87.準決勝 第一試合
その後、式神をやっつけたと意気揚々と引き上げてきたルクスが、リンに散々絞られている頃、準決勝の取り組みが発表された。
第一試合は、蜂乗カナ対五潘イズミ。
会場は、大きくどよめいた。
大方の予想では、決勝戦で二人が当たる、と言われていたからだ。
だが、決勝戦でヤマト国の魔法少女同士が当たると、ヤマト国以外の諸国のファンから不評を買うから、当たるなら準決勝という予想もされていた。
これは、本部の抽選の方式が意図的であると、感づかれていた証拠でもある。
この取り組みは、ヘルヴェティア王国の視聴者を熱狂させた。
第二試合でカトリーン・シュトラウスと当たる相手は、アメリゴ共和国代表で馬鹿力の魔法少女。
彼女は、魔法をほとんど使わず、素速い動きと腕力と拳だけで勝ち上がってきたので、それさえ封じれば楽勝と思われたからだ。
それは、ヤマト国側も同じ。
カトリーン・シュトラウスが九割九分勝つ、と誰もが思っていた。
なので、準決勝の焦点は、第一試合となった。
実力派同士なので、大いに注目され、視聴率もぐんぐんと伸びていく。
大会本部も、ホッと胸をなで下ろした。
だが、気が気ではない者たちもいた。
蜂乗家の人々。
そして、七身カズコである。
イズミは、炎竜の覚醒を諦める、とマイコとカズコに言っていたが、二人は彼女を完全には信用していない。
後ろに、十一姫がいる以上、只では済まされない、と思っていたのだ。
周囲の様々な思惑と違い、カナは複雑な思いだった。
イズミが、炎竜の覚醒を狙っている。
封印するための宝玉を渡されているらしい。
リンの話では、その宝玉は魔法を無効化する。
つまり、現時点で、イズミは最強の防御を得ていることになる。
さらに、胸の谷間付近でまた始まった鼓動。
十一姫が、去り際に、何かの魔法を使って、鎮められたはずの炎竜を揺り動かしたかも知れないのだ。
カナは、ダグアウトのベンチに座り、ミニスカートから出ている膝頭に目を落としていた。
リンは、宙に浮いたまま、カナの顔を覗き込む。
両隣にいるルクスもハウプトマンも、カナの方を向いた。
「元気ないけど、大丈夫なの?」
「おいおい。不安なのかよ?」
カナは、リンとルクスの問いかけに、無言を貫く。
「しっかりしなさいよ」
「まさかと思うけどよ――」
その言葉にルクスの方へ顔を向けるカナは、眉根を寄せる。
「腹減ってるとか?」
カナは、急に吹き出し、グラウンドの方へ向き直った。
「うん、ちょっと減ってるかも」
「よし、何がいい?
握り飯か? サンドウィッチーズとか」
「それを言うなら、サンドイッチ。
ウィッチーズじゃ、魔女みたい」
「おお、そうだな。
んじゃ、ひとっ走り――」
「あ、始まるから、いらない。
行こう、リン」
開始のファンファーレが鳴り響く中、カナはゆっくりとグラウンドに出た。
ひときわ大きなカナコールが巻き起こる。
だが、それはすぐ、イズミコールにかき消された。
カナは、グラウンドに出たイズミを遠くに見る。
イズミは立ち止まった。
こちらを見ていると思うが、表情は見えない。
しばし立ち尽くす。
そして、二人は、同時に歩み始めた。