俺の祖父は異世界で召喚を許可した王様だった
お読み頂き有り難う御座います。
フラッと形になったので番外です。短編の方が良かったかしらと思いつつ。
サツキくんとブランシュは恙無くラブラブです。
「儂の孫の分際で儂の行く手を遮るとは、何たる不敬!!」
俺の努力の結晶、色とりどりで拵えた堅固な城を一蹴りで壊す暴虐な影。
折角端正込めて積み上げた俺の城。
その、努力の結晶を木っ端微塵に蹴散らしたジジイは、その瞬間から敵となった。
「うわああんん!!」
「泣くな!!強くあれい!!」
無茶言うなこのクソジジイ!!遊んでる玩具蹴飛ばされて平気な幼児がいる訳ないだろ!!
「おじいちゃんは王様だから」
ばあちゃんのフォローは今でも意味が分からん!!
何だよ王様って!!
あんな小汚ないジジイが王様な訳無いだろ!!大体王様って外国のヤツだろ!?頭は白いけど、それだけだったぞ。
「大丈夫よ、サツキ。ばあちゃんがおじいちゃんをちゃあんと叱っておきますからね」
「お母さん、聖女様だもんねー。正義の鉄拳使っちゃえ!」
お母さんのツッコミも訳が分からん!!
何の聖女だよ!!鉄拳って何だよ!ジジイをどつくのは構わないが!
何なんだよ、家族で異世界転移物にハマッてんの!?そういや、ジジイの部屋には異世界転移物ばっか本棚に並んでた。
漫画から、小説。映画のテープやディスクも揃ってた。
俺の城を壊したんだ、勝手に読んでやる。
そうして馬鹿にしてやる。ジジイが漫画とかおかしいんだって貶してやる。俺は子供だから漫画を読んでもいいんだ。
最初はそのつもりで、ジジイの蔵書を漁り……すっかり異世界転移物に嵌まっていた。俺の知識は殆どそこから来てると言っても過言ではない。
「サツキ、そなたは異世界転移せぬよう体を鍛えよ!!運命に抗うのだ!!」
意味が分からん。
帰省する度に、ジジイは俺と兄貴を無理矢理山に連れてランニングを強要した。
「ウヅキ!貴様も弟を守れ!!連れて帰れるほど鍛えい!!」
「じいちゃん、意味分かんないよ………」
「疲れたー」
兄貴は俺より運動神経がいいから、ジジイのシゴキにヘラヘラしてられる。嫌な顔はしてるけどな。
そうだ、兄貴の方が要領もいいんだし、転移するなら兄貴の方が……。
兄貴の方が?
………。
転移?
兄貴は、今、お父さん、お母さん、おばあちゃん、ジジイ………何処だ?
俺の、家族は………?
「ぐえ」
重っ!!
何だこれ!!胸全体にデカイ何かが乗ってるぞ!!ジジイ、いつの間にかペット飼ったのかよ!?
あのジジイ、何時も勝手なんだよ!!偉そうだし小金に煩いし!!
「サツキさま、おはようございます!!」
………ん!?
ふぁさ、と水色の絹糸が俺の回りに被さって……キラキラと光る。
「お寝坊さんですか?サツキさま!」
軽やかに弾んだ、女の声。
………えっと、お母さんじゃない、声だ。
綺麗な女のひとで、………見たこと無い程可愛い。ポーッとなって、顔に血が上ったのが分かる。
今、俺、酷い顔だ。
「………サツキさま?クリーム、どうしましょう。サツキさま、具合がお悪いのでは!?」
今度は泣きそうになった。
………クリーム。ブランシュと相談して、名付けた名前。
あの子は犬が得意じゃなかったらしいけど、クリームはブランシュが拾ってきて……。子犬の時、雨に濡れてたのをな。
……そうだ、ブランシュ。
目の前に広がるのは水色の髪が俺の顔に垂れ下がり、金色の視線が俺とかちあう。
幸せそうに細められて、頬は仄かにぽっと灯って、微笑んでいる。
俺の娘で、嫁の。
可愛い可愛い偶に怖い、俺の嫁。
そうだ、此処は異世界だ。お父さんとお母さんと兄貴とおばあちゃんとジジイと別れて……。
俺が、ブランシュと生きると決めた異世界。
「わう!!」
「きゃっ!」
「うわっ!!」
クリームが待ちきれないのか、俺の顔をペロペロ舐め出した。
「わ、分かった起きる!朝飯の催促か!?」
「クリームったら、羨ましい!!」
………偶にブランシュ、暗黒面が出てて怖いな。
俺の顔なんか舐めてどうするんだ。腹は膨れないぞ。
「おはよう、ブランシュ」
「おはようございます、サツキさま!」
クリームを撫でつつ、目の前のブランシュの頬っぺたも撫でる。
撫でないと機嫌を悪くするんだよな。
まあ、出会った当初の悲しい顔からすると全然良いんだが。
ベッドから降りたら、足元に蜥蜴のミツマメがすり寄ってきた。
亀のゼンザイも寄ってきた。負けじとブランシュとクリームも俺を囲んでくる。
可愛い奴等め。
俺、嫁とペットにモテ期だな。可愛いけど踏みそうだ。
「さあ、皆!ご飯にしますよ!!」
………後ろに続いて着いてきたブランシュの、さっきの位置……俺に乗り掛からんばかりだったな。
いや、良いけど。嫁だし。このベッドも彼女のでもあるし。
ただ、ビックリするな。旦那の俺が言うのもなんだけど滅茶苦茶可愛い顔だからな。朝からドアップは目に眩しい。夢かと思った。
俺の前に並べられたのは、ブランシュが早起きして作った牛乳とバター味の野菜スープ。それと、ちょっと焦げたパン。俺にちょっかいを出してたから焦げたみたいだ。
クリームたちには煮た野菜をそれぞれの皿に置いて、俺達の朝食は始まった。
うん、旨い。
「久しぶりで新聞が来てますよ、サツキさま!」
「有り難う」
新聞とは言うものの、田舎だから情報がとてつもなく遅い。酷い時なんか3~5ヶ月遅れた情報が普通に来る。
ガキの頃に異世界に召喚されて俺も新聞を読むような年……。と言うか、老け顔のせいで喚ばれた当初から大人扱いだったけどな。
お陰で字は早く覚えられた。
「………第一王子リヒタート殿下が即位?」
「まあ……」
「誰だっけ」
俺も召喚はされた身だが、王宮に直接召喚された若葉さんと違って王子と面識はない。俺がこっちに来た場所は心優しい人達の家の庭だった。いい人達なのに身分と財産は無かったが。
引き取って貰った恩返しに、家名を背負って平騎士やってたことも有ったが、王子と関係ない配置だったからな。勿論、殆ど知らない。
偶に通っても頭下げてたから顔なんか見ない。
「ええと、フィアメルアンジュ殿下のお兄様で、ワカヴァさまの召喚に立ち会った……」
「ああ!小銭好きの!!」
「いやだサツキさまったら」
ブランシュは冗談だと思ってるのかクスクス笑ってるけど、若葉さんの祝福のお陰で私腹を肥やしたんだったよな。
『財布に蛙』の祝福って凄いよな。お金を使えば戻ってくるんだし。俺の伸びの悪い才能に中途半端な祝福『経験値二倍』よりずっといい。
………しかし、小銭?何かどっかで聞いたな。
「まあ、即位記念に聖女様を召喚されたんですね。まだお若い方ですわね、16だとか」
「聖女………?」
何処かで聞いた話だな。と言うかまた召喚したのか?迷惑な。
若葉さんから手紙来てないけど、もしかしてトラブって無いよな?大体魔物も少ないのに聖女って何なんだよ。
そういや、うちのおばあちゃんも自称聖女だった。よく、物を片付けないワガママジジイを窘めつつ最後には鉄拳制裁を……。
「まあ、聖女様の祝福は『使ったら元の場所へ』ですって」
「便利そうだな……」
植木鋏をよく置き忘れるからな。その祝福、俺も欲しかった。
「その、聖女様の名前って書いてあるのか?」
若葉さんの名前は意訳にも程があったからな。
もし日本人なら珍妙な名前になってないといいけど。俺の名前も大分魔改造されてるしな。
「ええと、セチィー・ノノミャー様だそうですわ」
俺のお母さんの旧姓と似てるな。セチィー……ノノミャー。変な名前。
……いや、ちょっと待てよ。
「野々宮………世知!?」
「そうお読みするんですの?」
「俺のおばあちゃんと同じ名前なんだが!?」
「ええ!?」
嘘だろ!?おばあちゃんの名前、早々無いし、召喚されてるなんて!!
おばあちゃん、マジで聖女で、召喚されていたのか!?
でも、俺がこっちに来るまでここにいた。
還れたって事か!?
一体何時!?
「お、おばあさまが、サツキ様のおばあさまが、此方に!?」
「多分、いや……恐らく」
いや、でもおかしい。おばあちゃんは勿論16じゃない。
この時代におばあちゃんが……俺より年下の……?それ、タイムパラドックス的なのにならないか……?
……まあ、そんな事気にしても仕方ないが。
大体俺の人生丸ごと駄目にされてるのにそんな宇宙規模な事を気にしても仕方がない。
宇宙が歪もうが俺の人生が歪んだ方が重大だ。色々必死に幸せになろうともがいてるんだからな。
そもそも、多分だが。
いや確実に還ったんだろう、おばあちゃんは。だから、落ち着いていたのかもしれない。ジジイは狼狽えてばっかりだったけどな。
この田舎迄情報が来る迄に帰って居そうな気もする。おばあちゃん、口だけ番長で乱暴野郎のジジイより断然逞しいし、行動力は半端無いし。
後、俺はお茶農家なので早々家も空けられないしな。
……ブランシュとクリームとミツマメとゼンザイと一緒に連れて帰ってくれないかと一瞬思ったが、16のおばあちゃんに連れて帰られても困る。間違いなく俺の時代でもないし、家もない。
上手く行かないな。
「ばうわう」
「ああ、そんな……サツキさまのご家族にお会い出来るだなんて……。私、おめがねに適うでしょうか!?」
「……まあ、帰る気は無いから別にいいよ。それより茶摘みだろ」
「え?あら?え?」
どうしたブランシュ。瞬きし過ぎて可愛いが、スプーンが落ちそうだ。
「えと、あの……サツキさまは、その、おばあさまにお会いしたくは?」
「いや、多分向こう俺を見てもどうにもならないだろうし。茶摘みも有るし」
「で、ですが……」
「いいんだ、ブランシュ。情勢が変わってる可能性も有るしな。何より……首都に近づくとヤーカラ家に見つかりかねん」
「……」
そんなに眉を寄せなくていいのに。
俺は迷惑だなんて思ってない。
「それに首都行くには5ヶ月も掛かるだろ?もしかして、俺が向こうに帰るって思ってる?」
「そっ……んなことは」
思ったんだな。
余所の奴……と言うか、主に警備騎士の奴とジェリアには若干不愛想に接するようになったブランシュだが、基本表情が出て、朗らかになった。
でも、俺の前では泣き虫になることもある。
おいで、と手を広げると、ブランシュは躊躇いなく立ち上がって俺の腕の中に飛び込んできた。
彼女が頭を振る度、水色の髪がサラサラ揺れる。ふわふわキラキラして、元の世界に無いその色は夢のように綺麗だった。
「……どの道、無理なんだよブランシュ。俺が万が一おばあちゃんと一緒に帰れたとしても、此処に来た時の俺の両親達には会えないんだ」
「……ですが」
「お前に会えてよかったよ。だから、俺は離れない。信じてくれるか?」
「……私は、ひとは、サツキさましか信じておりません」
……重い返事が返ってきたが、突っ込むのは無しだな。
ホント偶に暗黒面が出てくるな、ブランシュは。
「それにしても、俺達の都合も考えず何で召喚なんて行うんだろうな。許可する奴の気が知れないよ」
ブランシュの頭を撫でながら、新聞をそっと向こうに押しやろうとして……気付いた。
その、紙面に描かれた絵に。
聖女……おばあちゃんを召んだ馬鹿野郎の王様。その似顔絵が書いてある。
会った事が無い王は、随分と若い。
だが、その鼻筋も、目の感じも。多分、そいつは……白い髪と、薄い灰色の目をしている。
若白髪だったと近所のじいちゃんにからかわれていたからな。
その度、ガーガー怒って否定していたが……。
「……ジジイ」
……そうだよな。
呼ぶだけじゃ不公平だよな。引きずり込まれる恐怖も味わわないとな。
俺の召喚許可したの、ジジイの親なんだろうけど。
……分かりにくいんだよ、ジジイ。向こうで今頃、俺を守り切れなくて……キレて、喚いて迷惑かけて、死んでないか心配だよ。
……次に来た新聞は3ヶ月遅れで、王様と聖女の急病が発表されていた。代わりに従弟が王様になるらしい。
暫く、召喚は行われないと。
俺はジジイとおばあちゃんの行く先を確信した。
長旅をしたであろう新聞はボロくて、次の王位継承者で有った筈の第二王子の話題もない。勿論、若葉さんの話もない。
どうか彼らも無事でいて欲しい。
俺は俺で幸せだから。
王様になったのは此方のお話でブラコンで若葉さん召喚で喜んでいた小銭好きな第一王子です。https://ncode.syosetu.com/n3455ft/
異世界の人召喚許可した王様って、現場で反省させられてるケース(強弱有りますが)はあるものの、向こうに連れ去られるケース無いなあと思って書きました。