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俺×恋=0になります。  作者: 光黒猫
最終章 俺×愛の形=それぞれの道へ進みます。〜答え合わせ編〜
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224/224

223話 俺×交渉=無駄足です。

ガラッ――。


生徒会室の扉を開いた瞬間だった。


妙な静けさを感じる。


いつもなら誰かしらの話し声が聞こえる。書類を捲る音や、三宝のぶっきらぼうな声が響いている。


だが今日は違った。


空気が重い。まるで誰かが息を潜めているような、そんな違和感。


真守が一歩足を踏み入れた、その時だった。


会長室の扉が開く。


ガチャ。


中から出てきたのは池鶴だった。


「……」


真守は思わず目を見開く。


池鶴の目元は赤かった。


泣いていたのは一目で分かる。だが池鶴は何も言わない。背筋を伸ばし、いつも通りの姿勢を保っている。


真守と目が合う。


ほんの一瞬。だが、その瞳の奥には隠しきれない感情があった。


悔しさか、怒りか、それとも別の何かか。真守には分からない。


「……」


池鶴は何も言わない。


唇を強く噛み締める。そして、そのまま真守の横を通り過ぎて行った。

足音だけが響く。そして生徒会室の扉が開き、閉まる。それで終わりだった。


誰も何も言わない。


三宝は書類を見ている。山影も同じだった。坂下は俯いたまま。黒ヶ峰だけが一瞬視線を落とした。その反応が逆に不自然だった。


まるで、全員が何かを知っているような、そんな空気。


その時だった。


「楽々浦くん」


会長室から声が聞こえる。


「入って」


穏やかな声、いつも通りの声。けれど真守は無意識に拳を握っていた。


嫌な予感がする。


それでも逃げる訳にはいかない。真守はゆっくり会長室へ入った。


扉が閉まる。


会長は机に座っていた。


いつもの笑顔、いつもの姿勢。だが、真守にはそれが妙に作り物に見えた。


「それで?」


会長が聞く。


「見つかったのかな」


真守は頷く。


そして施設の名前を伝えた。


住所も、電話対応したことも、赤坂が確実にそこにいることも、隠さず全て話す。


話し終えた瞬間だった。


会長が小さく息を吐く。


「そうか」


その声だけは本当に嬉しそうだった。


「ありがとう」


それは嘘ではないのだろう。少なくとも今だけは、会長は本当に安心しているように見えた。


だからこそ真守は聞いた。


「俺は話しました」


会長が視線を向ける。


「だから次は会長の番です」


笑顔が少しだけ止まる。


ほんの一瞬。


「赤坂先輩と何があったんですか」


静かな声で問い掛ける。


会長は答えない。


「どうしてそこまで探してるんですか」


さらに続ける。


沈黙。


長い沈黙だった。部屋の時計の音だけが聞こえる。


会長は真守を見ていた。


笑っている。だが、その笑顔が少しずつ薄れていく。


「楽々浦くん」


穏やかな声。だが、もう優しい表情ではなかった。


「君は本当に余計なことばかり気にするね」


真守は視線を逸らさない。


「気になります」


即答だった。


「赤坂先輩が逃げてる理由も、会長が追ってる理由も、全部」


会長は黙る。


笑顔は完全に消えていた。その顔を見て真守は初めて思う。


怖い。


今まで会長を怖いと思ったことは何度もあった。だがそれは能力や立場への恐怖だった。今目の前にいるのは違う。


人として怖かった。


感情が漏れている。抑え込んでいた何かが、少しずつ確実に表面へ出てきている。


「……」


会長はゆっくり立ち上がる。


窓際へ向かい、背中を向ける。しばらく何も言わない。そして。


「昔の話だ」


ぽつりと呟く。


真守が言葉を待つ。


だが続きは無かった。数秒後、会長は振り返る。その目は冷たかった。


「君には関係ないだろ?」


初めてだった。


会長に睨まれたのは。


真守の背筋を冷たいものが走る。それでも目を逸らさない。


会長は小さく息を吐く。


「出ていってくれ」


静かな声だった。


「会長」


「今すぐにだ!!」


言葉を遮られる。


完全な拒絶だった。もう話す気は無い、そう理解できた。


真守は拳を握る。だが、何も言わない。言っても無駄だと分かっていた。


「……失礼します」


それだけ言って会長室を出る。


そのまま、生徒会室へ戻る。空気は相変わらず重い。誰も何も聞かない。


変わらずに、三宝は書類を見ている。山影も同じだった。坂下は俯いたまま。池鶴はまだ戻っていない。


真守が席へ向かおうとした時だった。


黒ヶ峰が立ち上がる。


「……」


何も言わない。書類を持ち上げる。それだけだった。誰が見ても自然な動作だった。


黒ヶ峰は真守の横を通り過ぎる。肩が触れそうな距離、その瞬間だった。


「……大丈夫?」


声が小さい。


真守にしか聞こえない声で呟いた。その行動は盗聴を警戒していることを伝えるためだった。


真守は前を向いたまま答える。


「分からない」


黒ヶ峰は少しだけ目を細める。


「そう」


それだけ。誰にも気付かれない。気付かせない。黒ヶ峰はそのまま歩き去る。


だが、去り際。


本当に小さな声が聞こえた。


「気を付けて」


真守は返事をしない。


出来なかった。


ただ、その言葉だけが妙に心に残った。


生徒会室を見渡す。


閉ざされた会長室、黙り込む役員達。息苦しい空気。ついこの前まで、ここは正しい場所だと思っていた。問題を解決する場所、誰かを助ける場所、そう信じていた。


だが今は違う。何かがおかしい。確実に、何かが狂っている。


真守は小さく息を吐く。


そして、生徒会室を後にした。


扉が閉まる。


その音だけが妙に大きく聞こえた。

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