76.覚醒寸前
階段の途中では、スタッフに化けた式神が何体も出現。
しかし、二人はこれを、難なく撃退。
だが、階段を駆け上がるという肉体行動には、得策がなかった。
二人はようやくの思いで十四階にたどり着く。
「はあはあ……」
「少しは痩せた?」
「はあああ? …………この程度の戦いで……痩せるわけ……ないでしょ!」
「人に何でもやらせるからよ。
体がなまっていることを、実感した?」
「昔から……マイコに付き合うと……ろくなことないわ!
ホント……なんて日よ!」
「文句言わない」
「こんなことに……なるんだったら……箒を持ってくれば良かった」
「そうね。
でも、まさかこんなことになっているとは思わなかったから――」
「こんなに……体力を消耗して……炎竜を封じ込めることが出来るのか……心配」
「大丈夫。魔力を消耗していなければ」
「今度は……どこでも移動魔法を習得しておくわ」
「それ、めちゃくちゃ魔力を消費するから。
漫画のようにはいかないわよ。
……さてと」
マイコは、壁に張り付き、廊下へソッと顔を出して、左右の様子を窺う。
「向こうに、使い魔の臭いがする。
行くわよ」
「マイコって、昔から、ホント、鼻が利くから感心するわ。
犬並みね」
「魔力には、一種の臭いがあるの。
これは、普通の犬には、感じないはず。
だから、犬以上よ」
「一度、魔力を臭いで感じたいわね。
いい香り? それとも臭い?
……ちょ、ちょっと待って!」
ずんずん歩いて行くマイコに、カズコが慌てて追いかける。
「大丈夫なの!?」
「この臭いは、うちのケル兵衛のもの」
そう言ってマイコは、廊下を左へ曲がった。
「あっ、マイコ様」
マイコの姿に気づいたケル兵衛が、声を上げる。
「ご苦労さん」
「お嬢様たちは、全員、中に」
それから、ケル兵衛は、スタッフに化けた式神を十体ほど倒したこと、倒れると砂のように崩れてから消えてしまうことを、手短に伝えた。
「一階や階段にいたのも、同じ式神よ。
まだ残党がいると思うから、注意して」
ケル兵衛に警備を継続するよう伝えたマイコは、カズコを連れて部屋の中へ入っていった。
二人が部屋の中の結界を通り抜けると、ミナとマコトとイリヤが、ベッドのそばで跳び上がらんばかりに驚いた。
母親だけではなく、大会の主催者である七身カズコまでいるからだ。
「お母様。カナはこちらです」
そう言って、ミナは後ろに下がった。
マコトとイリヤも、彼女に合わせて後ろに下がった。
三人の間から現れたのは、ベッドの上で、目を閉じて横たわるカナ。
口を開けて、肩で息をしている。
時々、全身が痙攣する。
目が半分開き、左手で虚空をつかむ真似をする。
「ミナ。息づかいが荒くなったのは、いつから?」
「3分前からです」
「ちょっと、まずいわね。
足止めを食らっていなければ、ここまでならなかったのに……。
さあ、行くわよ、カズー!」
「りょーかい……っとぉ!
いっちょ、やるわよ!」
カズコは、右手の拳を堅く握り、それで左手をパンパンと叩いた。




