75.式神の襲来
「他のスタッフが、気づいて駆けつけて来たわ。
私たちは急ぎましょう!」
「え、……ええ」
カズコは、足早に去って行くマイコの背中とフロントを交互に見る。
しかし、二人の間が5メートル以上も離れると、磁石に吸い寄せられるがごとく、加速して後を付いていった。
「急いで!」
「ちょっと待って!
ねえ。逃がしていいの?」
「一般人の命を守るためだから、あれは仕方ないわ」
「それもそうね」
「――こっちよ!」
「待って、待って!」
「カズーは、体が重そうね。
もっとダイエットしなさい」
「魔力をため込んでいるからよ」
「脂肪に?」
「うるさい!」
二人は、エレベータホールにたどり着いた。
到着待ちの人々の目を楽しませる絵画と生け花がある空間には、誰もいなかった。
ちょうどその時、高層階行きのエレベータのドアが一箇所、チーンという音とともにゆっくりと開いた。
二人は、そこに駆け込む。
ところが、中には、恐ろしく背の高いドアマンが五人も立っているではないか。
ギョッとした二人だが、彼らは今から降りるのだろうと思ったマイコは、開ボタンを押した。
ところが、五人ともドアの向こうへ目をやったまま、動こうとしない。
マイコは眉をピクリと動かし、開延長ボタンを押してカズコの袖を左手で引っ張った。
「カズー。今すぐ降りるわよ」
「何よ! 重量オーバーって言いたいの!?」
それには答えないマイコは、カズコを引っ張ったまま、扉の外に出て三、四歩走る。
すると、ドアマンが一斉に、一歩前へ足を踏み出した。
マイコは、即座に振り返り、右手を突き出す。
「――消滅!」
彼女の略式詠唱で、ドアマンたちの胸の前に赤い魔方陣が出現。
その刹那、彼らの体は砂のように崩れ、胸の中から出てきた人型の何かが燃え上がった。
「おかしいと思った!
だって、玄関にいるドアマンが、なんでここに大挙して――」
「カズー。言い訳しないで、おかしいと思ったら、すぐに行動しなさい。
このホテルは、式神だらけよ、おそらく。
……ったく、古風な魔法を好む年寄りね」
二人は、別のエレベータの扉が開いたので、用心しながら乗り込んだ。
幸い、中は空だったが、今度は、閉ボタンを押してもドアが閉まらない。
「カズー! 時間稼ぎされている!
これは、まずいわ!
階段で行くわよ!」
「ええええええええええっ!!」
カズコは、大げさに天を仰いだ。