4話 俺×優等生=アレルギー反応が出ます。
さてと、自分のクラスメイトを整理しよう。
男女比はちょうど半分くらいか。
それにしても可愛い女子ばかり揃っているが、とくに一番群を抜いているのはこのクラスの特待生組の一人、白ヶ崎 咲音だ。綺麗な銀髪ロングに透き通った白い肌、それに何と言っても虜になってしまいそうなキリッとキレた赤い目をしている。
彼女はきっと試験なんて余裕だったんだなと思う。てか、顔で審査を通ってもおかしくはないレベルだ。
この高校独特の制度。特待生組と言って試験の段階で成績優秀、且つ、人間性としても完璧な人たちが一般のクラスに散りばめられ、周りの一般生徒との成績競争に火種をつける役目として入学した者たちがいる。一応、田舎ながら有名な進学校ということもあり、選考されるレベルはとても高い。
それはクラスに男女合わせて2名しかおらず、誰が特待生組なのかは大々的に発表はしていないものの、その人たちの放つオーラで大体わかってしまう。
ちなみに俺も黙っていればその特待生組と勘違いされてもおかしくないオーラは出せると自負しているが、入学式の事件のせいで微塵にもそれは砕け散った。
話は戻るが、このクラスの女子は可愛い人が多い。だが、男子は少しクセが強そうな人たちが集まったクラスな気がする。
俺が人のことを言える立場ではないが。
一番クセの強い男子は言わずもがな、あの神宮丸ってやつだ。
クラスにはもう馴染んでいる様子だが、初日でそんなことを出来るのは素直に尊敬する。なんだかんだこう言う奴が社会でうまくやっていけるのだろうと思う。だが、俺はあいつになりたいとは思わない。
坊主だし……
「なぁ、今、オレのこと考えてなかったか?」
「はぁ?誰がお前のこと考えるんだよ」
感のいい奴め。さらに警戒しないといけなくなったな。
神宮丸は何とかなるとして、次に警戒すべきなのは特待生組男子枠の石井 大空だ。
顔からして何でもできそうな感じはあるが、何か裏があるはず。その弱点を見つけることさえできれば相手に上を取られることはないだろう。
ああいうタイプがいちばんの強敵になるかもしれないからな……
「楽々浦くん?」
「は、ふぁいっ!!」
変な考え事をしていたからか、見事に不意を突かれ、間抜けな返事をしてしまう。
「あら、ごめんなさい、驚かしちゃったかしら」
「いえいえ、俺の方こそぼーっとしてたのが悪いから……って、えぇぇぇぇえ!!」
二度目の驚き。次は不意など関係ない。それは、とても予想外で不思議な感覚。
人間、本気で驚いたら周りなど気にせず声をあげるもんなんだな……
「本当に大丈夫なの?」
「あぁっあ、あっ」
決して喘いでいるわけではない。顎が外れそうになって慌てているだけなんだ。
これが彼女の作戦ならば見事成功、いや、もはや予想していた戦果より上をいっているため、大成功なのだろう。
それにしても……
まさか、白ヶ崎さんが俺に話しかけてくるなんて。
誰が予想するんだ?だって、彼女は見た目からして清楚で、可愛くて、確実にクラスの人気投票で一位の座を獲得するであろう人物が、こんな俺に……
まさか、一目惚れじゃないよな。
いや、違う!これが俺のいけないところだ!恋の勘違いは地獄の入り口だ。決して這い上がることのできない蟻地獄そのものだ。女子たちはそうやって何人もの男子を地獄に引き摺り下ろし、自分は上から見下しながらほくそ笑むんだ!
きっと…… (※あくまで個人の見解です)
「あの、さっきから気持ち悪いんだけど、私で変な妄想しないでよね変態」
「えっ……?」
えっ、今、罵倒された?いや、罵倒されたよね!?絶対、確実に罵倒されたよね!?
「何で私があなたと話をしなきゃならないのよ」
「あの……全然、話が見えないんですけど」
訳がわからない。
なぜ、急にキャラが変わったかのように俺を罵倒し始めたんだ?てか、さっきから俺を見る目が傷つくぐらい冷たいのだが……
「罰ゲームよ」
「えっ?」
「罰ゲームであなたと話さなくちゃいけなくなったのよ!」
「罰、ゲーム?」
クスクス――、
俺がとぼけた顔で首をかしげると、クラスの女子の大半が俺を指差し笑い始めた。
その笑いは神宮丸の時とは違い、何かすごく嫌な気分になる笑いだった。
「だから、こんな恥ずかしいことわざわざやってるのよ。理解しなさい変態!」
おいおい、俺がいつ白ヶ崎に変態行為を及んだってんだよ。
てか、まぁ、なんかこんな感じになるのは予測していた気がする。そんな女の子から話しかけてくるなんてウマイ話は俺に限ってはないことだし、俺は今まさに変人扱いされるような境遇だから年頃の女子にはいいエサにされているのだろう。
「なに黙ってんのよ、一人で考え事?本当に気持ち悪い……」
「あはは、いや、なんかごめんね。俺のせいで白ヶ崎さんに嫌な思いさせちゃって」
こういう時のコツ。とりあえず憎しみや怒りはグッと堪え、笑いながら自虐する。あたかも相手には申し訳ないという意思表示を醸し出しながら。
「なんで私の名前知ってるのよ、気持ち悪い」
「あはは、そうだよね、なんかごめんね」
自己紹介をさっきみんなでしたからだろーが!!
それより、俺は一日に何回『気持ち悪い』と言われなくちゃならないんだ?
俺は容姿的には悪くない方なんだが。普段から清潔にしてるつもりだし、自分磨きは欠かさず毎日している……って自分を慰めても今は心の傷は深くなるだけだ。だからやめておこう……
「さっきから笑うことと謝ることしかできないの?あなたチンパジーなの?いや、もはや生物ではないゴミね」
「あはは、ごめん……」
グッと堪えろ俺!
てか、なんで白ヶ崎はずっとこんな俺にかまってるんだ?話す目的は達成したはずなのに、逆にここまできたら気があるんじゃないかと勘違いされてもおかしくないだろ。
「本当にゴミは焼かれて灰になるべきよ!早く焼かれて死になさいよ」
「あはは……」
あのぉ、白ヶ崎さん?俺を罵倒するのはいいけど、周りがあなたの変化についてきてない模様ですが。
まぁ、俺には関係ない。今はただ、ひたすら耐えることが俺の宿命、試練なんだ!
「はぁ、あなたと話してると気分が悪くなってくるわ。二度と私の視界に映らないでちょうだい」
「わ、わかったよ、ごめん……」
やっと罵倒タイムは終わったが……
誰も俺を慰めてはくれない。
さすがの神宮丸も白ヶ崎の変化についてきていないし、周りはもともと俺のことは笑い者の対象にしている。
なんかキツイな……
俺は初日から、大きなヤマ場を迎えようとしていた。
特待生組は試験の段階で成績優秀、且つ、人間性も完璧。
はぁ?完璧だって?
完璧な人間など、この世にはどこにも存在しないのだ。