして、性格は……難あり、と言うべきであろう。
「おい斎藤、ちゃんと甘味は用意してるな?」
「はいはい、先生……」
彼の名は『斎藤』。26歳。
数日前に、この部署に配属になった心労絶えない苦労人である。
「ふっ、身の程をわかっているではないか……」
「それ、パワハラで訴えてもいいんですよ? あと、白衣はちゃんと着てください……」
「黙れ、私は我流を貫く女だ。パワハラなんぞ知らん」
斎藤は小さくため息をついた。
――数分後
「待たせたな、少年」
「先生……この子、女の子です……」
小影は間が悪そうに黙り込むと、椅子に座った。
「先生、椅子で胡座かくのやめてください……」
「るっせぇんだ、斎藤! いいか! もうすでに診察は始まっているんだ!」
患者は小影のとても医者とは思えない言動を前に、唖然としている。
そして、小影は気を取り直してこう言った。
「さて、診察を始めようか……。では、まず何があったか聞こうじゃないか」
「あ、あの……昨日から……クラスメイトが――全員"敵キャラ"になったんです!」
「……え? どういうことですか?」
斎藤は目を丸くして、声を漏らした。
彼には、患者の言うことがまるで理解できない。
「クラスメイトが……敵?」
患者はこくりと頷く。
「なるほどな……典型例だ。もうじき、ラスボス的なのが来るだろう。汝の症例は――『厨二病』だ」
「いやいやいや、ちょっと待ってください先生! それって、ただの性格的な話で――」
小影はため息をついて、やれやれと頭に手を当てた。
「先生……厨二病ってなんですか……?」
患者が恐る恐る尋ねる。
「キミみたいな思春期に多い。"現実と妄想の境界が壊れる病"だ」
「……壊れる、ですか?」
「うむ、如何にも。放っておくと――現実を書き換える」
「先生……私の病気って……治りますか?」
「ふっ、安心しな。キミのは、まだレベル3……簡単に片付くタイプだ」
――ここは、現実を取り戻すための場所だ。




