94.宝玉の奪取
まるで小枝のように飛んでいったイズミは、芝の上で一度跳ねてからゴロゴロと転がった。
爆発地点の地面は、芝ごとえぐり取られ、無残な姿を見せる。
宙を飛ぶ緑の混じった土が、横たわるイズミにも降り注ぐ。
彼女は、四つん這いになり、頭をしきりに振った。
だが、その左横でカナの球体が炸裂する。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
またもや、爆風が彼女を遠くへ放り投げる。
「いいぞ! もっとやっつけろ!」
「叩きのめせ!」
声援に背中を押されたカナは、左腕を動かし、イズミの近くへ狙いを定める。
「もうやめろ! 危険行為だ!」
「殺す気か!」
どちらのファンかわからない声が、カナの左腕をつかむ。
(何やっているだろ、私……。
友達を、苦しめている)
後悔の念に駆られたカナは、今一度、グラウンドを見つめる。
緑のカーペットに開いたクレーターのような穴から、褐色土のような地肌が覗いている。
自分が、友達を倒すために、ここまでやらなければいけなかったのか?
「何ボーッとしているの!?
あと一発!
決着をつけなさい!」
リンの叫び声が、カナの頬を叩いた。
(そうだ、これは試合よ!
全力を出し切ることが、イズミへの礼儀よね!)
カナは、再び四つん這いになったイズミに向けて左腕を突き出した。
(イズミ、ごめんなさい!)
「――爆破!!!」
力強い詠唱の直後に、カナは目をつぶった。
耳を塞ぎたくなる爆発音。
振動は空気を伝って、カナを震わせる。
力が入ったので、今までで一番威力が大きい。
とその時、
ドクン!
胸の谷間付近で、大きな鼓動がした。
ドクン!!
二度も。
続けて。
カナは、極寒に吹く風が全身を撫でたように感じた。
(まさか――)
三度目を覚悟する。
だが、さらなる鼓動は起きなかった。
再び耳を叩く野次に、カナは我に返る。
下を見直すと、三つめの大穴がグラウンドに開いている。
近くでうつ伏せになったイズミの背中に、容赦なく芝と泥が降り注ぐ。
彼女は、今度は動かない。
それを見たカナは、心臓が凍りそうになった。
特大の爆発で、手足がもぎ取られていないか、心配になる。
急いで彼女の所へ急降下した。
3メートルほど離れて、彼女の右側に着地。
そこで、少し腰を落として声を掛けてみた。
「イズミ! 大丈夫!?」
その声で意識を取り戻したのか、イズミの頭がユラリと動いた。
カナは、胸の谷間に手を当てながら、さらに近づく。
「大丈夫!?」
イズミは、心配で声を掛けるカナを一瞥もしない。
それより、うつ伏せのまま、左手をミニスカートのポケットの中に突っ込んだ。
カナはその動作で、彼女が隠し持っている宝玉のことを思い出す。
(えっ!? 今から封印!?)
カナは、一歩後ろに下がった。
忙しく何かを探していたイズミの左手が、ポケットから出てきた。
しかし、何も握っていない。
彼女は手のひらを見た後、ゆっくりと左横から左上へ視線を移していく。
(ポケットの外に出たんだ!)
カナも一緒になって、イズミの視線の先を追う。
すると、イズミの頭の左上方向、およそ2メートル離れたところに、赤く輝く丸い物が転がっているのを発見した。
イズミは、その丸い物に向かって這っていく。
あれが宝玉と確信したカナは、左手を伸ばして走った。
そして、イズミを飛び越え、宝玉をつかみ取る。
その直後、イズミの左手が虚空をつかんだ。
「こっちにパス、パス!」
左側から聞こえてきたリンの叫び声に、カナは振り向く。
そこでは、宙に浮いたリンが、万歳の格好で前足をしきりに振っていた。
とその時、右足、そしてミニスカートの右側が誰かに捕まれる。
ビックリしたカナが、右下を向くと、イズミが腕を伸ばしてつかんでいるではないか。
慌てたカナは、手首のスナップを活かして、宝玉を放り投げた。
「お願い!」
放物線を描いて宙を飛ぶ宝玉を、リンは口で見事にキャッチする。
それは、リンの口からちょっとはみ出る大きさだ。
「よろしく!」
「フガフガ!」
空中高く飛び去るリンを、カナは見送った。
と突然、
「させない」
「えっ?」
後ろから聞き覚えのない声を掛けられたカナは、両肩を捕まれた。