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俺×恋=0になります。  作者: 黒猫
第一章 俺×春=新しい出会いが待っています。
11/16

10話 俺×学生寮=自由にできません。

誰もいない教室から荷物を取り出し、下駄箱へと向かう。


「あの、本当に寮までついてくるの?」


真守は真希那と一緒に歩くことが恥ずかしいと思っている。


そりゃそうさ、こんなところ白ヶ崎に見られてみろ。勘違いされて、明日にでもクラスの話題のタネにされてしまう。まぁ、白ヶ崎に限らず同じクラスのやつだったらヤバいんだがな。


「そんなこと言わずにさ、腕組みしよーよ!」


「あの、本当にやめてください」


本当に話題のタネにされてしまう。それだけはなんとしても避けないとならない。


「あぁ〜、コラっ!離れて歩くな〜」


「嫌だ、俺は絶対にくっついて歩かない!」


「むぅ〜、もうまー君ったら照れちゃって」


真希那はそう言うと、真守の腕を無理やり捕まえ、自分の脇へと引っ張った。


「ちょ、ちょっと、真希ねぇ!?」


異様に距離が近い。さっきから俺の肘が真希ねぇの胸に当たり、気になってしょうがない。


「本当にやめてくれ!周りから勘違いされたらどうするんだよ!」


少し強めに叱る。叱ると言うよりかはお願いに近いのだが……真希ねぇはショックを受けたのかその場で座り込んでしまう。


「まー君の意地悪!私は一ヶ月もまー君を我慢したのよ?本当は会いたかったけど、まー君が引っ越して準備から何からまで忙しそうだったからお姉ちゃんは距離を置いていたのに……こんなのってひどいよ!まー君のバカっ、大嫌い!」


あはは、大嫌いになってくれるなら大歓迎なんだがな。


「あのさ、真希ねぇ、俺たちは姉弟なんだからさ、こういうのってやめた方がいいと思うよ」


「なにが姉弟よ!私はまー君が好きなだけなのに!!」


「あの、俺の話聞いてた?」


「まー君のバカ、バカ、バカ、バカっ!」


「うっ……」


このままじゃ埒が明かない。ここは俺が手を引くか……


「ご、ごめん真希ねぇ、ちょっと言いすぎたよ」


真守は諦めて真希那に手を差し伸べる。


「う〜ん、まー君、やっぱりだ〜い好き!!」


手を取るや否や、真希那は真守に抱きつき、結局、寮に着くまでくっついて歩くことになった。


「まったく、全然流れが読めない……」


さっきの涙はなんだったのか、きっと女性特有の嘘泣きというやつだろう。本当に俺は小さい頃から真希ねぇに振り回されてばっかだな。


真守は周りの視線を気にしながら廃れた町中を歩く。誰にも会うことはないだろうが、常に緊張した状態で歩くのも負担が大きいらしく、真守は極度の腹痛に襲われていた。


「ねぇ、まー君。なんでこの町はこんなにも人に会わないんだろうね」


「あぁ、そうだね」


たわいのない会話。真希那は気になった事を真守に聞く。だが、それどころではない真守は、一刻も早く寮に駆け込みたいのか少し早歩きになってた。


「ちょっと、まー君歩くの早すぎ!」


先に行ってしまう真守の袖を引っ張る。


「あ、あの、真希ねぇ。俺お腹痛いから先に寮の方に向かうよ」


申し訳なさそうにお腹を抑える真守。それとは御構い無しに真希那は真守の袖を掴んだまま歩幅を合わせる。


「じゃあ、まー君が早く歩くなら私も早く歩く!」


何だそれ……


「わかったからさ、俺の体はあんまり揺らさないでくれよ」


「もう、そこまでお姉ちゃんは意地悪じゃないわよ!」


そう言いながら真希那は真守の肩を強く叩く。


「そ、それは、やばいって……」


その場で座り込み緊急措置を行う。


「うぅ〜、真希ねぇ……」


「あ、ご、ごめん、まー君!」


そんなことを繰り返し、なんとか真守は肛門に力を入れたまま無事、寮の前まで辿り着いた。


「じゃあ、ここ男子寮だから真希ねぇは帰ってください」


「えぇ〜、姉弟なんだからそこらへんよくない?」


ここぞとばかりに姉弟ということを突きつけてくる。本当に都合のいい姉だ。


「本当にちょー怖い寮母さんに怒られるから」


「またまた、まー君はすぐ話を大袈裟にするんだから〜」


「いや、大袈裟とかじゃなくて……」


寮母のことは嘘ではない。


この八ツ星学園の学生寮では、伝説と言われた元生徒会長、現在の姿は八ツ星学園学生寮、寮母の咲木宮(さきみや) 麻衣(まい)が全てを仕切っている。


伝説と言っても、いろいろと諸説あるが、一番の伝説はこの八ツ星学園の偏差値をとんでもなく上げた張本人ということだ。当時の彼女は高校一年生ながら、ずば抜けた頭脳を持っていた。さらに先生の代わりをしていたほどに教えるのが上手い。そのため、自然に学校全体の偏差値も上がり、有名な進学校へと成長させたのだ。


他にも当時は柔道部に所属していて、全国を制覇したとか、女性初の生徒会長だったとか、数をあげるときりがない。


高校を卒業後は超一流大学に進学。そして、大学も既に卒業しており、進路先は誰もが一度は聞いたことのある超有名企業に就職するなど輝かしい人生を送っていた。


今はどうしているかって?


今は、その就職先の上司と喧嘩をしたらしくクビにさせられ、途方に暮れていたところを3年前に八ツ星学園の校長に寮母を勧められ、現在に至る。


そして、なぜこんな完璧な人が会社の上司と喧嘩になりクビにさせられたのかは、まだ誰も知らない……


「コラァー!男子寮に女を連れ込むとはいい度胸じゃねぇーか、楽々浦ァ!!」


まぁこれが原因だとは思うんですけど……


真守に大きな声で迫り来るのは例の寮母だった。片手にはお玉を持ち歩き、それを武器に風紀を乱すものを皆殺しにしているという。


「やばいっ、真希ねぇは逃げて!!」


「ひゃんっ!」


真守は真希那を押し逃がそうとした。しかし、押したところが悪かったのか、真守の手は真希那の胸の中にあった。


なぜ、こんなに大きんだ……


「もう、まー君ったら、だ・い・た・ん!」


完全に頭がお花畑モードに入ってしまっている。


「いいから、早く俺の手を離して逃げて!!」


必死にこの場を無かったことにしたい。だが、もう遅い。寮母は目の前に来てお玉を振りかざしていた。


「楽々浦ァ、お前公衆の面前で何やってるか分かってんのかぁ!?」


「ひっ、ひぃぃい!!」


首元を掴まれ、力ずくで正座させられる。


「しかも、自分の実の姉にだ、そんなわいせつ行為は見逃せんな!」


「す、すみませんっ!」


「お前の姉の頭がおかしいのは分かってんだから、お前がどうにかしてやんないとだろ?」


「はいっ、以後気をつけます!」


「なら、今回は見逃してやる」


「おぉ、誠にありがたいお言葉頂戴いたします!」


咲宮は真守の頭に軽くお玉を落とした。


「ところでさ、あんたも弟をあんまり振り回すんじゃねぇぞ?」


「うるさいっ、麻衣さんには関係ないでしょ!」


猛省の姿勢を見せつけた真守は、咲宮が真希那と既に顔見知りの関係など知る由もなく、ただひたすら土下座をしていた。


「ほら、楽々浦、いつまで頭下げてるのよ」


「えっ、あっ、すみません!」


真守は勢いよく立ち上がり、念を押すかのようにもう一度謝罪した。


「もう、まー君は悪くないんだから、謝らなくていいんだよ?」


真希那は真守の顔に手を当て、自分の胸元まで持っていく。


「ぼふっ、ま、真希ねぇ、苦じぃ……」


てか、真希ねぇのせいで俺が余計に怒られてるんだが……


また姉弟らしからぬ行為を目の前で見ていた咲宮は、我慢ができなくなり真希那の頭に勢いよくお玉を振り抜いた。


「いったぁ!!」


「コラっ、いつまでそんなことしてんだバカ姉が!」


「そんなぁ、麻衣さんの意地悪!」


真希那は涙目で頭を抑えなが咲宮に口答えをする。そんな"仲睦まじい?"二人を見て、ようやく真守は二人が知り合いなのかもと気づき、質問をした。


「えっ、お二人って知り合いなんですか?」


「知り合いも何も、まー君の引越しを決めた時から麻衣さんとは何度も顔を合わせてるわよ」


真希那はまだ痛いのか、お玉で叩かれたところを抑えながら返事をする。


「そうよ、あんたの姉さんが弟が心配って男子寮の周りを一ヶ月もずっとうろうろしていたから私がとっ捕まえたのよ」


「そうそう、それが私と麻衣さんの出会いってこと!」


つまり不審者と間違えられたってわけか。


「ま、真希ねぇったら……」


そんな出会い方あるのかと、少し呆れ気味の真守だが、逆にそこで知り合いになってくれたおかげで罪が軽くなったと思うと運が良かったのかもしれないと考えたりもする。


「それじゃあ麻衣さん、まー君は部屋に戻るのでこれで失礼しますね!」


真希那は真守の肩を掴み男子寮へと運ぼうとする。


「あぁ、別に実の姉を男子寮に入る分にはいいが……そういえば楽々浦の部屋はなくなったぞ」


咲宮から度肝を抜かれるような一言が発せられた。


「は、はい!?」


驚きの連発で腹痛だったことを忘れ、すっかりトイレに行かずに済んだ真守。


どうやら俺の部屋はなくなったらしい。それはどういうことが原因で、今後どうすればいいのかは全く見当のつかないことだった。

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