15話 俺×生徒会室=自己紹介してもらいます。2
「まずは君から自己紹介してもらおうかな」
会長は190cmを優に越えているだろう巨漢を前に押し出し、自己紹介をするように指示をした。
「うっす、おいん名前は、三宝 用助じゃ。この生徒会では庶務を担当しちょる。よろしゅう頼み上げ申す」
おぉ、ゴリゴリの薩摩弁。そんな方言使われたらこの人が西郷隆盛に見えてくる。
角刈りで顔が大きく、見た目からして只者ではないような風格を見せる。威圧感とは少し違う、なにか圧倒されるような人だと察する。
「この三宝は3年A組で、一応、立派な高校生だから、そんな怖がらなくて大丈夫だよ」
「あ、はい……」
高校生なんだろうけど、念のために警戒はしておこう。
「次に、三宝と同じく3年A組の君、自己紹介を頼むよ」
「はい、かしこまりました」
会長が三宝を下げると、先ほど、真守に指をさし、敵対心むき出しだった女子生徒が前に出る。
「私の名前は、川崎 真琴と申します。この生徒会では書記を務めております。よろしくお願いいたします」
素っ気ない自己紹介。真守の存在が気に食わないと言わんばかりの態度を示す。
「この真琴君は少し不器用でね、これでも彼女なりに仲良くしようとしてるから、楽々浦君も遠慮なく仲良くしてやってくれ」
「えっ、あ、はい……」
会長、この人はそんなに仲良くなりたいとか絶対に思っていませんよ……だって、さっきから俺のことをずっと睨んでいるんだもの。
「なんで、私がこんな冴えない童貞みたいな男と仲良くならなきゃいけないのよ……」
「えっ……?」
川崎は真守にだけ聞こえるようにつぶやく。まさに確信的犯行。
会長!この人、怖いです!!
「それでは次も3年A組の君、自己紹介頼むよ」
「はい、会長♪」
直前に自己紹介した川崎の態度とは全く逆と言っていいほどの、とてもテンションが高いピンク髪のツインテール女子生徒が前に出る。
「コウコのフルネームは、祇園 紅子だよ♪この生徒会では会計を担当しているの!よろしくね楽々浦君♡」
祇園は自己紹介をすると同時に真守の手を握り、自分の胸元まで近づけた。
な、何なんだこの先輩は……まるでアイドルかの様な身の振る舞い。いや、アイドル級に可愛いから本物のアイドルに見えてくる。そんなの反則だろ。
「あっ、えっ、あっ、よろしくお願いしましゅ」
動揺が隠しきれないからか、川崎から言われた通りに童貞臭を醸し出してしまう。
「うふふ、楽々浦君、君ってすごく可愛い」
握った手を離さないまま、それを両手で包み込み、吐息が当たるぐらいまで顔と顔を近づける。
ち、近すぎる!?
顔が赤くなる。それは本人にもわかるぐらい、熱く火照っていた。
「おい、祇園君、そこまでにしといてくれないか」
会長が強引に二人の中に入り、祇園と真守を引き離す。
「あ〜もう、せっかく楽々浦君といい雰囲気だったのにー!!」
どうして生徒会の人たちは顔を近づけて話をするのか……
「まったく、君って人は……」
会長は呆れた様子で話を進める。
「よし、それじゃあ最後に自己紹介頼むよ!」
「最後…って会長、もう、この部屋に紹介する人なんていないですよ?」
目に見える範囲では会長含め、自己紹介を終えた4名しか映っていなかった。
「あはは、楽々浦君、君にはこの子が見えてなかったのかい?」
会長は後ろを振り向き、とても小柄な女子生徒を前に出す。それは突然のことで驚きを隠せず、口が開いてしまう。
おいおい、こんな子さっきまでいたのか?まさか、幻覚とかじゃないよな。
「ほら、一人で自己紹介できるだろ?頑張ってみな」
会長は金髪ショートカットの幼女に優しく問いかけた。
「か、薫、わ、わ、私、一人じゃ無理だよぉ」
そう言いながら彼女は、涙目になりながら会長の裾を握りしめる。
な、なんなんだこの可愛い子は……まさか、会長の隠し子!?
年を考えたらそんなことありえないと分かりきったことを脳内で考える。
「そんなこと言ってないで、ほら、楽々浦君は悪い人じゃないから」
「本当に……本当に悪い人じゃないの?」
おいおい、どうみても俺は悪人には見えないだろ……まぁ、目つきは人一倍悪いけどよ。
「ほら、楽々浦君が困ってるから、早く自己紹介するんだ」
「う、うん……薫がそう言うなら」
金髪幼女は覚悟を決めたのか、真守の前に立ち、深呼吸をひとつした。
「すぅー、はぁー……わ、私の名前は神楽坂 アリスです。みんなと同じく3年A組です。こ、この生徒会では副会長を務めています。さ、楽々浦君よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします……」
日本人ってか、ハーフ?だったのか。こんな小さくて可愛い子が先輩だなんて。
結局、最後までオドオドしたままだったが、なんとか自己紹介を終わらしたアリスはすぐさま会長の元へ行き、そのまま定位置の後方へと隠れた。
「っと、僕たち生徒会のメンバーはこんな感じかな」
会長はアリスの頭をポンポンと叩きながら自己紹介が全て終えたことを伝える。
「あ、あの、そう言えば2学年の先輩とかいらっしゃらないのですか?」
「あぁ、今のところ僕たちだけで生徒会は安定しているからね」
「じゃ、じゃあ、選挙とかして次の候補を決めるとかはいつ頃始まるのでしょうか?」
考察するに、全てが3学年、それに役職も一人が全て務めるなんて荷が重すぎると考えていた。普通ならば、先輩後輩と一つの役割の中でも分担をするものだと思っていたからだ。
「その件なんだが、少しこの学校は変わっていてな、生徒会選挙が"四月にも"あるんだよ」
「し、四月ってまだ新入生が入って間もないっていうのにですか!?」
高校に入学したばかりなのに、まだ誰も知らないはずなのに、なぜ、その中で信頼できる生徒に投票をしてくれと言っているのか真守には理解し難いことだった。
「あはは、楽々浦君、君はちゃんと人の話を聞かないとダメだよ?僕は"四月にも"と言ったんだ。つまり、生徒会選挙は2回行われるということだ」
「に、2回……?」
会長が何を言っているのか全くわからず、ハテナが脳内を覆い尽くす。
「つまり、わかりやすくいうと、1回目の選挙は下見みたいなもので、2回目ではその中でさらに生徒を絞り、選挙を行なっていくんだ」
「そ、それって、なんの意味があって2回も行なっているんですか?」
「まぁ、話せば長くなるんだが、とにかく今年は異例でね、生徒会への立候補数がとても多くて選考から手を焼いているんだ」
相変わらず、ずっとアリスの頭をポンポン叩く会長。一人だけ話についていけない真守は疎外感を感じながら、時間が過ぎるのをただ待っていた。