第17章 「初詣」
【さくらside】
神社に着いたものの、三が日をとうに過ぎた週末の境内は静かだった。
二人は手水舎で手を清め、冷たい水に思わず声が漏れる。
「うわぁ、冷たーい……!」
「マジ冷たいな。ハンカチ、使う?」
隆司がさりげなく差し出してくれる。
(隆司くん、ほんと優しいな)
自分もハンカチを持ってはいたけれど、自然と彼のを受け取っていた。
鳥居の前で一礼し、参道の端を歩く。
数分ほど進むと、社殿の大きな鈴が見えてきた。
賽銭箱の前で、五円玉を二枚。
「重ね重ねご縁がありますように」——そんな意味もこめつつ、
今年は何より**「志望校合格」**を真剣に祈った。
次は、おみくじを引きに行った。
さくらは中吉で、「勉学」の欄もまあまあ……といったところ。
一方、隆司は大吉を引いて、大喜びだった。
「やったー!俺、大吉!めっちゃ運気上がりそう!」
この時期に大吉は、確かに嬉しいに決まってる。
「いいなぁ、私、中吉だったのに。ずる〜い」
さくらは、ちょっとだけ拗ねたように口をとがらせる。
「じゃあ、交換する?」
隆司がイタズラっぽく笑いながら言う。
こんな、たわいないやりとりが、なにより楽しかった。
「そんなの、できるわけないじゃん。もうっ」
さくらは頬をふくらませて、わざと怒ったふりをする。
その顔を見て、隆司は笑いながら、さくらの頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
(完全に子ども扱いだ……)
でも、それが不思議と嫌じゃなかった。
二人はそれぞれおみくじを結び、そっと手を合わせた。
お参りを終えると、ふとお腹が空いていることに気づく。
「隆司くん、ご飯行かない?お腹すいちゃった」
「いいよ。実は、いくつかお店ピックアップしてあるんだ」
ちょっと自慢げな笑顔。そんなところもカッコいい。
「ありがとう、デートプランいつも考えてくれて。すっごく嬉しいよ」
(隆司にはほんと感謝だなぁ)と、さくらは心の中で微笑んだ。
二人でスマホを覗き込みながら、お店を吟味する。
結局、最初に隆司が目をつけていた、神社から徒歩五分の隠れ家ハンバーグ店に決定。
お店の中は落ち着いた雰囲気。
ランチメニューからそれぞれ注文を決める。
「私、チーズハンバーグランチにする。飲み物はオレンジジュース」
ハンバーグは好物の一つ。ビタミン補給で風邪予防も兼ねて。
「俺はデミグラスハンバーグにするかな。飲み物は…俺もオレンジジュースで」
隆司は手際よく注文を済ませる。
すぐに運ばれてきたジュースを一口。100%らしく、濃厚で美味しい。
「ねえ、前から思ってたんだけど、お店選び上手くない?コツとかあるの?」
隆司は腕を組んで少し考えた後、
「んー、口コミかな。★4以上の店をフィルターかけて探してるよ」
「なるほど!それなら、外れないね。気づかなかった~」
運ばれてきたハンバーグは、鉄板の上で「ジュウジュウ」と音を立てている。
香ばしい匂いが漂い、思わず顔がほころぶ。
ナイフで切り分け、一口。
チーズと肉汁が絶妙に絡んで、思わず感嘆の声が出た。
「ここのハンバーグ、めちゃめちゃ美味しいんですけど!」
ちょっと大きな声になってしまい、カウンターの奥のシェフと目が合う。
にこっと微笑み返してくれたので、ぺこりと会釈する。
「俺も初めてだけど、ここ当たりだな。肉汁すごい…」
夢中で食べ進め、気づけば二人とも完食。
会計は、今日は“割り勘”と決めていたので、個別に支払った。
店を出ると、曇り空の下に冷たい風が吹き抜ける。
さくらはマフラーを口元まで引き上げた。
そのとき、手首からブレスレットがきらりと光る。
「ブレスレット、着けてきてくれたんだな。嬉しいよ」
「うん、だって、すごく気に入ってるんだもん。
家でもこっそり着けてたりするよ」
素直な気持ちを、まっすぐに伝える。
「そっか。学校じゃつけられないもんな。校則あるし」
「うん、でも今日は特別な日だから」
隆司がふっと微笑む。
「さて、次はどうする?カフェ?それとも散歩?」
「少しお散歩、いいかも。寒いから、ちょっとだけね」
「了解。15分くらいのコース見つけたよ。駅をぐるっと反対側に回って戻ってくる感じ」
「うん、ちょうどいいね。帰りも楽になるし」
「そう、それ狙いだった」
「さすが、やるじゃん。じゃあ、行こっか!」
そう言って、二人は自然に手を繋いだ。
凛とした冬の空気のなかを、ゆっくりと歩き出す。




