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魔法少女と黒猫リン  作者: s_stein
第一章 魔法少女世界選手権大会

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86.偽アンドロイド

 スタッフ姿のアンドロイドは、結界を難なく越えて、足を踏み入れた。


 カナは立ち上がって、更衣室の奥へ走る。


 リンは宙を飛び、カナを背にする位置に移動する。



 それを見たアンドロイドは、更衣室の中央付近まで突き進む。


 だが、突然、立ち止まった。


 リンが、前足を横に広げて、通せんぼのポーズを取ったからだ。



「このリン様の強力な結界の中へ堂々と入ってくるとは、自分はアンドロイドではありません、偽物ですよって言っているようなものね。

 あんた、名前は?」


 アンドロイドは、無表情の顔で答える。


加古井(かこい) 奈補(なほ)


「かこい なほ?

 ……逆から読んだら、『ほないこか』じゃない。

 冗談も言えるのね、(くのつぎ)一姫(いつき)


「なあんだ、最初から知っていたのね。

 さすがだわ。

 だてに五百年も生きていないって?」


「魔女には臭いがあってね。

 あんたの場合、血の臭いがするから、すぐわかるわよ」


「あらあら、魔女殺しは、最近やっていないわ」


「洗っても拭えないほど、染みついているのよ。

 それにしても、外で白猫が見張っていたはずなのに、よくくぐり抜けたわね」


「ああ、あの使い魔?

 式神を放ったら、一目散に追いかけていったわ。

 ネコまっしぐらに」


「あいつぅ!」


 リンは、右の前足を振り上げた。


 白猫とは、もちろん、マコトの使い魔のルクスだ。


「私は、その子に用があるの。

 どいてくださらない?」


「指一本、触れさせない。

 魔法も使わせない」


「ちょっと、励ましの言葉をかけるだけよ」


「呪詛の言葉を発したら、食い殺すわよ」


「おお、怖っ……」


「それより、イズミという魔法少女を利用して、炎竜の覚醒を狙っているわよね?」


「利用だなんて、人聞きの悪い。

 あの子だって、覚醒を望んでいるのよ」


 とその時、カナの心臓がズキンと跳ねた。


「それは嘘。

 あんたが、覚醒を指図した。

 イズミはしっかりしている子だから、おそらく、弱みを握って強引にね」


「そっちこそ、見ていたかのような嘘を、よく言うわ」


「覚醒したら封じ込める宝玉はどこ?

 あんたが四十年前に奪った宝玉よ。

 持っているんでしょう」


「それは、持っているわよ」


「じゃあ、今すぐ、ここで見せなさいよ」


「それはできないわ」


「なぜ!?」


「どうしても」


「ふん、……どうせ、今ここに持ってきていないからそう言うんでしょうね。

 あらかた、イズミに持たせたんでしょう?

 覚醒したら、ここに封じ込めろって」


 またカナの心臓が跳ねた。


「さあ、どうなの!?」


「……ふふふ」


「何がおかしいの!?」


「ハハハハハハ!!

 さすがは、中世の魔女狩り/黒猫狩り時代の生き残り。

 推理力は抜群。

 恐れ入谷の鬼子母神」


「やっと認めたわね。

 イズミ側の準備が整ったから、今度はこちら側に来て、試合中に発動する呪詛を――」


「呪詛なんて、今は使っていないわよ。

 普通に、ちょっとした魔法をかけるだけ。

 元気が出る魔法を」


「させない!

 ハウプトマン!」



 リンが、マイコの使い魔の名前を叫んだ。


 すると、扉の隙間から、一筋の黒い煙が入ってきて、たちまち大型犬の形状になった。


 (くのつぎ)一姫(いつき)は、背後に使い魔が出現したので狼狽えた。


「前門の虎、後門の狼。

 これでは勝ち目がないわね」


「こんなこともあろうかと、周囲を二重に固めていたの。

 白猫が持ち場を離れたら来るように、とね。

 さあ、私たちを相手に戦える?

 ここから大人しく出て行く方が身のためよ」


「仕方ないわね。

 では、さようなら」



 右腕を高々と上げた(くのつぎ)一姫(いつき)は、パチンと指を鳴らした。


 すると、全身が煙のようになって、空気に溶け込んだ。



 と同時に、カナは、胸の谷間付近でドクンと鼓動が聞こえた。


 彼女は目を見開き、両手で胸を押さえる。



「やれやれ、とんだ闖入者ね」


 リンは、カナの方へ振り返った。


「心配することはもうないわよ――って、どうしたの?」


「ううん、何でもない」


 カナは、慌てて両手を後ろに回し、無理して微笑んで見せた。


「顔色も……あまりよくなさそうだけど」


「だ、大丈夫。

 それより、トイレ!」


 カナは、駆け足で更衣室を出て行った。


「胸が痛くなると、トイレへ行くのかしら?」


『さあな』


 ハウプトマンは、首を傾げた。


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