1話 俺×入学式=第一印象が大事です。
桜舞い散る校庭。
みんな期待や不安を胸に秘めながら自分のクラスを確認する。
そこでどんな出会いがあるのか、どんな楽しいことが待っているのか、あるいはどんな災難が待っているのか……
いや、ダメだ!そんなマイナス思考じゃ暗い雰囲気のまま入学式が終わってしまう。
入学式は第一印象が大事なんだ。
そこで、穏便にことを済ませなければならない。特に俺のことだ、とんでもない災難に襲われることだろう。そんなもの、慎重に対処すれば何も関係がない話なんだが。
そう思っていた矢先……
「ここが講堂か、結構大きんだな」
ひとり感慨にふけていた。その時、後ろからものすごい勢いで迫ってくる女子生徒が……
「あっぶなーい!そこどいてぇー!!」
「ちょ、そんなこといきなり言われてもぉ!!」
避けられることもなく、案の定、見ず知らずの女子生徒と衝突してしまった。
「痛いな……入学式早々なんなんだよ」
茶髪のふわ毛ショートカット、目の色は黄色でパッチリ二重、とても可愛らしくて綺麗な人だ。きっとこれは、食パンを咥えながら曲がり角を勢いよく走ってきた女の子にぶつかってしまい、運命的な出会いをするシチュエーションの応用編。
いきなりフラグを確立してしまっていいんですか!?
と、少しの期待を抱いたが、そのフラグは先ほどの災難の件に繋がってしまうことになる。
女子生徒の方はとても痛そうにしていると同時にこちらをものすごく睨んでいる。
「あぁ、そういうパターンね」
きっと、これが高校生活最初の災難なのだろうと俺は思った。
「ちょっとあんた!避けなさいって言ったじゃない!」
「なっ!?」
とんでもない理不尽女だ。突っ込んできたのはそっちなのに、なぜ逆ギレを?
意味不明な行動に加え、自己中心的な発言に苛立ちを覚えるが、ここで爆発してしまったら元も子もないと咳払いを一つし、冷静に謝ることにした。
「ご、ごめんなさい、俺の不注意で……」
「そうよ、まったく!あんたのせいで足を怪我しちゃったじゃない!」
「こっ、この女……」
ついキレそうになってしまうが、怒りをグッと堪え作り笑顔を振りまく。
「あ、本当だ、怪我してますね。でも、そのぐらいのかすり傷なら歩けると思うんですけど」
「はぁ!?あんたそれが女子生徒にぶつかってきた人が言う言葉なの?」
ぶつかってきたのはお前だっつーの!
「あはは、だからごめんなさいって言ってるじゃないですか」
「ごめんなさいじゃ許されないこともあるの!はやく、私を保健室に連れて行きなさいよ!」
「なっ、そんな時間、俺にはありません!」
時間がないのは本当だ。このままでは入学式に遅れてしまう。
「なによ、あんた女の子をひとり、ここに置いてく気なの?最低ね……」
「くっ……あの、あなたも入学式に間に合わなかったら大変じゃないんですか?」
見た感じ、ここの制服を着ているからきっと新入生のはず。なのに、なぜこんな時間のかかることを……
「はぁ!?私は二年生だから入学式なんて関係ないのよ!」
「二年生って、先輩なんすかっ!?」
「なによ、あんた気づかないでそんな無礼を働いていたわけ?」
全然気づかなかった。
そういえばウチの高校は学校指定の制服でリボンorネクタイの色によって学年が分けられているんだった。ちなみに一学年は赤、二学年は青、三学年は黄色だ。
あの女の人がつけているリボンは青色、つまり二学年の先輩っていうことになる。
「そ、それじゃあ、先輩はなんでこんなところにいるんですか?ここは新入生だけが集まる式場ですよ?」
ここの高校は生徒人数が多く、入学式に全学年が集まるとかなり大変なため、新入生のみで行われることになっていた。
「そんなこと一々気にしてないで、はやく保健室に連れて行きなさいって!」
この人、全然話し通じないや。
「うん、それじゃ俺は入学式に向かうんでこれで失礼します」
なかば強引に話を終わらせる。
こんな頭のおかしい人に構っていられない。さっさと、式場に向かおう。
「あんた、どこ行くのよ!!」
制服の襟元を掴まれその場に引きずり倒される。
「ぐはっ、息が止まるかと思ったじゃないですか!」
さっきまで座り込んでいた先輩女子生徒はケガをしていることをすっかり忘れ、立ち上がり真守を見下していた。
「私を保健室に連れて行かなきゃ大変なことになるわよ」
倒れ込んだ真守に顔を近づけ脅す先輩女子生徒。
てか、全然立てるじゃねーかよ!!
「大変なことって何ですか?」
「この場で大声で泣いて、警備員にあなたを連行させてもらうわ」
「そ、そんなのってありかよ!」
「う、ううっ、本当に私泣くからね」
明らかなウソ泣き、だがここで大声を出されても困る。
「だぁ!わかりました、保健室連れて行きますから泣かないでください!」
結局俺は謎の先輩女子生徒を保健室に連れて行き、入学式に出ることを諦めた。
入学式を欠席し、遅れて教室に入る。それってつまり、俺の第一印象が終了ってことだった。
あぁ、終わった俺の高校人生。